「なぎさ」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|山本文緒

「なぎさ」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|山本文緒

著者:山本文緒 2016年6月にKADOKAWAから出版

なぎさの主要登場人物

冬乃(ふゆの)
本作の主人公。佐々井の妻で、自分の意見を言うことが苦手。

川崎哲生(かわさきてつお)
本作のもう1人の主人公。お笑い芸人に挫折し、会社員になるものの辞職する。意志が弱い。

菫(すみれ)
冬乃の妹。明るく社交的な性格。

佐々井(ささい)
冬乃の夫。温厚な性格。会社の激務に疲労し、辞職する。

なぎさ の簡単なあらすじ

故郷を出て佐々井と暮らす冬乃のもとに、ある日妹の菫がやって来て、カフェを手伝ってくれないかと言われます。

迷いながらも冬乃はそれを引き受けますが、なかなか佐々井に言い出すことができずにいるうち、2人の仲は拗れていきます。

一方、芸人に挫折し会社員も辞職した川崎は、姉妹のカフェで働くもののクビになり、途方に暮れます。

しかし、周りの人との交流を通して、2人は自分の信じる道へ歩み出していくのでした。

なぎさ の起承転結

【起】なぎさ のあらすじ①

再会

故郷を離れ、夫の佐々井と2人で暮らす冬乃のもとに、ある日連絡を絶っていた妹の菫が転がり込んできます。

菫の家がボヤを起こしてしまったため、しばらくの間一緒に暮らすことになったのです。

姉の自分と違って明るく社交的で、容姿も整っている菫を見て、冬乃はずっと一緒に暮らしてくれたらいいのにと思いますが、そんなある日、菫にカフェを手伝ってくれないかと打診されます。

現状を変えたい気持ちと変わってしまう恐怖に揺れながら、冬乃はそれを引き受けることにします。

一方、お笑い芸人に挫折して会社員になった川崎は、佐々井の部下として働いていますが、ほとんど仕事がなく、釣り三昧の日々を不安に思い、やめようかと考えます。

そんなある日、大手の取引先と会社との取引が再開し、川崎たちの会社は一気に忙しくなります。

加えて、相手の社長に気に入られた川崎は普段の業務に加えて社長のペットの世話をしたりと休む暇もなく、恋人の百花と過ごす時間もあまりとれなくなってしまいます。

【承】なぎさ のあらすじ②

なぎさカフェ、オープン

カフェを手伝うことに決めたものの、冬乃はそのことをなかなか佐々井に言い出せずにいました。

しかしある日、カフェの準備を手伝ってくれているモリ(菫の友人)が佐々井に話してしまいます。

佐々井は冬乃に2人で話し合おうと言いますが、会社が忙しくなったため、なかなか時間が取れません。

日に日に表情をなくし、夜中に眠りながら苦しそうにしている夫を見て冬乃は不安を募らせますが、オープンしたなぎさカフェの経営は順調で、冬乃も忙しくしていました。

そんな折、佐々井が会社を辞めます。

辛そうな佐々井を見ていた冬乃は安堵しますが、何も相談してもらえなかったことに不満を持ちます。

しかし、冬乃の両親の話を持ち出されて喧嘩になってしまいます。

冬乃の両親は生活保護を受けており、その上娘たちにもお金を要求しています。

冬乃はそんな2人から逃げるように久里浜へ引っ越したのでした。

一方の川崎も百花に振られたのをきっかけに仕事を辞め、なぎさカフェで働き始めます。

ある日、川崎は佐々井と釣りに出かけますが、そこで佐々井に「死にたい」と言われ、驚きます。

【転】なぎさ のあらすじ③

修復

川崎がバイトの主婦に怪我を負わせたことが明らかになり、冬乃は彼を解雇します。

しかし、その後突然菫にカフェを売ろうと思っていると言われます。

最初の頃と違ってカフェの経営に前向きな気持ちになってきていた冬乃は、菫の考えていることが分からず動揺しますが、菫の瞳に憎しみが宿っているのを見てハッとします。

結婚し、新しい住所も告げずに家から出て行った冬乃の代わりに、菫はずっと両親の面倒を見ていたのでした。

結局カフェの持ち主である菫に反対はできず、カフェを手放すことに決まります。

しかし、川崎が去り際に言い残した言葉のおかげもあって、冬乃と佐々井の関係は少しずつ改善していきます。

そしてある日、久しぶりに2人で出掛けた後、冬乃は両親とのことにけじめをつける必要があると感じます。

一方の川崎は、佐々井の調子が戻ったことに安堵していました。

しかし、百花に未練がありつつもなかなか行動に移すことができない自分に悶々としながら日々を過ごしていました。

【結】なぎさ のあらすじ④

これからのこと

冬乃は地元へ帰り、久々に両親と会います。

そして、もう自分の口座からお金を引き出さないでほしいと告げます。

「なんて冷たい子なんだ」と両親は怒りますが、冬乃は「菫のことも諦めてあげて」と言い残して家を出ます。

そして、すぐに菫に電話をかけます。

そこで、菫が自分のことを守ってくれていたという事実を知ります。

冬乃は、自分に酷いことをしたと罪悪感を感じている菫に、両親のことは1人で抱え込まないで、支え合って生きていこうと告げます。

一方の川崎は、芸人時代の同期である紅シャケ君と再会します。

自分はカフェをクビになり、パーキングスタッフの仕事にも悪戦苦闘しているのに対し、人気の劇団に入った彼を羨ましく思うと同時に、川崎は彼の強さに心を動かされ、自分も積極的に行動しようという気持ちになります。

そして、百花に電話を掛けます。

久しぶりに再会した百花に川崎は勢い込んでプロポーズしますが、あっさり振られてしまいます。

それでもしつこく粘る川崎に、百花は堪えきれず笑い出してしまいます。

百花の笑顔を見て、川崎はぎくしゃくしていた彼女との関係が少し修復した気がして明るい気持ちになるのでした。

なぎさ を読んだ読書感想

この作品は、人間関係を詳細に描き出しています。

本作の主人公である冬乃と川崎は、一歩を踏み出すことに臆病になっています。

しかし、周囲の人たちとの交流を通して、2人は徐々に変わっていきます。

この小説の中で特に印象に残ったのは、冬乃と菫の関係です。

なんでも勝手に決めてしまう菫に冬乃は腹を立てており、また、両親を置いて出て行ってしまった冬乃を菫も憎んでいます。

しかし、本当は冬乃は自分とは違って快活でなんでも器用にこなす菫を自慢に思っているし、菫も優しく面倒見の良い姉を慕っています。

このように繊細な人間関係に悩む人々を描きつつ、同時に人の温かみもたっぷり詰まっているこの小説。

ぜひ、気分が落ち込んだ時に読んでほしいです。

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