監督:内山拓也 2020年11月にパルコから配給
佐々木、イン、マイマインの主要登場人物
石井悠二(藤原季節)
主人公。山梨県出身で役者を目指すフリーター。目の前の厄介事を先送りにしてきた。
佐々木(細川岳)
石井の高校時代の親友。高卒でパチプロを自称する。おだてられると何でもやるお調子者。
ユキ(萩原みのり)
石井の元カノ。お酒と夜遊びが好き。
多田(遊屋慎太郎)
石井の高校時代のクラスメート。就職・結婚と堅実に進める。
須藤(村上虹郎)
石井の後輩。映画やドラマの端役をこなしながら脚本も書く。
佐々木、イン、マイマイン の簡単なあらすじ
高校生の時に仲の良かった石井悠二と佐々木も、卒業した後は少しずつ疎遠になっていきます。
佐々木は全国を放浪しながらギャンブルに明け暮れる日々で、役者になるために上京して来たはずの石井も言い訳ばかりをしていて一向に芽が出ません。
石井にようやく舞台俳優としての道が開けてきた頃に、佐々木は人知れずに病気でこの世を去っていくのでした。
佐々木、イン、マイマイン の起承転結
【起】佐々木、イン、マイマイン のあらすじ①
高校のバスケットボール部を辞めてからスポーツにも勉強にも身が入らない石井悠二は、クラスでも人気者の佐々木と意気投合しました。
とにかく目立つことが大好きで、「佐々木、佐々木、佐々木」と周りからはやし立てられると教室でも女子の前でもお構い無しに服を脱いでしまいます。
佐々木の家は自然と悪友たちのたまり場になっていき、唯一の肉親である父親はめったに家に帰ってきません。
石井が東京と俳優に憧れ始めたのも、美術部に所属していて絵画だけでなく古い映画にも詳しい佐々木に勧められたからです。
高校3年生の3学期になってそれぞれが受験や進路で慌ただしくなる中、佐々木だけが学校に姿を見せません。
担任の先生が言うには父親が亡くなったそうで、何事もなかったかのように登校してきた佐々木に級友たちは気を遣ってばかりです。
裸になって披露する佐々木のパフォーマンスにも、以前のようなキレがありません。
お互いに何となく気まずく距離を置いたままで、石井と佐々木は卒業式に参加します。
【承】佐々木、イン、マイマイン のあらすじ②
大学に進学せずに生まれ育った甲府を飛び出した石井は、新百合ヶ丘駅から歩いて15分くらいのところにあるアパートを借りました。
間もなくユキという女性とふたりで暮らし始めますが、交遊関係が派手な彼女は週末になると外で遅くまで飲み歩いています。
俳優業だけでは到底生活していけないために、工場で洗剤の箱を組み立てる単純な作業のアルバイトを続けなければなりません。
しばらくは連絡を取っていなかった佐々木とは、お墓参りで帰省した時に5年ぶりに再会します。
つい最近まで沖縄にいたという佐々木は、お酒の席で傷害事件を起こして相手にケガを負わせてしまい何とか示談に持ち込んだそうです。
いま現在ではパチンコで生計を立てていて、月に30万ほど稼いでいると自慢気に話していました。
開店前の列並びでケンカになったり、隣の席に座っていた初対面の客に大金を貸したりと相変わらずの破天荒です。
真っ当な大人になるつもりも働くつもりもないという佐々木は、高校生の頃から成長していません。
【転】佐々木、イン、マイマイン のあらすじ③
恋人としてはとっくに終わったはずの石井とユキでしたが、それぞれの新しい部屋が見つかるまで惰性的に同せいを続けていました。
嫌々ながらも通っていたバイト先では、飛び込みでやってきた多田という営業担当者に声を掛けられます。
高校の時に同じクラスで佐々木を交えて3人で遊んでいた仲で、正社員は大変だけどやりがいがあるという多田は結婚生活の方も順調そのものです。
仕事が終わった後で居酒屋に誘われた石井は地元に帰ることを考えていると打ち明けてみると、多田からは厳しい言葉が返ってきました。
俳優としてもユキとの関係にも全力を注いでいなかったことを痛感した石井は、年下の俳優仲間・須藤に会いに行きます。
石井の芝居が大好きだという須藤が紹介してくれたのは、テネシー・ウィリアムズの戯曲を自らがアレンジした舞台劇「ロング・グッドバイ」です。
主人公は売れない小説家で長年に住んでいたアパートを間もなく引っ越しする予定で、今の石井が演じるのはこの役しかありません。
【結】佐々木、イン、マイマイン のあらすじ④
27歳の誕生日を迎えた石井が公演に向けて舞台稽古に励んでいると、ひと足先に次の住まいを見つけたユキは自分の持ち物をダンボールにまとめ始めました。
明日には業者に荷物を引き渡すという夜遅くに石井のスマートフォンに佐々木の番号で電話がかかってきましたが、聞こえてきたのは苗村と名乗る女性の声です。
次の日の朝には佐々木のお葬式が行われると聞いた石井は、引っ越しをキャンセルしたユキの運転で佐々木の家に向かいます。
カラオケボックスでナンパされたのがきっかけで佐々木の家に出入りしていたという苗村の話では、末期ガンを宣告されてからも延命治療を拒んで自宅で療養していたそうです。
遠方に住んでいてほとんど面識がなかったという親戚によって執り行われた葬儀には、苗村の他には石井や多田など高校の時の友人が数人ほどしか参列していません。
今にも佐々木が息を吹き返して全裸で踊り出すような気がした石井たちは、「佐々木」コールを連発しながら出棺を見送るのでした。
佐々木、イン、マイマイン を観た感想
20代の半ばを過ぎて同世代が次々と職場でもプライベートでもステップアップしていく中で、いまだに何も成し遂げていない主人公・石井悠二の焦燥感が伝わってきます。
別れたはずの彼女・ユキとひとつ屋根の下で過ごしながら、きっぱりと関係を清算していない優柔不断さが焦れったいです。
日常のふとした瞬間に学生時代の楽しかった思い出に浸ってしまう、モラトリアムな性格も憎めません。
そんな石井にとっては佐々木は大切な友だちでもあり、自由と夢の象徴のような存在だったのでしょう。
青春時代の終わりを告げるようなもの悲しいクライマックスの中でも、心の中で佐々木にエールと感謝を送りたくなりました。
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