「テッパン」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|上田健次

「テッパン」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|上田健次

著者:上田健次 2021年3月に小学館から出版

テッパンの主要登場人物

吉田倫(よしだりん)
主人公。受験を控える中学生。生真面目だが主体性がない。

東屋(あずまや)
吉田の塾仲間で授業態度は模範的。家業を合法組織にするのが夢。

小川(おがわ)
東屋を一方的にライバル視。取り巻きは多いが独りでは何もできない。

新田(にった)
小川の兄貴分。中学卒業後に裏社会に足を踏み入れる。

川田梅子(かわたうめこ)
吉田の担任。偏差値よりも人柄で評価する。

テッパン の簡単なあらすじ

これといった目標がないままで中学生最後の夏を迎えたのは吉田倫が、嫌々ながら通うことになった進学塾で仲良くなったのが東屋です。

同い年ながらも自分の力と頭で生きている姿を目の当たりにして、少しずつ進路について真剣に考えていきます。

見聞を広めるために海外へと飛び出した吉田は、久しぶりに帰郷した際に東屋の若死を知らされるのでした。

テッパン の起承転結

【起】テッパン のあらすじ①

ビニールの隙間から大人の世界を垣間見る

校内暴力によって教育荒廃が極限まで進んでいましたが、吉田倫は無遅刻・無欠席を貫いていました。

川田梅子先生との三者面談でも特に問題はありませんでしたが、父が心配しているのは成績よりも将来のこと。

1学期が終わっても志望校を決められない我が子のために、中野駅近くの文化センターで開催されている夏季講習のパンフレットをもらってきます。

言われるままに初日1時間目の英語を受けていると、隣の席に座っているのは「最凶最悪」とうわさされる東屋です。

吉田の学校の先輩で暴力団の盃をうけた新田をぶちのめしたとか、中野区内にある13校を配下に治めたとか。

80分と長丁場の講義ため大半の受講生が脱落していきますが、東屋の集中力が切れることはありません。

チャイムが鳴って教室を出るときに話しかけてみると、音楽の趣味もピッタリでした。

吉田が貸してあげたのはマンハッタン・ジャズ・クインテットのカセットテープ、東屋のお返しはビニール製の成人男性向け雑誌。

ダンダンヘアーにセーラー服を着た女性の局部が無修正で写っていて、俗に「ビニ本」と呼ばれているものです。

【承】テッパン のあらすじ②

ケンカ祭りの花火が上がる

休まずに出席していた東屋が来ていなかったのは8月8日、毎月3回8のつく日に縁日があるのは新井薬師。

配布された予習プリントを届けに境内に隣接する公園にいってみると、巨大な鉄板をガスバーナーで温めていました。

プリントのお礼にごちそうしてくれたのは焼きそば、野菜を刻む姿も業務用ソースを扱う手際もプロの料理人そのものです。

祖父の代から関東一円でテキヤをやっていたこと、大学で経営学と商法を学びたいこと、この仕事を社会から認められるような会社にしたいこと。

「あずまや」の家紋入りの法被を羽織って語る横顔は、同学年とは思えないほどたくましく汗で輝いています。

屋台の後片付けを手伝っているとオートバイに乗って現れたのは小川という他校の番長、かわいがってくれた新田の報復にやってきたようですがあっさりと返り討ちに。

1対1では東屋に敵わないと悟った小川は、後輩たちをけしかけて吉田を恐喝してきます。

明日までに5万円を持ってくるように言われた吉田、1円でも渡せば要求金額はエスカレートしていく一方でしょう。

【転】テッパン のあらすじ③

伸縮自在の武器で幸運が転がり込む

たったひとりで決闘の約束場所へと向かう吉田、右手には東屋からもらった20センチほどの黒い警棒が。

グリップエンドを握って強くスイングすると60センチほどに伸びますが、一見すると折り畳み式のかさにしか見えません。

油断していた小川の肩甲骨辺りに振り下ろすと効果は絶大、4人ほど連れていた仲間たちもあっという間に逃げていきました。

東屋は慣れた様子で缶ビールで、吉田は無理をせずにコカ・コーラで。

祝杯をあげたふたりは小さな地球儀の形をした販売機に100円玉を投入して、それぞれおみくじを引きます。

「大吉。

好機到来。

迷うことなかれ」と書かれているのを見た吉田は、夏休みの残りを使って英語の勉強に励むことに。

内申書のほとんどが3だった吉田が交換留学生に選ばれたのは、地道な努力を陰ながら見守っていた沢田の口添えがあったからでしょう。

商売で忙しい東屋とはすっかり疎遠になってしまいますが、渡米する前に思い出の品をタイムカプセルに埋めるのだけは忘れません。

【結】テッパン のあらすじ④

熱い友情とソースの香りは消えない

カプセルは同窓会の時に掘り出す約束でしたが、沢田が定年退職してすぐに亡くなってしまったために延期になってしまいました。

進学、引っ越し、就職、結婚、引っ越し… クラスのみんなもそれぞれの道を歩んでいく中で、元号も昭和から平成へ。

多忙だった吉田がようやく帰国の見通しがついたのは令和になってから、およそ30年ぶりの再会です。

カプセルを開けると出てきたのは当日人気の絶頂だった松田聖子のプロマイド、「なめ猫」のキャラクターをあしらったペンケースも。

吉田もビニ本と警棒を回収、おみくじは自分の「大吉」と東屋のものが入っています。

「大凶。

いさかいに巻き込まれる恐れあり」の通りに、東屋は敵対する組のヒットマンに刺されてしまいこの世にはいません。

会をコッソリと抜け出した吉田は新井薬師公園へ、不意に鼻先に掠めたのはソースがこげる香り。

「4代目あずまや」の看板を掲げた若衆が器用にコテと鉄板をあつかっているのを見て、吉田は焼きそばを1皿注文するのでした。

テッパン を読んだ読書感想

オープニングで甲子園のテレビ中継を見ている吉田少年、清原・桑田両選手が活躍しているので小説の舞台はおそらく1980年代。

優等生というには勉強もスポーツも物足りなくて、不良と呼ぶには覇気がなさすぎて。

そんな残念な主人公にとって東屋は、まさに「男が男にほれる」といった存在でしょう。

腕っぷしだけではなく頭脳も明晰、義理人情を重んじる性格で料理までうまいとなれば完璧じゃないですか。

自らの凡人ぶりを受け入れつつも、しっかりと成長していく吉田も頼もしいですね。

終盤の急展開と永遠の別れには胸が痛みましたが、変わらない絆と次の世代へと受け継がれた希望が感動的です。

コメント