著者:吉村龍一 2013年3月に講談社から出版
光る牙の主要登場人物
樋口 孝也(ひぐち たかや)
主人公。北海道日高山脈にある道庁森林事務所日高支所に勤める森林保護管。オフロードでの車の運転が得意。
山崎(やまさき)
孝也の上司。元自衛官でレンジャー部隊の経験者。孝也より30歳ほど年上だが、体力は孝也をはるかに上回る。職人気質で木製スキーを愛用している。
森内教授(もりうちきょうじゅ)
道内ヒグマ研究の第一人者。北海道野生動物保護センターの所長
若林(わかばやし)
道議会議員。違法な猟でヒグマを狙う。
光る牙 の簡単なあらすじ
厳冬期の北海道で消息を絶った山岳カメラマンの捜索に向かった森林保護管の樋口孝也と上司の山崎はヒグマに食い殺された無残な遺体を発見します。
猟友会の面々と山に入った二人は手負いのヒグマを銃殺し、事件は解決したとマスコミに発表されました。
しかし、カメラマンの遺体に残されていた?み痕は、そのヒグマよりはるかに大きいものでした。
孝也と山崎は巨大ヒグマの正体に迫っていきます。
光る牙 の起承転結
【起】光る牙 のあらすじ①
山岳カメラマンの渡辺健二は厳冬期の北海道、日高山脈に「行者返し」と呼ばれる場所でご来光を撮影するため、一人で向かいました。
狙い通りの写真が撮れて笑みを浮かべる渡辺は背後の物音に振り返り、自分に迫る巨大な影を目にします。
道庁森林事務所日高支所に勤める樋口孝也は遭難の一報を受け、上司の山崎とともに行者返しに向かいました。
雪に閉ざされた登山道をクロスカントリースキーで分け入る二人。
なんとか行者返しにたどり着きましたが、そこで彼らが見つけたのは、渡辺健二の無残な遺体でした。
雪に埋められた遺体は額が陥没し、頭の皮がはがれ、骨がのぞき見えており、周囲にはおびただしい血痕が飛び散っていたのです。
「誰かに殴り殺されたのか…?」ショックを受ける孝也。
一方、山崎は険しい表情を浮かべ、下山の準備を始めます。
下山の途中、孝也は大きな雄のエゾシカの死体を見つけます。
エゾシカの臀部には、ヒグマのものと思われる大きな爪痕が残されていました。
「渡辺カメラマンもヒグマに襲われたのだ」そう気づいた孝也は山崎が下山を急いだ理由を悟るのでした。
【承】光る牙 のあらすじ②
一夜明けて、北海道警察の捜査関係者と銃を携えた猟友会員とともに孝也と山崎は再び行者返しに向かいました。
道内ヒグマ研究の第一人者である森内教授も同行していました。
森内教授は、渡辺カメラマンを殺したのは「穴持たず」と呼ばれる、何らかの理由で冬眠出来なかった個体であること、足跡の大きさからして体重200キロ以上だと推測されることを皆に説明します。
翌日、10名の地元猟友会員と孝也、山崎で駆除隊が結成され、ヒグマの追跡が始まりますが、山歩きに不慣れな猟友会員たちに、孝也と山崎は不安と苛立ちを募らせるのでした。
途中で猟友会員たちと別行動を取った孝也と山崎によって、巨大な片腕のヒグマが仕留められます。
解剖の結果、違法なくくり罠にかかったため十分な食事ができなかったことが原因で、ヒグマは冬眠に必要なだけの脂肪が蓄えられず「穴持たず」になったと結論付けられました。
森内教授は「これは人災であり、渡辺カメラマンを襲ったヒグマは駆除された。」
と記者会見で発表し、事件は解決したかのように見えました。
しかし山崎は、渡辺カメラマンに残された?み痕はもっと大きなヒグマのもので、捕獲された個体とは別のヒグマだと孝也に断言するのでした。
【転】光る牙 のあらすじ③
日高に遅い春が訪れ、孝也たちが管理する自然保護区にある森林公園「もりもりパーク」はキャンプ客でにぎわい始めました。
その中に大音量で音楽を流しながらドラッグパーティに興じる若者のグループがいました。
孝也たちは注意しますが聞く耳を持ちません。
翌日もりもりパークでヒグマが出たと通報があり、孝也は山崎とともに銃をもって急行します。
そこで二人は地面に埋められた女性を発見、「…ロクマ、…ロクマ」とつぶやく彼女を救急車に託し、ヒグマの後を追うのでした。
ヒグマのけもの道を見つけた山崎は、そこに仕掛けられたくくり罠を見つけます。
その時山間に銃声が響きました。
二人が銃声のしたほうに向かうとそこには裕福な身なりをした男が一人倒れていました。
道議会議員の若林だというその男は、違法なくくり罠をしかけた張本人だったのです。
責める山崎に「途方もなく大きな白いヒグマだったんだ」と若林は答えます。
怪我をしている若林を連れて孝也と山崎は下山を急ぎます。
休憩中、用を足すために山崎は一人離れます。
その直後孝也は山崎の悲鳴を聞きます。
岩陰から白い巨大なヒグマが現れ、孝也は銃を向けますが間に合わず、若林殺されてしまいます。
斜面を転落したと思われる山崎を探すため、孝也は一人山に分け入るのでした。
【結】光る牙 のあらすじ④
探索の途中、孝也は顔を半分潰された白い小熊の死体を見つけます。
若林が至近距離から無抵抗な小熊を射殺し、親熊が報復のためにハンターを追ったのでした。
雷雨の中、孝也のトランシーバーが鳴ります。
山崎の生存を確信する孝也。
再びトランシーバーが鳴り山崎の声と車のクラクションが聞こえます。
山崎は2人が乗ってきた車のところに戻っていたのでした。
駆けつけた孝也が見たのは、車にのしかかる白い巨大なヒグマでした。
孝也はヒグマを射殺しようとしますが失敗、車に乗り込み逃げる二人にヒグマはさらに追いすがります。
しかし車は動かなくなってしまい、山崎はヒグマに車から引きずりだされてしまいます。
なんとか山崎を岩の上に担ぎ上げますが、ヒグマはまだ襲ってきます。
孝也はヒグマを車におびき寄せ、トランシーバーとプロパンボンベを使い、車ごとヒグマを爆発させたのでした。
ヒグマは真っ黒に焼け焦げ、白かった痕跡はどこにも残っていませんでした。
光る牙 を読んだ読書感想
目的もなく入った本屋さんの、北海道に関わる本を集めたコーナーでたまたま見つけて手に取りました。
若い森林保護管の樋口孝也と彼の上司で元自衛官の山崎。
この2人と猟友会員たちによってカメラマンを殺したヒグマは駆除されたかのように思えましたが、新たな犠牲者が現れ、二人は真実を突き止めるため山に向かいます。
スキーや銃、雪の様子などの詳細な描写にどんどんひきこまれ、一気に読み終えてしまいました。
車ごと焼き殺されて黒くなってしまったことで、白いヒグマだったことが孝也と山崎の秘密となるところに、作者の、自然やヒグマに対する畏敬の念が感じられます。
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