著者:笹生陽子 2011年6月に文藝春秋から出版
空色バトンの主要登場人物
望月セイヤ(もちづきせいや)
主人公。地方在住の10代男子。今が楽しくて先のことは考えてない。
望月ショーコ(もちづきしょーこ)
セイヤの母で故人。短大在学中に婚約したために世知に欠けていた。
吉野カオリ(よしのかおり)
ショーコの幼なじみ。バリバリのキャリアウーマンで子育てとも両立させる。
吉野ミク(よしのみく)
カオリの娘。都会で育ったために雑踏が恋しい。
松本(まつもと)
セイヤの友人。「まっつん」のあだ名で呼ばれるお笑い担当。
空色バトン の簡単なあらすじ
片田舎で毎日をダラダラと過ごしていたセイヤの日常が一変したのは、母親のショーコが突如としてこの世を去った日からです。
お葬式にやってきたのは3人組の女性、彼女たちからショーコの知られざる一面と意外なつながりを聞かされます。
仲良しだった松本には一歩遅れをとるものの、セイヤも自分自身の将来について少しずつ向き合い始めるのでした。
空色バトン の起承転結
【起】空色バトン のあらすじ①
天気がいいと富士山が見える小さな町で、望月セイヤは同じ学校の松本と野球をしたりナンパをしていました。
母・ショーコが急性心疾患で倒れたのは5月のある日、隣町の市民病院に搬送されましたが既に息はありません。
買い出しは駅の近くの商店街か国道ぞいにできた大型店舗、散歩は犬をつれて石段の脇の児童公園まで。
長さにして約500メートルの線で囲った枠内で生活していたショーコでしたが、お葬式には思いのほかに大勢の参列者が駆けつけてきます。
特に個性がはっきりとしていて目を引いたのが、吉野カオリ、陣ノ内アキ、森川ヒロミの3人。
森川から副葬品として手渡されたのは故人が大好きだったマシュマロ、そして表紙に空の絵が描いてある同人コミック雑誌。
中学の文化祭の時に同好会のメンバーで作ったものだそうで、母がマンガを描いていたとは初耳です。
古ぼけたページをぺらぺらとめくってみると男の子同士のキスシーンが、今でいうなればBLといったジャンルでしょう。
【承】空色バトン のあらすじ②
中央アジア、南アフリカ、西インド、北欧… イラストの仕事をしながら個展も開いている陣ノ内は世界各地に足を運んでいて、セイヤもお土産に36セットのパステルをもらったことがありました。
空の色は太陽光の反射と土地土地によって見え方が違うそうですが、6月に梅雨に入ったこの町は代わり映えのない曇天もようです。
森川から預かったままにしていたマシュマロをお供えしに望月家の納骨堂まで行くと、たまたま近くを通りかかったという松本がいて手の中には仏花が。
しばらく見ないうちにいがぐり頭はツーブロック、この就職難に福岡にある大型部品メーカーに本社採用されたとのこと。
父親が神戸の支社に赴任中で幼い妹の面倒をみているセイヤは進路指導も延期になって、担任の先生も何も言ってきません。
さりげなく気をつかっている様子の松本、照れ隠しにマシュマロを口に流し込むセイヤ。
遠く離れたとしても盆暮れ正月には遊ぶ約束をしたふたり、頭上には久しぶりに青空が広がっていました。
【転】空色バトン のあらすじ③
吉野ミクの母親は一部上場企業の花形部署で出世を重ねていましたが、父親は詩人を自称していて特に働いていません。
その父がおなじような芸術家仲間と組んでお芝居に夢中になると、だんだんと家に帰ってこなくなり夫婦仲も険悪に。
離婚が決まって母のカオリについていくことになったミク、お金の心配はありませんが引っ越し先は山と緑のあいだに建つ一戸建てです。
中学校は都内のど真ん中にある女子校、放課後はクラスメートと連れ立って渋谷のセンター街。
カオリの故郷であるここにはレンガ造りの雑貨屋か、裏通りにあるシネマカフェくらいしかありません。
マップを片手に探険していると住宅街の北側にある神社に迷い込んでしまい、ジャージの上からエプロンを着た青年が後ろから追いかけてきました。
東京時代に通学電車で何度も痴漢に遭っていたミクは、本能的にその場から逃げ出してしまいます。
向こうの学校の仲間たちがお別れ会でプレゼントしてくれた、マゼンタピンクの携帯電話を落としたことに気が付いたのは家に帰ってからです。
【結】空色バトン のあらすじ④
エプロンをしているのは亡くなった母親に代わって家事をしているため、追いかけたのは境内に落ちていたマゼンタの携帯を渡すため。
数日後に吉野家の玄関の前まで届けにきてくれた望月セイヤ、すっかり誤解していたことを謝罪したミク。
ふたりの母親がこの町の出身で小・学校とずっと一緒にいて、同じ同好会で同人誌を作っていたことまで分かりました。
カオリと同い年ということは享年40歳、いまの日本人女性の平均寿命の半分にも達していません。
両親の離婚くらいで悲劇のヒロインを気取っていたミクは、自分が家のお手伝いもしないで遊んでいることを反省します。
そのセイヤはなんとか高校を卒業できたそうで、4月から居酒屋チェーンでアルバイトをしながら通信制の大学で勉強するとのこと。
お互いに困ったら連絡するためにメールアドレスを交換したふたり、後日ミクの携帯には鳥居を背景にして撮影したきれいな夕焼けの写真が送られてきます。
この写真を見た瞬間にミクは、年格好や性別が違ってもかならず気持ちが通じ合える人だと確信するのでした。
空色バトン を読んだ読書感想
現役の男子高校生といえば頭の中はケンカと女の子のことだけと断言するのは、この物語の主人公の望月セイヤくん。
田んぼも農道もなくとにかくファッショナブルな場所に飛び出して、シティ派を気取りたいというからお気楽です。
そんな落ち着きのない息子を18歳まで育て上げたのがショーコ、短大生の時に出会った夫のことを「白馬の王子さま」と称えるのは少女マンガ趣味ですね。
まるで正反対な性格の母子がオープニングそうそうに引き裂かれてしまいますが、全編を通して悲壮感は漂っていません。
平凡でも実り豊かな人生を送ったショーコ、そのバトンを次の世代が受け継ぐようなラストを清々しく感じました。
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