監督:深川栄洋 2015年10月にクロックワースから配給
先生と迷い猫の主要登場人物
森衣恭一(イッセー尾形)
主人公。引退後も「先生」と呼ばれている。味覚が鋭く好物はクロワッサン。
森衣弥生(もたいまさこ)
恭一の妻。故人。動物が好きで穏やかな性格だった。
松川真由美(北乃きい)
恭一の元教え子。家業を手伝いつつ復学も考えている。
小鹿祥吾(染谷将太)
恭一の数少ない友人。市役所に勤務しながら認知症の祖母の面倒を見る。
井上容子(岸本加世子)
弥生が行き付けにしていた美容院「それいゆ」の店主。よく笑い話し好き。
先生と迷い猫 の簡単なあらすじ
退職した教師の森衣恭一は常に態度が尊大で人付き合いが悪く、亡くなった妻の弥生がかわいがっていた猫のミイを自宅から追い出してしまいました。
いなくなった途端にさみしさと不安に襲われて、町の人たちと協力しながら行方を追い始めます。
ミイは見つかりませんが、恭一は少しずつ外の世界に感心を向けつつ他人に心を開いていくのでした。
先生と迷い猫 の起承転結
【起】先生と迷い猫 のあらすじ①
校長を退職した森衣恭一は、妻の弥生と死別した後も地元の富士見町3丁目にある一軒家でひとり暮らしをしていました。
家の近所を歩き回って趣味の写真撮影に興じたり、出版される予定のないロシア語の小説を翻訳しています。
時おり訪ねてくるのは市役所で郷土史の編集をしている若者・小鹿祥吾と、弥生が生前にかわいがっていた1匹の野良猫くらいしかいません。
メスの三毛猫で体重は4キロくらい、胴体の模様はうす目でしっぽはトラ目柄、赤色の首輪に金色のチャームが付いていて弥生がつけた名前は「ミイ」です。
美容師の井上容子は自分のお店の中でお昼寝させてあげていて「タマ子」、実家のクリーニング店で働いている松川真由美は休み時間にご飯をあげていて「ソラ」、女子学生のさぎりは放課後のバス停で今日1日の出来事を報告していて「ちひろ。」
町のみんなで代わり番こに面倒をみている「地域猫」なために、決まった名前もなく特定の飼い主がいる訳ではありません。
【承】先生と迷い猫 のあらすじ②
ミイが勝手に弥生の仏壇の前にちょこんと座っているために、恭一は台所の窓をふさいで出入り禁止にしてしまいました。
それでもガラス窓を爪でひっかいって鳴いているミイに向かって、恭一は「二度と来るな」と怒鳴ります。
それからミイは1週間以上たっても、富士見町の住民の前に姿を現しません。
隣町の小川町では猫がカッターナイフで切りつけられたり、ダンボールに入れられて清美川に流される事件が多発しているために気が気ではありません。
恭一はミイの行動範囲かと思われる、半径500メートル以内をくまなく探し始めます。
環境衛生課に勤めている小鹿の同僚の話では、かなりの数の野良猫が保健所に持ち込まれているそうです。
バスに乗って5駅ほど離れたところにある保健所まで足を運んでみましたが、ミイらしき猫は見当たりません。
店先に貼り出されていた訪ね猫のポスターを見た恭一は、以前に撮っていたミイの写真を1枚井上に提供します。
車にひかれたのではないかと心配している真由美も、手助けを申し出ました。
【転】先生と迷い猫 のあらすじ③
真由美は町内会や商店街に頼んで掲示板にポスターを貼って回り、恭一は「ミイ」だけでなく「たま子」や「ソラ」などさまざまな呼び名を試してみました。
よその家の屋根の上でミイを一瞬だけ見かけた恭一は電信柱にのぼってカメラを向けますが、タイミングが悪くパトロール中の警察官と鉢合わせをしてしまいます。
盗撮犯と誤解されて警察署に連行されてしまい、身元引受人を頼めそうなのは小鹿くらいしか思い浮かびません。
夜間に繁華街をうろついていたとして、署内の生活課に補導されていたのはさぎりです。
港の稲荷神社で開かれているという猫の集会所に行くためで、夜遊びをしていた訳ではありません。
学校でずっといじめを受けていたこと、道路に飛び込んで自殺するつもりだったこと、直前になって1匹の猫が足にまとわりついてきたために思い止まったこと。
さぎりから命の「恩猫」について聞かされた恭一は、新たに「ちひろ」の呼びかけをプラスして神社へ向かいます。
【結】先生と迷い猫 のあらすじ④
つかれはてた恭一が神社の境内で仰向けに寝っ転がっていると、井上たちも合流してきました。
ミイを見つけられるか不安になっていた恭一に、「先生ならやればできる」と井上は水筒のお茶とおにぎりをそっと差し出します。
真由美は卒業する時に恭一から「愛感同一」と書かれた色紙を受け取っていましたが、辞書を引いても人に聞いてもその意味が今日まで分かりません。
頑張りなさいというメッセージを込めた「I can do it(やればできる)」というダジャレだったと、恭一は恥ずかしそうに告白しました。
またしても恭一が警察の厄介になっているのではと小鹿も顔を出しますが、その場で真由美にひと目ぼれしてしまいます。
猫の毛が苦手でくしゃみが止まらないアレルギー体質にも関わらず、明日の夜からは捜索のメンバーに加わるつもりです。
自宅に帰った恭一はひとり明かりの消えた家の中で、「猫が嫌いな人は人生の楽しみを知らない人」という弥生の言葉を思いだすのでした。
先生と迷い猫 を観た感想
世の中の流れに逆らいながら生きる孤高の主人公・森衣恭一に、ひとり芝居の先駆者であるイッセー尾形を配役しているのが心憎いですね。
2005年に公開されて昭和天皇を演じた「太陽」以来、実に10年ぶりの映画主演ですが威厳をたたえた表情とピンと伸びた背筋は衰えていません。
孤独な森衣と1匹の猫がきっかけで交流を深めていく、個性的でにぎやかなご近所さんたちには癒やされます。
現役の頃には生徒を教え諭す立場だった森衣が、彼ら彼女たちから小学生のように叱られてしまうシーンもユーモラスでした。
果たして先生と迷い猫が再びめぐり合う日は訪れるのか、すべてを映画を見た人に委ねるようなクライマックスも心地よかったです。
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