著者:誉田哲也 2015年9月に幻冬舎から出版
プラージュの主要登場人物
吉村貴生 (よしむらたかお)
覚醒剤使用の罪で逮捕され会社も解雇された主人公。
朝田潤子 (あさだじゅんこ)
シェアハウス「プラージュ」のオーナー。優しくて料理上手。
小池美羽 (こいけみわ)
プラージュの住人。壮絶な過去を持つ20歳の女の子。
野口彰 (のぐちあきら)
プラージュの住人。中年男性。
加藤友樹 (かとうともき)
プラージュの住人。冤罪事件に巻き込まれ中。
プラージュ の簡単なあらすじ
主人公・吉村貴生はほんの出来心で使用した覚醒剤により逮捕され、仕事も家も一瞬にして失ってしまいます。
そんな貴生は保護司から住人全員が前科者の少し変わったシェアハウス「プラージュ」を紹介をされます。
貴生だけでなく他の住人視点でも物語が進んでいく、犯罪者の更生をテーマにした極上のエンターテイメントミステリーです。
プラージュ の起承転結
【起】プラージュ のあらすじ①
主人公・吉村貴生はごく平凡なサラリーマンでしたが仕事も恋愛も上手くいかず、出来心で覚醒剤に手を出してしまい警察に逮捕されてしまうところからこの物語は始まります。
執行猶予三年で釈放されるものの7年務めた旅行会社は当然解雇、さらに不運は続き住んでいたアパートが火事になり燃えてしまいます。
仕事も家も一瞬にして失い、残ったのは前科だけの貴生への世間の目は冷たく、職も住む場所も一向に決まりません。
そんな貴生は保護司に紹介してもらい、少し変わったシェアハウス「Plage(プラージュ)」に住むことが決まりました。
「プラージュ」は1階がカフェバーで、住人の部屋は2階にカーテンのみの仕切りで7部屋あります。
貴生以外の住人は、男女3人ずつ。
男性は中原通彦、加藤友樹、野口彰。
女性は矢部紫織、小池美羽、オーナーの朝田潤子。
トイレと風呂は共有で、オーナーが作る美味しい食事付きで家賃は5万円です。
職の無い貴生は入居当日からカフェバーの仕事を手伝わされることになり、こうして前科者になった貴生の新しい生活が始まりました。
【承】プラージュ のあらすじ②
毎夜カフェバーには元不良のヒロシやシュウジなどの常連客とプラージュの住人が集まり、夜更けまでバカ騒ぎが続きます。
ある日突然、住人の矢部紫織をたずねて刑事が訪れます。
先日、指名手配中の紫織の元恋人・富樫が紫織と接触したことを知り、逃亡の手助けの疑いで事情聴取を受けるため警察署に連行しにきたのです。
その時のやり取りで貴生は紫織や他の住人たちが前科者であることを知り混乱します。
実は紫織は富樫と幼馴染で恋心を抱いており、富樫に頼まれて預かっていた薬物が警察に見つかり逮捕されたのでした。
現在は弁当屋で一生懸命にアルバイトをする毎日で、富樫の行方など紫織はまったく知らないのです。
しかし前科者の紫織に社会はレッテルを張り、紫織は疑われます。
貴生はここでようやく「プラージュ」の住人がみんな前科持ちだという事実に気が付きました。
「プラージュ」は潤子がボランティアでやっている「更生施設」のようなものだったのです。
通彦は過去に恋人を守るため人の命を奪い、サイコパスな美羽は学生時代襲ってきた男たちの目をえぐり、指や陰茎を食いちぎり、最後は1人の少女の命を奪いました。
【転】プラージュ のあらすじ③
ある夜、貴生は未羽の部屋に呼ばれ身体を重ねます。
しかし貴生は最後まで達することなく、美羽との行為を終わらせました。
なぜなら貴生は美羽に惚れており、心のない行為はできなかったのです。
そんなある日、美羽に指や目を欠損させられた男たちが復讐のため未羽を誘拐、監禁しました。
居合わせた貴生、友樹、彰、ヒロシは一緒に監禁現場へと向かい、部屋の中でぐったりとしている美羽を連れ出そうとしましたが、おとなしく返してもらえるわけもなく乱闘が始まってしまいました。
その中に貴生の姿はなく、部屋の外で怖さで震えながら110番通報をしていました。
