監督:小泉徳宏 2022年10月に東宝から配給
線は、僕を描くの主要登場人物
青山霜介(横浜流星)
本作の主人公。心に闇を抱えた大学生だが、水墨画の巨匠・篠田湖山から弟子にスカウトされ、人生が一変する。
篠田湖山(三浦友和)
日本有数の水墨画の巨匠。霜介の才能を見抜き、弟子にスカウトする。
篠田千瑛(清原果耶)
湖山の孫で、彼に目をかけてもらっている霜介に嫉妬し、ライバル視している。
西濱湖峰(江口洋介)
湖山の一番弟子だが、普段は水墨画を描かず、篠田家の家政婦的な役割を果たしている。
藤堂翠山(富田靖子)
水墨画の評論家。かつては湖山と肩を並べるほどの活躍をしていた。
線は、僕を描く の簡単なあらすじ
砥上裕將さん原作の小説を、『ちはやふる』シリーズで有名な小泉徳宏監督が実写化した作品です。
心に大きな闇を抱える大学生・青山霜介が、バイト先で偶然出会った水墨画の巨匠・篠田湖山から弟子にスカウトされ、水墨画の魅力にとり憑かれていきます。
その中で、霜介はライバル・篠田千瑛と切磋琢磨しながら、自分の過去や人生と向き合い、成長していく姿を描いています。
線は、僕を描く の起承転結
【起】線は、僕を描く のあらすじ①
大学生の青山霜介は、友人・古前巧の代理で、水墨画の展覧会の設営のバイトに行くことになりました。
作業中、霜介は会場に飾られていた椿の水墨画に釘付けになり、無意識に涙を流していました。
その様子を、陰から水墨画の巨匠・篠田湖山が見つめていました。
準備が終わり、霜介が控室でお弁当を食べようとしていると、うっかりケチャップをこぼしてしまいました。
そこへ気さくそうなスーツ姿の老人がやって来て、自分のハンカチで拭いてあげると、「こっちのほうがおいしそうだよ」と、来賓用の高級なお弁当を差し出しました。
霜介は戸惑いつつも、お弁当をおいしそうに頬張りました。
その後、会場では湖山の揮毫会が開かれることになっていましたが、人手が足りないと霜介も助っ人に呼ばれました。
その舞台に登場した湖山が先程の老人だったことに、霜介は驚きを隠せませんでしたが、彼のダイナミックなパフォーマンスに、思わず息を?みました。
霜介の反応に気づいた湖山は、霜介の前にしゃがみ込むと、「私の弟子になってみない?」と、彼をスカウトしました。
数日後、霜介は湖山の一番弟子だという西濱湖峰に連れられ、篠田邸を訪れました。
湖山は霜介を歓迎しましたが、彼はハンカチを返すつもりで来たと恐縮し、自分にはとてもできないと弟子入りを断りました。
ですが、湖山は「できるかできないかじゃない。
やるかやらないかだ」と霜介を諭し、水墨画教室の練習生として彼を迎え入れました。
【承】線は、僕を描く のあらすじ②
練習生として篠田邸に通い始めた霜介でしたが、湖山は墨のすり方さえも満足に教えてくれず、気が付くと居眠りをしていました。
湖山の孫・篠田千瑛は、彼からスカウトされた霜介にあまりいい印象を持っていませんでしたが、基本すらまともに習えていない霜介を見かねて、墨のすり方、水との混ぜ方、筆の持ち方などを細かく解説し出しました。
霜介は素直に驚き、その技術を褒めましたが、千瑛は顔を曇らせたまま、「私はまだまだダメ」とつぶやきました。
その後、霜介は古前に頼まれ、千瑛に大学で水墨画サークルを作るので、その講師を引き受けて欲しいとお願いしました。
千瑛は「自分が講師なんて」と躊躇しましたが、湖山にも勧められ、引き受けることにしました。
大学を訪れた千瑛は、学生達から羨望視され、少し照れながらも悪い気はしませんでした。
霜介は自宅に戻っても何度も何度も練習を繰り返し、技術は上達しましたが、水墨画を知れば知るほど、湖山や千瑛のような心に訴えかける絵が描けず、遠くなっていくような気がしていました。
そんな中、初めて書いた春蘭はもう十分だと確信した湖山は、次に菊を描くよう、霜介に新たな課題を与えました。
【転】線は、僕を描く のあらすじ③
対象の姿形ではなく、心を描くのが水墨画だと言われた霜介は、なかなかその本意を理解できずに悩んでいました。
そして、度々実家で眠っていて、ふと目が覚めると、庭の椿の花が真っ黒に染まっていくという悪夢にうなされるようになりました。
そんな中、湖山会特別展が開かれることになり、霜介の描いた菊も展示されることになりました。
