著者:大田ステファニー観人 2024年2月に集英社から出版
みどりいせきの主要登場人物
桃瀬(ももせ)
高校二年生。帰宅部。物語の語り手である〈僕〉。
小春(こはる)
高校二年生。小学校のとき、少年野球団でピッチャーをしていた。〈僕〉は彼女のことを「春」と呼ぶ。
鳴海(なるみ)
〈僕〉の高校の先輩。小春たちの仲間。
グミ氏(ぐみし)
小春たちの仲間。
ラメち(らめち)
小春たちの仲間。
みどりいせき の簡単なあらすじ
〈僕〉と小春は、小学校のとき、少年野球団に入っていました。
小春がピッチャーで、〈僕〉はキャッチャーでした。
高校二年になって再会した小春は、恋人といっしょに、あやしげな薬物を販売するようになっていました。
〈僕〉は小春の販売を手伝い、彼女の仲間と親しくなっていきます……。
みどりいせき の起承転結
【起】みどりいせき のあらすじ①
〈僕〉は高校二年生です。
ある日、おなかの調子が悪いと言って、授業中に保健室に行きました。
それでいて、校内をうろつきます。
そのうち、クラス委員の山本につかまりました。
〈僕〉がいない間に、クラスで委員決めがあり、山本がクラス委員になったそうです。
山本は〈僕〉に風紀委員になるようにと言います。
翌日のホームルームで、クラス担任の桐谷先生から、保健室のことを注意された上に、風紀委員になることを勧められました。
〈僕〉はかったるくて、とりあえず保留にしました。
そのあと校内で、鳴海先輩とその彼女が、言い争いしているところに出くわします。
その女の子が小春だと気づきました。
小春は、小学校のころ、野球団でいっしょだった子です。
彼女の球は速く、〈僕〉しか捕れませんでした。
なので〈僕〉がキャッチャーをしていました。
でも、再会した小春は、〈僕〉のことを忘れてしまっていました。
翌朝、おくれて学校に行くと、クラスのみんなは、課外授業のため外に出ていて、いませんでした。
〈僕〉は、そのとき教室にいたラメちからお菓子をもらい、食べました。
そのあと、小春に頼まれて、ビジネスのために彼女を自転車の荷台に乗せて走りました。
【承】みどりいせき のあらすじ②
〈僕〉は小春を自転車に乗せ、指示されるままに走っていきます。
あるところで、小春が配達するのを待っているうちに、気分が悪くなってきました。
小春は、〈僕〉がラメちからもらったお菓子を食べたことを知り、水をくれました。
水はやたらとおいしかったです。
結局、〈僕〉はドラッグによりトリップしていて、気がついたら、まどかさんの車に乗せられていました。
〈僕〉は小春たちのヤサに連れていかれ、そこで休みました。
ラメちやグミ氏がいます。
グミ氏が変なタバコをくれました。
それを吸うと、ますます変な気持ちになってしまいました。
そうやってトリップしているとき、玄関で騒ぎがありました。
鳴海先輩が、血だらけになって、駆け込んできたのです。
先輩が言うには、「あいつらが、姉の家で待ち伏せしていて、お金とブツを盗られてしまった」とのことです。
翌日、学校で、グミ氏が説明してくれました。
お菓子も、タバコも、違法薬物であること、それをめぐって鳴海先輩と別の組織が険悪な関係になっていること、などです。
そこへ小春がやってきて、「チクるなよ」とクギをさされたのでした。
【転】みどりいせき のあらすじ③
それ以来、〈僕〉は小春の仕事を手伝うようになりました。
ブツの仕入れ先などは、訊いても教えてもらえません。
小春について、あっちこっちへブツを販売しにいきます。
売人は、グループでやっているのもいれば、個人でやっているのもいるようです。
グループのなかには、小春たちを敵視するのもいて、この間、鳴海先輩を襲ったのがそうです。
〈僕〉はお金を稼ぎました。
一部を、宝くじに当たった、と書いて、家に置いてきました。
〈僕〉の家は、母ひとり、子ひとりの生活で、経済的に苦しいのです。
〈僕〉は、小春たちのヤサに、入り浸りました。
そこには、鳴海先輩、小春、まどかさん、ラメち、グミ氏などがいました。
みんな、ドラッグを摂取して、のんびりしています。
そんなあるとき、〈僕〉はヤサで、縄文遺跡についてのテレビ番組を見ました。
縄文の村は、平和な集落だったようです。
そこへ弥生の文化がやってきて、争いも入ってきたとのことでした。
さて、ある日のこと、〈僕〉は襲われて、大怪我をしました。
小春が防戦してくれなかったら、ヤバかったです。
【結】みどりいせき のあらすじ④
まどかさんと、グミ氏が、家にやってきました。
鳴海先輩が入院しているので、いっしょにお見舞いに行ってほしいとのことです。
鳴海先輩は、〈僕〉の身代わりになって怪我を負ったらしいのです。
〈僕〉はしぶりますが、結局はお見舞いに行きました。
小春もいっしょです。
抗争相手のグループには、小春の兄が話をつけたそうです。
病院からの帰りに、小春とふたりで森に入り、ドラッグをやりました。
みどりの世界のなかで気持ちよくなったつもりが、亡くなった父親のことなどを思い出し、しだいにバッドトリップしてしまいました。
〈僕〉は、死ぬことや痛いのが嫌だ、という思いにかられます。
トリップから覚めると、またまどかさんの車で送ってもらいます。
ところか、家の近くで警察が内偵しているようだったので、そのまま逃げました。
家の机の引き出しにブツを隠してあるので、ヤバいのです。
〈僕〉は、こんなことに引きずりこんだ小春に悪態をつきます。
でも、そんな〈僕〉自身が一時期は、すごいことをしているのだと勘違いして、優越感にひたっていたのです。
他人に文句を言えた筋合いではないのでした。
〈僕〉と小春は,夜の学校に忍びこみ、ラメちのロッカーを調べました。
そこにあるブツを隠して、彼を救うつもりだったのです。
〈僕〉たちは、そこにあったドラッグを摂取して、ハイになりました。
ふたりでキャッチボールをして、かつてプロ野球選手を夢見たころを思い出したのでした。
みどりいせき を読んだ読書感想
第47回すばる文学賞を受賞して刊行され、その後、第37回三島由紀夫賞を受賞した作品です。
読んでみると、必ずしもとっつきやすいとは言えない小説でした。
高校二年生の主人公と、その仲間たちのことが、彼ら独自の言葉で語られています。
まず、その言葉自体が、年齢層の異なる私には壁となりました。
次に、著者の立ち位置として、読者を突き放すようなところに立っているように思われました。
つまり、読者には迎合しない、わかる人はきっとわかってくれる、という態度で書いているように感じられたのです。
しかし、そういった、必ずしも読者に寄り添わない態度が、本作には必要だったのかもしれません。
それによって、読者の住む通常の社会から浮いた、主人公の漂っている世界を表現することができているからです。
実際、主人公の、ふわっと浮かんだ、殺伐としているような、充実しているような、なんともとらえどころのない世界が、見事に表現されているではありませんか。
新しい青春文学の誕生だと思います。
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