部屋では明らかに異様な空気が張り詰めており、彰がナイフで腹を刺され倒れていました。
なおも乱闘が続く中やっと警察が到着し、美羽と彰はすぐに救急車で病院へ、他の関係者全員は警察署へと連れていかれました。
その頃潤子は紫織たちとプラージュで全員の無事を祈っていました。
潤子の父もまた前科者で、殺人を犯し出所後も社会からの排除に耐えきれず自殺してしまったのです。
それを追うように母も病で亡くなり、潤子に残ったものは両親にかけられていた多額の生命保険金だけでした。
潤子はそれを使い4年前に「プラージュ」を設立し、罪を償い真面目に生きていく意思のある前科者が再び社会に出ていくための場所をつくったのでした。
みんなの無事を祈り待ち続けていた潤子の携帯に、どことなく父の面影がある友樹から連絡がありました。
美羽は命に別状はないが、彰は美羽を守ろうとして何度も何度も刺され亡くなってしまったのです。
後日彰の葬儀が執り行われ、プラージュの住人たちは亡くなったのが野口彰ではなく、早見陽一という人物だったことを知ります。
【結】プラージュ のあらすじ④
彰の遺品であるノートPCの中に、プラージュの住人たちへ向けて残した文書がありました。
野口彰は偽名で、早見陽一の正体は加藤友樹を追ってプラージュに潜入した記者でした。
友樹は幼馴染の津田重明を7年前に殺した罪で、一審では懲役12年の実刑判決、その後、二審では無罪放免となり釈放されていましたが、早見は友樹真犯人説の記事を潜入してまで執拗に書き続けていたのです。
しかし早見は住人たちと交流する中で、その自由な在り方や居心地の良さを感じるようになり、世間に向けて友樹をさらし者にするような記事を書くことを辞めたのでした。
そして早見が残した文書の最後は衝撃的なものでした。
「加藤友樹の幼馴染、津田重明の命を奪ったのは、他でもない、この私だ」早見は盗難車ブローカーだった重明と社会の闇を暴く記事が原因でトラブルとなり、誤って命を奪ってしまったのです。
証拠隠滅をはかり捕まる恐怖を抱きながら過ごしていると、なんと重明殺しの犯人として友樹が捕まったのでした。
それは完全なる冤罪で、第三者の虚偽の証言や不運なタイミングなどが原因だったのですが、早見にとっては保身のためにどうしても友樹を犯人に仕立てたかったのです。
記事の終わりは友樹と重明への謝罪、住人への感謝、出頭し罪を償う意思で締めくくられていました。
友樹は抜け殻のような横顔でタバコに火をつけました。
3年後、彰の三回忌にプラージュから出て社会で再出発しているあの頃の住人たちが集まりました。
貴生はコインパーキングの営業マン、恋人の未羽はダンプトラックの運転手、紫織はヒロシと結婚し一児の親、友樹と潤子も入籍し近くのマンションに住んでいます。
全員が彼のことを今も「彰」と呼び、プラージュの店内は今の住人も巻き込んで今日も賑やかです。
プラージュ を読んだ読書感想
この小説の登場人物はほぼ犯罪を犯してしまった人々で、罪は償ったけれど決して消えない過去と前科を持つ人たちです。
犯罪といっても、感情移入できるほどのごく普通の感覚からちょっとした歪みのようなものもありましたが、でもやはり一度罪を犯したものは一生ついてまわるのだと感じました。
犯罪加害者の目を通して見える社会、社会がどれだけ前科者を排除しているのか、犯罪者ではない自分がリアルにその体験をできるのがこの小説のすごいところだと思います。
前科者を受け入れる社会は、理想としてはそうありたいけど、気持ち的にはやはり難しいことだとも思えます。
この物語の面白さはそんな考えさせられるテーマだけでなく、ストーリー構成にもあると思います。
大半が貴生の視点で物語は進むのですが、ときには潤子、紫織、正体不明の記者の視点でも物語が進んでいきます。
この正体不明の記者が誰なのか、この謎がミステリー小説「プラージュ」をより一層面白くしていると思いました。
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