【ネタバレ有り】共喰い のあらすじを起承転結でネタバレ解説!
著者:田中慎弥 2012年1月に集英社から出版
共喰いの主要登場人物
篠垣遠馬(しのがきとおま)
17歳になったばかりの高校生。
会田千種(あいだちぐさ)
遠馬の彼女。18歳の女子高校生。
篠垣仁子(しのがきじんこ)
遠馬の母。川向かいの魚屋で独りで暮らす。
篠垣円(しのがきまどか)
遠馬の父。
琴子(ことこ)
円の同棲相手。
共喰い の簡単なあらすじ
17歳の篠垣遠馬は父親・円に嫌悪感を抱きながらも、父の愛人の琴子と3人でひとつ屋根の下で暮らしています。恋人・会田千種との関係に溺れていく中で、次第に自分自身に隠された暴力的な本性について気付き始めていくのでした。
共喰い の起承転結
【起】共喰い のあらすじ①
昭和63年の7月、篠垣遠馬は17歳の誕生日を迎えました。
その日の授業が終わると遠馬は自宅に戻ることなく、ひとつ年上で別の学校に通っているガールフレンド、会田千種の家へと向かいます。
国道沿いのバス停で下車して雑居ビルや古い日本家屋が立ち並んだ路地を抜けると、遠馬や千種の住む川辺と呼ばれる地域です。
途中で魚屋の前を通りかかった遠馬は、黒い前掛けを装着して義手と包丁を巧みに使いながら魚を卸す母親の仁子さんに声をかけられました。
千種の両親は共働き夫婦のために、夕方6時前までのつかの間の逢瀬を楽しむことができます。
ようやく帰宅した途端に父親の円に何処へ行っていたのか尋ねられられましたが、遠馬は答えることがはありません。
台所では円の内縁の妻・琴子さんが料理をしていて、今日のメニューは遠馬の誕生日を祝うための豪華なステーキとケーキです。
何の仕事をしているのか息子にさえ打ち明けることがない円は、夕食前には家を出ていきます。
【承】共喰い のあらすじ②
夏休みに入ったある日の朝早く、遠馬は1階の座敷で布団の上に琴子さんを組み敷いた円が彼女を殴り付けるのを目撃しました。
この異様な性癖が原因となって仁子さんは遠馬を出産したすぐ後にこの家を出ていってしまいましたが、現在でも篠垣の籍だけは抜いていません。
異性関係にだらしのない円でしたが、今でも仁子さんの魚屋に顔を出すことはあるようです。
預けて置いた鰻を魚屋に引き取りに行く前に、遠馬は千種の家に押し掛けます。
会うなり服を脱がせようとする遠馬に対して、千種は烈しく抵抗してたちまち険悪なムードです。
逃げるようにその場を後にして魚屋に行くと、仁子さんは薄暗い店内の中でタバコを吸っています。
一目見るなり仁子さんは、遠馬が父親と同じ恐ろしい目つきに変貌していることに気が付きました。
仁子さんが調理してくれた鰻の白焼き・切り身・肝を鍋に入れて、遠馬は帰路に着きます。
大好物の鰻に琴子さんのお目出度もあってか、円はいつになく上機嫌です。
【転】共喰い のあらすじ③
8月に入ってからも遠馬は度々千種に電話をかけて仲直りを申し出ますが、彼女からはキッパリと拒絶されてしまいます。
琴子さんの出産予定日がはっきりと分かってからは、流石に円は彼女に対して手を出すことはなくなりました。
子供が生まれたら遠馬はこの家から追い出されて、生まれ育ったこの川辺からも出ていくことになりそうです。
高校卒業後のことをこれまで考えてこなかった遠馬は、進学か就職かさえ明確にしていません。
夏祭りが近づくと俄かに地元が慌ただしくなり、花火から屋台までの差配を担当している円は大忙しでした。
遠馬は祭りに参加するつもりは毛頭ありませんでしたが、本番2日前の夕方に近所の子供たちに頼まれて神社の境内で出し物の踊りを教えることになります。
本殿の外れにある社で待っていたのは、長らく会っていなかった千種です。
復縁を迫る千種でしたが遠馬は父親と同じく彼女を傷つけてしまうことを恐れてその場を後にするのでした。
【結】共喰い のあらすじ④
お祭り当日はあいにくの天候になり、実行委員の円は自宅に待機中です。
円は琴子がこの家を出ていってしまったことを告げて、雨の中お祭り会場の様子を見に行きました。
しばらくすると2日前に踊りを習いに来た子供たちが、傘も差さずに駆け込んできます。
泣き叫ぶ子供たちの断片的な言葉からは、神社の社で遠馬を待っていた千種が円に暴行されてしまったようです。
境内に遠馬が駆け付けた時には、既に円はいなく千種は血を流して意識も朦朧としています。
父親の殺害を決意した遠馬でしたが、既に円は魚屋の橋の上で仁子さんによって殺害されていました。
川に浮かんでいた円の遺体には仁子さんの義手が突き刺さっていたために、彼女は警察によって逮捕されます。
円の遺骨は遠縁の親族によって引き取られて、遠馬は養護施設から高校に通うことになりました。
9月に入って遠馬は拘置所の仁子さんと面会しますが、特に痩せている様子もなく必要な差し入れもないようです。
共喰い を読んだ読書感想
淀んだ川に囲まれている田舎町で、鬱屈とした青春時代を過ごしている主人公の篠垣遠馬の姿を印象深かったです。
身体の中に潜む暴力的な本能に怯えながらも、やがては父親と同じような破滅的な人生を歩んでいく不吉な予感が伝わってきました。
間もなく昭和が終わりを迎える中でも、未だに戦争の傷あとを引きずっている遠馬の母・仁子さんの生きざまにも忘れがたいものがあります。
降りかかってくる不幸や孤独に嘆くこともなく、全てを受け流すような凛とした姿が美しいです。
忌まわしき血の流れを断ち切るために、彼女が下した決断が衝撃的でした。
コメント