「わかって下さい」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|藤田宜永

「わかって下さい」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|藤田宜永

著者:藤田宜永 2018年3月に新潮社から出版

わかって下さいの主要登場人物

平間聡介(ひらまそうすけ)
主人公。製紙業に携わり定年まで勤め上げる。不満もないが充実もない日々。

平間節子(ひらませつこ)
聡介の妻。交遊関係が広く流行に敏感。

平間由紀(ひらまゆき)
聡介の娘。大手食品会社に勤めていて帰りが遅い。

南條美奈子(なんじょうみなこ)
旧姓は横地。聡介の元恋人。化粧品の販売員をしていたために身だしなみに気を配る。

小野千里(おのちさと)
美奈子の娘。面倒見がよく気配りもきく。

わかって下さい の簡単なあらすじ

平間聡介からプロポーズをされた横地美奈子が姿を消したのは、お互いに血のつながりがあることを知ったからです。

別の女性と結婚して家庭を築いてごく平穏に定年を迎えた聡介、失明したものの娘を授かりそれなりの幸せを手に入れた美奈子。

40年ぶりにテレビ番組の公開収録の現場で再会したふたりですが、それぞれの家族のもとへ帰るのでした。

わかって下さい の起承転結

【起】わかって下さい のあらすじ①

女の園から消えた魅惑の女

大学を卒業後に東銀座にある製紙メーカーで働きはじめた平間聡介が、Aデパートの化粧品売り場で横地美奈子を見かけたのは1975年のことです。

くりっとした目、赤ちゃんのように突き出たくちびる、少しだけ上をむいた鼻… 「チャームガール」と呼ばれていた彼女たちの中でも特にコケテッシュで、仕事の終わりに待ち合わせて丸の内ピカデリーへ映画を見にいきました。

3カ月後には泊りがけで葉山まで旅行にいき、海岸に立つホテルの一室でふたりは結ばれます。

結婚のことが話題に上がったのは翌年の春、それぞれの親に報告することに。

美奈子の母親が門前仲町でスナックを経営していると聞いた途端に、お酒が1滴も飲めない体質の聡介の父親はいい顔をしません。

いつの間にか勤め先を辞めていた美奈子と連絡が取れなくなってしまったのは、何とか堅物の父を説得しようとしていた矢先。

聡介が心の傷から立ち直ったのはそれから10年後、節子という女性と出会って籍を入れた35歳の時です。

【承】わかって下さい のあらすじ②

青春のメロディーに誘われて

節子との結婚生活には取り立ててドラマチックなこともなく、長女の由紀も反抗期らしいこともなく進学・就職と順調です。

総務部の副部長まで出世した聡介は子会社に再就職したあとで65歳で退職、これといった老後の不安もありません。

あるテレビ局から「青春のフォークソング」という公開放送の整理券が送られてきたのは2016年、節子は友人と食事の約束があるし古くさい歌は嫌いとのこと。

仕事が忙しい由紀も付き合ってはくれずに、他に誘う相手もいないためにひとりで電車を乗り継いで赤坂のA局まで向かいました。

80人ほど収容できるスタジオはすでに半分以上が埋まっていて、ほとんどの客が聡介と同じシニア世代でしょう。

予定通りに午後6時半に収録開始、ふと隣の席に目をやると白いステッキにサングラスの女性が。

年齢を重ねてヘアスタイルもだいぶ変わっていましたが、横地美奈子で間違いはありません。

彼女とそっくりで20代かと思われる女性の手を、そっと握りしめています。

【転】わかって下さい のあらすじ③

過去からのささやき

杉田次郎の「戦争を知らない子供たち」、森山良子の「この広い野原いっぱい」、伊勢正三の「22歳の別れ」… 因幡晃が「わかって下さい」を熱唱している最中、美奈子は旋律に合わせて小さな声でハミングをしていました。

あの時代を代表するヒット曲でもあり、ふたりにとっても思い出の曲でもあります。

コンサートが終わってから近くのダイニングバーでピザをつまみながら乾杯した3人、現在の名前は南条美奈子で娘の千里のほうは小野姓なのですでに嫁いでいるのでしょう。

7年前には放っておいた緑内障が悪化して失明、5年前にはスキルス性の胃ガンを発症した夫と死別。

初めのうちは絶望して自殺も考えたという美奈子でしたが、今ではすっかりこの状態に慣れて毎日をアクティブに過ごしているそうです。

気をきかせた千里がそっと席を外してくれたのはアルコールが入ってお互いに打ち解けてきた頃、聡介はどうしても40年前の一方的な別れの真相について聞かなければなりません。

【結】わかって下さい のあらすじ④

ワンタッチでお見通し

石油元売り会社に勤めていて順風満帆な将来を約束されていた若き日の聡介の父、水商売をしながら懸命にひとりで生きてきたある女性。

恋に落ちたふたりの間に生まれたのが美奈子でしたが、周囲の無理解によって引き離されてしまいました。

つまりは聡介と美奈子は腹違いの兄と妹、結婚を報告した際に父が強く反対したのも無理はありません。

美奈子の方は母から因果をいい含められていたために、涙ながらに身を引いてあきらめた次第です。

化粧品を扱っていたために目が見えなくても肌に触れるだけですべてが分かるという美奈子、別れ際にそっとほほに指先を伸ばして確認します。

聡介がとても良い顔をしていること、わずかながら涙でぬれていること。

千里に付き添われた美奈子が無事にタクシーに乗り込むまでを見届けると、スマートフォンには由紀からのメッセージが。

「とても楽しかった」とだけ返信した聡介は、小さな秘密を胸に秘めたまま1番大切な人が待つわが家へと歩き出すのでした。

わかって下さい を読んだ読書感想

今でいえばビューティーアドバイザー、もしくは美容部員などという肩書が付くであろう横地美奈子。

チャームガールという呼び名にはいかにも、男女雇用機会均等法が施行される前の時代の名残りを感じてしまいました。

高度経済成長期の真っただ中にあるオフィス街をさっそうと歩く平間聡介は、さながらモーレツ社員とでも言うのでしょうか。

都会に咲く1輪の花のような美奈子に、ひと目で心を奪われてしまうのも無理はありません。

順調にデートを重ねた末にめでたくゴールイン、と思いきや急展開と突然の破局には胸が痛みます。

時をこえて人生の佳境に差し掛かったふたりが、文字通りに「顔を合わす」ラストのシーンには泣けますよ。

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