著者:岩城けい 2020年11月に筑摩書房から出版
サンクチュアリの主要登場人物
ルチア・ディクソン(るちあでぃくそん)
スティーブの妻。イタリア系オーストラリア人。
スティーブ・ジョゼフ・ディクソン(すてぃーぶじょぜふでぃくそん)
ルチアの夫。イギリス系オーストラリア人。
メイソン(めいそん)
18歳。ルチアの長男。
アンガス(あんがす)
13歳。ルチアの次男。
カレン(かれん)
20歳。ルチアの家にホームステイしに来た日本人留学生。
サンクチュアリ の簡単なあらすじ
ここはオーストラリアです。
イタリア移民の子のルチアと、イギリス移民の子であるスティーブは結婚し、いまはふたりの息子がいます。
日本から留学生の女の子、カレンがホームステイにやってきました。
カレンとの文化の違いは、夫婦の文化の違いをあぶりだして、亀裂を深くしていきます……。
サンクチュアリ の起承転結
【起】サンクチュアリ のあらすじ①
スティーブとルチアは、オーストラリアに住む夫婦です。
スティーブはイギリス系移民の子で、リチアはイタリア系移民の子です。
スティーブは小さな会社を経営しており、息子がふたりいて、大きな家に住んでいます。
ルチアは以前は看護師をしていましたが、いまは専業主婦となり、ときおり海外からの留学生をホームステイさせて面倒をみています。
今日は、日本から二十歳の女子留学生が家に来ることになっています。
家族全員に早く帰ってくるように言ったのですが、皆から無視されています。
夫は女のところです。
長男はもうじき大学資格試験だというのに、アルバイトにあけくれ、今日はガールフレンドとデートです。
次男はフットボールの練習に行っています。
ルチアが次男を迎えにいって家に帰ると、留学生がすでに来ていました。
カレンという女の子でした。
やがて帰ってきた夫に、明日、カレンを学校に送っていってほしい、とたのみます。
翌朝、一家が朝食をとっているところへ、カレンが出てきました。
彼女はおみやげを差し出します。
それは、小魚が詰め込まれた品物でした。
男たちは臭いと悲鳴をあげますが、カレンが笑い飛ばして、その場はなんとなくおさまったのでした。
【承】サンクチュアリ のあらすじ②
夫のスティーブはメルセデスに乗り、妻のルチアは四輪駆動車に乗っています。
夫は従業員三十人の会社を経営しており、順調に業績を伸ばしています。
ただ、ルチアが夫に買ってもらった四駆に乗って家族みんなで旅行を、という希望は、もはやかなえられそうもありません。
家族にはもうそういうまとまりはないのです。
さてその日、ルチアは裕福なマダムたちのランチに参加しました。
かつて貧しかった頃とは、付き合う奥さんたちも様変わりしました。
けれど、裕福な妻たちも、かかえる悩みは、貧しい妻たちと、そうは変わらないようです。
ランチでは、ルチアの子どものことや、またしても受け入れた留学生のことなどが話題になりました。
また、ある日、ルチアは中古車ディーラーへ車の修理に行きました。
新車も扱っているし、対応も丁寧で、彼女はそのディーラーを信頼しているのです。
修理を待つ間、営業担当のシェイマスとおしゃべりしました。
彼は妻子と別居しているそうです。
ルチアはなんとなく彼のことが気にかかっています。
慈善活動のためにディーラーに預けてあるチョコレートの話などして、その日は切り上げました。
クリスマスが近づき、カレンは閉じこもりがちです。
ルチアの家族とカレンとで、クリスマスの話になりました。
日本ではクリスマスの祝い方が、オーストラリアとはかなり違うようです。
そんな話題で、みんなでにぎやかにおしゃべりしました。
また別の日、中古車ディーラーから、オイル交換で呼ばれました。
行ってみると、担当のシェイマスは離婚が成立して田舎へ帰るそうです。
ルチアは、彼をお別れディナーに誘いました。
【転】サンクチュアリ のあらすじ③
元気のないカレンを励ますために、ルチアは自宅でバーベキューパーティーをもよおし、カレンの学友たちを招待しました。
ルチアの息子たちは出かけていき、スティーブがバーベキューの面倒をみます。
カレンたちはお酒を飲み、日本語で元気におしゃべりします。
スティーブは、カレンたちが、自分に理解できない言葉で話しているのが、気に入らないようすです。
ルチアはそんな夫にあとをまかせて、ディーラーのシェイマスのお別れディナーへと向かいました。
シェイマスと会話するうち、ルチアはしだいに彼にほだされていきます。
しかし、車に乗って彼にキスされると、スティーブとのこれまでの年月が何だったのか、と思い、不倫を思いとどまるのでした。
シェイマスは、本当は今日、ルチアをこのまま田舎へ連れていくつもりだった、と打ち明けて、別れていきました。
ルチアが帰宅してみると、夫はおかんむりでした。
これまで、夫婦がお互いの文化の違いに目をつぶり、地下にたまっていたマグマが、噴きあがってきました。
壮絶な夫婦喧嘩の末、ルチアは逆上して、自分の親指を骨切包丁で切断してしまうのでした。
【結】サンクチュアリ のあらすじ④
ルチアは入院しました。
親指は手術によって接合されました。
次男のアンガスがお見舞いに白い菊の花を持ってきました。
それを見たカレンは「それは葬式の花」と文句を言います。
文化の違いです。
オーストラリアでは、それは母の日に贈る花なのです。
しかし、イタリアではやはりそれは葬式の花なのでした。
そのことを知ったスティーブは、急遽ルチアを連れ出し、花屋へと連れていきます。
花のことを知らないスティーブは、花屋に花を選んでもらい、花束を作らせます。
「墓にそなえる花じゃないだろうな」と彼が確認すると、花屋は「心がこもっているなら、墓には何の花をそなえてもよい」と答えました。
帰り道、ルチアは、自分が先に死んだら、この花を自分の墓に飾ってほしいと、夫に頼むのでした。
一年後、ルチアたち一家は日本へ向かって飛行機に乗ります。
カレンから結婚式の招待状が届いたからです。
一家は、日本での結婚式の文化の違いに不安を抱きます。
しかし、なんだかだと言いながらも、一家はひとつにまとまっているのでした。
サンクチュアリ を読んだ読書感想
一読して感じたのは、移民国家というのはむつかしいものだなあ、ということでした。
イタリア系移民の子である妻と、イギリス系移民の子である夫。
ふたりは恋をしたから結婚したわけですが、結婚後年数がたって恋心がさめてみれば、互いの文化の違いが、心にわだかまりを作るばかりです。
ここに、日本からの留学生がからんできます。
日本人との文化の違いが、この夫婦の文化の違いを浮かび上がらせる、触媒のような役割をはたしているのです。
そうして、かろうじて平穏を保っていた一家が、ポロポロと崩れていくことになります。
このあたりの作り方はうまいなあと思いました。
ただし、ラストでは一家に再び平穏が訪れます。
いわば「雨降って地固まる」といった感じです。
個人的にはハッピーエンドが好きなので、この終わり方に、ホッとしたものです。
家族のありようを描いた佳作作品だと思いました。
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