「木になった亜沙」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|今村夏子

「木になった亜沙」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|今村夏子

著者:今村夏子 2020年4月に文藝春秋から出版

木になった亜沙の主要登場人物

亜沙(あさ)
ヒロイン。幼少期は目立たなかったが中学進学後に荒れ始める。周りに優しくしたいが空回りしてしまう。

山崎シュン(やまさきしゅん)
亜沙のクラスメート。スポーツができて頭もいい。

先生(せんせい)
本職はお坊さん。不良少女たちの面倒も見る。

若者(わかもの)
本名は不詳。仕事をしていないため社会との関わりがない。

ミユキ(みゆき)
若者の彼女。風俗業に従事しているが私生活では潔癖症。

木になった亜沙 の簡単なあらすじ

幼い頃から他人においしいものを食べさせることを目標にしてきた亜沙でしたが、ことごとく失敗に終わってしまいます。

母親が亡くなった頃から非行に走り始めた亜沙は、スキー場で事故死をしてしまい木に生まれ変わることに。

割りばしとしてひとりの若者の空腹を満たすことができましたが、行政処分によって引き裂かれそうになったために無理心中を決行してしまうのでした。

木になった亜沙 の起承転結

【起】木になった亜沙 のあらすじ①

ひと口が遠く届かない

亜沙が母親と一緒に住んでいるアパートの裏手にはひまわり畑が広がっていて、種をフライパンで炒って塩をふるとおやつになりました。

同じ保育園に通っているるみにおすそ分けをしようと思いましたが、「いらん!」と手を振り払われてしまいます。

小学校ではクラスの人気者・山崎シュンが転校する際に、レーズンとピーナッツのクッキーをプレゼントしようとしたものの受け取ってもらえず。

6年生になると3度目の入院をしていた母が危篤状態に、大好物のおすしを買ってきてお見舞いにいきましたが既に息をしていません。

登校・不登校を繰り返しながら卒業した亜沙でしたが、中学校ではすぐに不良グループの仲間入りです。

黒の学生カバンは万引したアルコール類や下着でいっぱい、筆記用具もなく教科書は1冊も入っていません。

たまりかねたのは親代わりとして彼女の面倒を見てきたおば夫婦、夏休みになると山奥の更生施設に送り込まれることに。

ここでも反抗的な態度を崩さなかった亜沙に、辛抱強く向き合ってくれたのは「先生」と呼ばれている仏教関係者です。

【承】木になった亜沙 のあらすじ②

ほろ苦いバレンタインデーに社会復帰からコースアウト

厳しい規律と質素な食事、机とイスしかない「観心の間」、筋肉痛に悩まされるマキ割りと水くみ、老人ホームでのボランティア活動… 半年間という期限付きの暮らしでしたが、亜沙にとっては心身の健康を取り戻すには十分な長さです。

いつしか恋に落ちていることに気がついた亜沙、2月14日には隠し持っていた小銭をかき集めてハート型のチョコレートを購入してプレゼントしてみます。

例によって先生にはやんわりとお断りされてしまい、その理由は亜沙の手がキレイすぎるとのこと。

施設を退所する2日前、ごほうびとしてバスで隣町にあるスキー場へと招待されました。

日頃のうっぷんを晴らすかのように、仲間たちは勢いよくゲレンデへと飛び出していきます。

スノーボードの経験がない亜沙が見よう見まねで滑っていると、初心者向けのコースを外れてしまい目の前には鋭く生い茂る木々が。

遠のいていく意識の中でひたすらに祈り続けた亜沙、目覚めると杉になっていて足元が動きません。

【転】木になった亜沙 のあらすじ③

転生から安住の場へ

森林組合によって伐採、トラックの荷台に載せられて工場へ、業務用カッターで細く小さく、ベルトコンベアで運搬されて透明な袋に包装… 気がつくと亜沙は割りばしとしてコンビニエンスストアに出荷されていて、壁をつたに覆われた一軒家にたどり着きました。

この家の持ち主はガイコツのようにやせ細った高齢の男性、もうひとりは息子で若い男性。

若者はカップラーメンや幕の内弁当を買ってきては、亜沙を使って次々とご飯やおかずを父親と自分の口の中へと運んでいきます。

亜沙が差し出した食べ物を食べる時に、若者が浮かべるのはなんとも言えない幸せそうな表情。

食事のあとは亜沙を台所の流しにまで持っていて、スポンジで洗って水切りカゴで乾かしていて捨てようとしません。

これで最後、今度こそ最後と自分に言い聞かせつつも亜沙はここでの平和がずっと続くことを願っていました。

病弱だった父が亡くなって落ち込んでいた若者、彼を励ますためにミユキという小柄な女の子が部屋にあがり込んできます。

【結】木になった亜沙 のあらすじ④

わが身を燃やしても惜しくないほど愛しい人

体を酷使しながら生きてきたというミユキ、眠りたい時に眠っておきたい時に起きる若者。

ふたりが出会ったのは歓楽街にある夜のお店で、従業員とお客という関係性でした。

結婚するために働くと言い出した若者が、態度を一変させたのはミユキが勝手に部屋の掃除を始めた時。

亜沙をわしづかみにしてポリ袋に入れようとしたために力ずくで止めると、あきれたミユキは立ち去ってしまいそれっきり戻ってきません。

ますます家の中がガラクタがあふれかえってくると、近隣住民からは苦情が舞い込んできます。

市役所の担当者が訪問してきた際には、若者はホースで水を巻き散らして追い返してしまったために大ごとに。

ついには「行政代執行」と書かれた1通の書類がポストの中に、交渉の余地のない最後通告でしょう。

若者と別れるくらいなら死んだ方がましという亜沙、その頭上では同じように元人間で現在は蛍光灯の智花がスタンバイしています。

智花の体が粉々になった瞬間、亜沙は炎に包まれながら若者と運命をともにするのでした。

木になった亜沙 を読んだ読書感想

おいしいものを食べさせることが何よりもの喜びだという亜沙、なぜか裏目に出てしまうのが残念ですね。

心を閉ざしていくのかと思いきや、突如として攻撃性に目覚めるなどつかみ所のないキャラクターです。

ようやく尊敬できる先生に巡り合って、ロマンスの花を咲かせるのかと思いきやまさかの失恋とは。

しかもその理由が美しすぎる手にあるとは何とも皮肉ですが、物語の途中で主人公が死んでしまう展開は予想できません。

割りばしと化した亜沙の心境も淡々としていて、ファンタジーというよりも日常を描くドラマに徹しています。

破滅的な結末にも、どこかピュアな思いを感じてしまうでしょう。

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