著者:須賀ケイ 2019年2月に集英社から出版
わるもんの主要登場人物
箕島純子(みしまじゅんこ)
箕島家の娘。
箕島涼子(みしまりょうこ)
純子の母親。着付け教室の先生。
箕島義春(みしまよしはる)
純子の父親。ガラス工場の社長。
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わるもん の簡単なあらすじ
あるとき、箕島涼子は、夫の義春を家から追い出します。
小さなガラス工場を営む義春は、下品で、家族とコミュニケーションをとらない男でした。
夫が不在となって、涼子の機嫌は一時的によくなります。
しかし、夫がいないことでいろいろ困ったことも起き、しだいに不機嫌になっていきます。
やがて義春はなんでもなかったかのように家にもどります。
わるもん の起承転結
【起】わるもん のあらすじ①
箕島純子は天真爛漫な子です。
母の涼子は着付け教室の先生で、父の義春はガラス工場を営んでいます。
純子が大きい姉ちゃんと呼ぶ京子はデパートに努め、同じく小さい姉ちゃんと呼ぶ裕子は学生です。
ある日、純子は中学生のバッドボーイたちにからまれ、「お前の家ではビーカーでお茶を飲むんだろう」とからかわれました。
家に帰ると父はおらず、皆が喪服を着ていました。
今日はばあばの年忌法要とのことで、純子も喪服に着替えさせられました。
法要はたいくつで、純子は落ち着かず、やんちゃをしてしまいます。
法要が終わると、葬儀会社の人と母が、父の葬儀の打ち合わせをします。
父は健康で、あと二十年ほど生きると仮定しての打ち合わせです。
さて、父がやっている箕島硝子の前身は、昭和二年創業の、別名のガラス会社でした。
二代目が会社をたたむとき、父が設備と顧客をゆずってもらい、箕島家のなかに小さな工場をつくったのが、いまの箕島硝子です。
父は下品で、家族とコミュニケーションをとらないため、家族皆からわるもの扱いされています。
ある寒い冬の日、母は、そんな父を箕島家から取り除いたのでした。
【承】わるもん のあらすじ②
純子の父はよく縁側に寝そべって、ぐうたらしていたものでした。
家は窪地にあり、幼稚園の園児たちが高台に散歩に行くと、父の姿が丸見えです。
園児たちは動物園の動物をながめるように、父を見たものでした。
その父が家から姿を消しました。
それまで父の洗濯物と自分たちのそれを分けて洗濯していた母は、手間が減りました。
寝そべる父をよける必要ももうありません。
母はすっかり上機嫌になりました。
一方、いなくなった父を探そうと、純子は外へ出かけます。
本当はお使いに行くはずだったのですが、外へ出ると、すっかり忘れてしまったのです。
純子は父の居場所に見当をつけて出たのですが、暗くなってもそこにたどり着けません。
やがて、家から探しに来た人に見つけられ、無事に保護されたのでした。
しばらくして、純子は母から、二十八歳の誕生日をお祝いされました。
幼い子供のように思われた純子は、実はもう大人で、精神だけが子供のままで止まっているのでした。
さて、父がいなくなったことで、母は父のがらくたをすべて燃やすことにします。
父が手品のように作ったボトルシップも、母の手にかかって、ガラス瓶をこわされました。
母はなかの船を取り出し、水に浮かべようとしますが、うまくいかず、沈没してしまいました。
【転】わるもん のあらすじ③
ボトルシップの船が難破した翌日、大勢の人が工場に来ました。
母は、工場の設備も材料も、すべて他人に譲ることにしたのです。
あいた場所は、着付け教室で使うつもりです。
さて、ミシマさんという男性がいます。
父に似ています。
ミシマさんが、白い軽トラックで純子を迎えに来ました。
久しぶりの再会です。
ミシマさんにつれられ、純子は研究所に行きました。
ミシマさんは女性の研究者と向き合い、何やらむつかしい話をします。
父に似ていますが、ミシマさんは他人とコミュニケーションがとれるのです。
純子はそのことを自由手帳に書き、母に見せたのでした。
話は変わり、父がいなくなって、初めのころ、母は機嫌よくしていました。
しかし、父の物を探すのに苦労し、父が外でしていた町内の役割までもこなさないといけなくなって、母は不機嫌になっていきました。
ある日、純子があぜ道を歩いていると、自転車に乗ったバッドボーイに遭遇しました。
彼は、純子がもう大人なのにどうして働かないのか、と訊きます。
そうして、あんたは瓶のなかの大人だとなじるのでした。
【結】わるもん のあらすじ④
研究所では、白い服を着た白井さんが、ミシマさんを相手にいろいろ文句を言っています。
ガラス製品を梱包するときのクッションに新聞紙を使うのはやめてほしい、といったことを要求しているのです。
ミシマさんは、新聞紙を使うのは、新聞紙の油分がガラス製品にマッチするからだと説明し、その他のことには善処すると約束します。
一方、家の庭は、手入れしていた父がいなくなったために、すっかり荒れてしまいました。
庭のみすぼらしさを着付けの生徒の目から隠すために、母は、家族全員の洗濯物を干してカーテンにするのでした。
季節は巡り、春になっても花は咲きません。
そんなとき「しかく」と「さんかく」が庭で戦います。
それはいつの間にか、父とホースに変わっていました。
父が帰ってきたのです。
父はまた元通り下品ななりで家のなかに居座り、工場で働きます。
高台で、幼稚園児たちは、父が帰ってきたと話します。
父は、ミシマさんであるときは他人の話を聞くのだ、と純子は母に言いますが、わかってもらえません。
ある日、純子がいつものように絵を描いていると、コンテストに出してみようか、と母に言われます。
コンテストに出してみると、やがて賞状と高価なお肉が送られてくるのでした。
わるもん を読んだ読書感想
第42回すばる文学賞受賞作です。
箕島家の娘、純子の目を通して、父が不在になったあとの家族の様子が描かれています。
いろいろと仕掛けが施され、歯ごたえのある作品です。
初めのうち、純子が幼稚園児だと勘違いするようにミスリードされていて、途中で彼女が二十八歳の成人であることが明かされます。
それからあわてて初めのほうを読み返すと、実に巧妙に仕掛けがあることがわかるのです。
そういったことに加えて、純子にとって空想と現実がごっちゃになっている部分もあり、正確に解釈するのに骨が折れます。
しかし、そのことをあまり気にせず、順子の天真爛漫さを受け入れてしまうと、意外に読んでいるこちらも、なんだかうきうきした気分になってくるから不思議です。
一種の不条理小説と考えてよいかと思いました。
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