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おかかのおにぎり
湊の身体に入る黒松と渚の二人は、電車を降りてコンビニに立ち寄ります。渚は湊に向かっておにぎりを取って欲しいとねだります。黒松がいつも食べている具材でないおにぎりを取るので、渚は『それじゃなくておかかだよ!』と否定します。渚はおにぎりを手にして屈託のない笑みを見せました。家までの帰り道は、黒松には分かりません。家とは真逆に歩き出した黒松を、渚が『おにいちゃんどっちいくの?こっちのほうがちかいよ』と教えます。黒松は『今日は渚が先歩いていいぞと』と誤魔化し、渚は喜んで先に歩きました。
黒松の身体で渚を追う湊は、突然誰かに指名手配犯だと気づかれ騒がれるのではないかと緊張します。電車の乗車客の何気ない会話が、自分を疑っているように感じられ不安でした。自宅の最寄駅に電車が到着すると、すぐさまホームへ飛び出しました。至る所に設置された監視カメラが、自分を捉えていると感じます。怖くて怖くて仕方ありませんでした。手配写真と異なる変装をする為、近くのコンビニで湊はサングラスを購入します。腹が鳴りお腹が空いたなと考え、渚もお腹を空かしているのではないかと心配しました。おかかのおにぎりを買って自宅へ向かいます。
黒松の身体でフタバと遭遇
湊は黒松の身体のまま自宅へ入ってしまおうかと考えました。しかし、アパートの前にフタバがいた事で足を止めます。フタバが近寄ってくる男に気がつき、二人は目が合ってしまいました。湊は咄嗟に通行人を装い、自宅を通り過ぎて立ち去りました。フタバは『何だろ?今の男何見てた?湊君ち?…あたし?』と、目のあった男の事を不審に思いました。
自宅から離れたベンチで休憩し、湊は時間を潰します。目が合ってしまったけれど、きちんと誤魔化せたのか不安になりした。しかしながら、フタバが家に訪問していた事で、湊は少しは安心できました。
黒松の素性
今のうちにこの男についてもっと調べようと、カバンを漁ります。一束百万円と思われる一万円札の束は十個以上ありました。それから化粧品、女性ものと思われるブランド物の財布が入っています。財布の中に免許証はなかったので、男が捨てたのかもしれません。今度は入っていた色違いの携帯を覗き見ます。けれど、どちらも”椿”と登録された人物の履歴しかありません。”仕事”用に見受けられました。次にポケットを探ると、この男のものと思われる免許証とプラスチックの札がついた鍵を見つけます。免許証記載の名は”田北知広(たきたともひろ)”で、東京都中野区野方に住所がありました。本人の本物の免許証だと思われます。本名ならこの名は使えないなと思い、全身黒尽くめの男なので”黒田”と名乗る事に決めます。湊は免許証と鍵を元に戻し、再び自宅へ向かいました。
二つの案
黒松はリビングに腰を下ろして、『汚ねえ家だが、まあ中淵のトコとさほど変わらねえか…』と思いました。すると、扉をノックする音がします。側にいた渚が黒松が止める前に扉を開けてしまいます。フタバが現れ『煮物いっぱい作ったから持ってきたよ!』と、ラップをしたどんぶりを差し出しました。渚は無邪気に喜び、お礼を言います。黒松はフタバへの”本来の”接し方が分からず困りました。湊が普段使わないような言葉遣いで接してしまい、フタバには『何?湊君もしかして思春期?』と揶揄われます。やりとりに面倒くさく感じながらも、黒松は適当にその場をやり過ごしました。
黒松には二つの案がありました。A案は湊の過去を一切消去した上で、別の場所に移り一からやり直すというもの。B案は湊という人間を学習してこの環境に適応し、独り立ちできるまでここで生活するというもの。A案への切り替えはいつでも可能な為、黒松はB案を試してみる事にします。第5話 後編へ続きます。
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