著者:朝井リョウ 2013年7月に集英社から出版
世界地図の下書きの主要登場人物
太輔(たいすけ)
本作の主人公。伯父に暴力を振るわれ、児童養護施設に入る。
佐緒里(さおり)
みんなのお姉さん的存在。大学に行くため勉強していたが、弟の入院費を払ってくれている親戚の要望で、高校卒業後働かざるを得なくなる。亜里沙という女優に憧れている。
淳也(じゅんや)
太輔と同い年。自分の意見を言うのが苦手で、クラスでいじめられている。
麻利(まり)
淳也の弟。朱音ちゃん(友達)が好きだという発言をきっかけに、いじめられるようになる。
美保子(みほこ)
気が強い性格。カッとなりやすい母親に暴力を振るわれるため、施設で暮らしている。
世界地図の下書き の簡単なあらすじ
小学3年生の太輔は事故で両親を亡くし、引き取られた先で暴力を受け、児童養護施設に引き取られます。
そこで出会った佐緒里、淳也、麻利、美保子と徐々に仲良くなり、その3年後、進学を諦めて働かなくてはならなくなった佐緒里のために、4人は力を合わせて廃止されたランタン飛ばしを復活させます。
佐緒里の引っ越しが目前に迫った日、太輔たち5人は未来への希望と不安に揺れながら、空へ飛ぶランタンを見つめるのでした。
世界地図の下書き の起承転結
【起】世界地図の下書き のあらすじ①
小学校3年生の太輔は事故で両親を失い、引き取られた先の伯母の家で虐待に遭ったため、児童養護施設「青葉おひさまの家」で暮らすことになりました。
同じ班のメンバーは中学3年生の佐緒里、太輔と同い年の淳也、淳也の妹で小学1年生の麻利、そして小学2年生の美保子。
施設に入ったばかりの太輔はなかなか彼らと馴染めずにいましたが、そんなある日、施設でバザーをやることになります。
子どもたちがキルトを作り、それを売ったお金で旅行へ行くのですが、その日程が蛍祭りに重なってしまっていました。
地元のお祭りである蛍祭りでは、「願いとばし」といって家族ごとにランタンを飛ばすのですが、両親と蛍祭りに行く約束をしていた太輔は、みんなで作ったキルトを駄目にしてしまいます。
しかし、そんな太輔の気持ちを汲み、佐緒里は寄り添ってくれます。
そして、家族がいないと願いとばしはできないと塞ぎ込む太輔に、同じ班のみんなは家族だと言ってくれます。
そんな彼らに太輔も心を開いていきます。
【承】世界地図の下書き のあらすじ②
それから3年後、伯母から手紙が届き、太輔は1日だけ伯母の家で過ごすことになります。
しかし、家に伯父の物がないことに気づいた太輔は、伯母が太輔を伯父の代わりにしようとしていることを知り、家を飛び出します。
やっとの思いでおひさまの家に帰った太輔でしたが、母親の家に行っていたはずの美保子は部屋に閉じこもっており、淳也は帰ってこない麻利を探しに施設を飛び出して行ってしまいます。
慌てて追いかけて麻利を見つけたものの、麻利は靴を履かずに雨の中を1人歩いていました。
事情を聞くと、友達の朱音ちゃんにあげたと言います。
以前から違和感を抱いていた淳也がいじめられているのかと問いかけると、麻利は泣きながら、朱音ちゃんが好きだと言うとクラスメイトに笑われること、気持ち悪いと言われることなどを話します。
その後施設に戻ったものの、太輔は佐緒里の様子もおかしいことに気づきます。
親戚に会った佐緒里は進学を諦め、高校卒業と同時に働けと言われたそうなのです。
昨日までと違って参考書も何も置かれていない机を見ながら、太輔は班のメンバーのことを考えます。
【転】世界地図の下書き のあらすじ③
佐緒里の「亜里沙ちゃん(佐緒里が憧れる女優)のようになりたい」という夢を叶えるため、亜里沙が出演する映画のラストシーンを再現しようと太輔たち4人は奮闘しますが、それには3年前に廃止された願いとばしを復活させることが不可欠でした。
そのために6年生を送る会の出し物として願いとばしを推薦しますが、泉ちゃん(麻利のクラスメイトで、いじめの中心人物)に反対されてしまいます。
しかし、我慢の限界がきた麻利は「全校生徒の分のランタンを作ったら、もう私と朱音ちゃんに関わらないで」と告げます。
そうしてランタン作りを始めた太輔たちでしたが、材料が足りず、学校から盗んでしまいます。
数日後にそれがばれてしまい、施設に学校の先生が来ますが、先生は太輔たちの情熱に折れ、なんとか願いとばしを中止せずにすみます。
その後、6年生を送る会で無事願いとばしが開催されますが、4人はその場を離れ、近くの神社へと向かいます。
そこには、引っ越しを目前に控えた佐緒里がいました。
【結】世界地図の下書き のあらすじ④
5人で空に昇っていくランタンを見ながら、太輔が佐緒里の夢を叶えられたことにほっとしていると、その横で美保子が話し始めます。
美保子は、前回家に帰った時に母親が自分の知らない男の人と仲良さげにしていたことにショックを受けましたが、もう一度一緒に暮らしてみようとしているのだと言います。
また、淳也は麻利の頭を撫でながら、自分達は転校するつもりだと言います。
4人だけで願いとばしを復活させるというすごいことができたのだから、転校することくらい簡単に乗り越えられるだろうと笑顔で言う淳也に、太輔は悲しみを覚え、思わず「俺だけ残されて、これからどうすればいいの」と言ってしまいます。
そんな太輔に佐緒里は、大丈夫だと声を掛けます。
「私達は、絶対にまた私達みたいな人に出会える。」
そう慰める佐緒里ですが、自分自身も未来への不安に堪えきれず、泣き出してしまいます。
涙でぼやけるランタンを見つめながら、太輔は佐緒里のことをずっと好きだったのだと自覚します。
世界地図の下書き を読んだ読書感想
この小説は、それぞれ事情があって本当の家族と暮らすことができなくなってしまった子どもたちが主人公です。
悩みながらも前へ進む子どもたちの姿に感動しますが、中でも印象に残ったのは佐緒里です。
物語の終盤、今まで通りお姉さん的存在としてみんなを励まし、それぞれの道の先にも同じだけの希望がある、と言った佐緒里は、そこで「そう思ってないと、負けそう」と口にします。
これは、佐緒里が初めて弱音を吐く場面です。
しっかり者の佐緒里のそのような姿に、私達読者はハッとすると同時に、本当は周りの子と同じように不安を抱えているのにそれを表に出さなかった佐緒里の強さに胸を打たれます。
壁にぶつかって挫けそうになった時、どうしようもなく辛くなった時にぜひ読んでほしい小説です。
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