その作品を目の前で酷評され、霜介はショックを受けましたが、相手がかつて湖山と肩を並べるほどの実力の持ち主だった、評論家の藤堂翠山だったと知り、彼女に「あたたかい」と少しだけ褒められたことにテンションが上がりました。
この会場で、湖山が水墨画を披露することになっていましたが、いつまでたっても湖山は現れず、会場中がざわつき始めました。
焦ったスタッフは代理を探そうとしますが、霜介が千瑛を推薦すると、翠山は「この場には湖山の代わりをできるほどの実力者はいない」とばっさり切り捨てました。
実は千瑛は、過去にも翠山に自分の作品を酷評されたことがあり、湖山には認められたいと躍起になっていたのでした。
険悪なムードの中、舞台に勝手に上がった西濱が、見事な龍を描き上げました。
周囲は拍手喝采の大盛り上がりで、初めて彼の水墨画を見た霜介も、思わず圧倒されました。
その後、西濱から湖山が倒れ、病院に搬送されたことを告げられた霜介と千瑛は、慌てて病院へ駆けつけました。
そこで霜介は、千瑛に自分の両親と妹が地震後の水害で亡くなったことを打ち明けました。
霜介は、両親と喧嘩別れするように実家を出ており、最後に妹に「行ってきます」と言えなかったことを悔やんでいました。
水害の映像をテレビで見ていた霜介は、まさか実家の周辺だと思わず、気にも留めていませんでした。
ですが、その後、自分のスマホに妹から「お兄ちゃん助けて」というメッセージが残されていたのを知り、助けられなかった後悔が、霜介の心に暗い影を落としました。
【結】線は、僕を描く のあらすじ④
湖山は一命を取り留めましたが、右手に麻痺が残り、うまく動かせなくなっていました。
それでも彼は、依頼されていた襖絵を仕上げるため、左手で水墨画を描いていました。
それを傍で見ていた霜介は心を痛めていましたが、湖山は「自分の生き方が変われば、線も変わる」と言い、人生と線を描くことは同じだと霜介を諭しました。
千瑛は湖山が倒れた日以来、姿を消していましたが、誰もその行方を探そうとしていませんでした。
霜介は相変わらず、水墨画を描く以外はただ何となく日々を過ごしていましたが、就活に励む古前に「俺は就職を決めた。
お前も、もう前に進む時期じゃないのか」と背中を押され、過去のトラウマと向き合う決意をしました。
その後、霜介が自宅に戻ると、ずっと行方不明だった千瑛が待っていて、過去の話を聞きたがりました。
霜介は自分の心の闇を全て千瑛にぶちまけ、一緒に実家があった場所を訪れました。
そこには、実家の残骸が少し残っているだけで、街の面影もありませんでしたが、椿の枝が奇跡的に1本だけ残っていました。
千瑛は足元に落ちていた椿の花を見つけ、まだ花が新しいから霜介の帰りを待っていたのではと告げました。
それを聞いた霜介は涙を流し、以前とは違う感覚で菊と向き合いました。
その後、ふたりの目標だった四季展が開かれ、千瑛の描いた薔薇が四季賞を受賞しました。
千瑛は翠山と湖山に認められ、この上ない達成感で満たされていました。
一方、霜介の描いた椿は新人賞を受賞しましたが、彼はその場にはおらず、大勢の観客の前で水墨画を披露しようとしているのでした。
線は、僕を描く を観た感想
水墨画にはあまり馴染みがありませんでしたが、白と黒だけでこんなにも美しく、人によって個性を感じる作品を生み出せるという事実が衝撃的でした。
湖山はあまり多くは語らないけれど、ひとつひとつの言葉に重みがあって、霜介に向けられた言葉なのに、不思議と自分の心にも刺さりました。
自分のその時の感情がダイレクトに現れるという点は、和菓子作りにも共通するところがあって、日本の文化の奥深さにも気づきました。
そして、見終わった後にそういえば自分の実家の襖絵も水墨画だったなと思い出したので、知らない間に自分の人生に水墨画が関わっていたんだなと感慨深い気持ちにもなりました。
過去のトラウマと向き合うのは、相当勇気と気合いがいると思いますが、霜介の場合はそのパワーを与えてくれたのが水墨画なのは間違いないし、そこに自然と導かれたという展開が奇跡的で、人生は縁の連続でできているんだなと改めて感じました。
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