「蜂の物語」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|ラリーン・ポール

「蜂の物語」

著者:ラリーン・ポール 2021年6月に早川書房から出版

蜂の物語の主要登場人物

フローラ七一七(ふろーらなないちなな)
主人公。衛生蜂であるフローラ族として生まれる。醜く規格外に大きい。

シスター・サルビア(しすたーさるびあ)
巫女の一族であるサルビア族の一員。巣を実質支配している。

女王(じょおう)
蜂たちの母。愛情深く、崇拝されている。

シナノキ卿(しなのききょう)
小柄な雄蜂。居丈高だが気のいい面もある。

ユリ五〇〇(ゆりごまるまる)
有能な外役蜂。フローラ七一七に外役蜂の知識と情報を与える。

蜂の物語 の簡単なあらすじ

教理で厳重に管理され、生まれた時から役割が決まっている蜂の巣で、フローラ七一七は巣の最下層の衛生蜂として生まれました。

女王以外は卵を産んではいけない掟を破って、フローラ七一七は3回卵を産みました。

1つ目は生殖警察に殺され、2つ目は養蜂家に持ち去られてしまいました。

ですが3つ目は育てあげることができて、その子は女王となりました。

蜂の物語 の起承転結

【起】蜂の物語 のあらすじ①

それぞれの役割

フローラ七一七はフローラ族という巣の清掃を担う最下層の衛生蜂として生まれました。

生まれてすぐに、規格外に大きかったため生殖警察に殺処分されそうになりました。

ですが、巫女の一族であるサルビア族のシスター・サルビアのはからいで免れました。

シスター・サルビアは実験と称して、フローラ七一七をまず第一区の育児室に連れていきました。

そこでは女王が産み付けた卵の孵化から乳離れまで幼虫の世話をします。

フローラ七一七はフローラ族が本来作れるはずがないフローという幼虫の食糧を生成することができたので、育児室で育児蜂であるオニナベナ族とともに授乳をしました。

シスター・サルビアは次にフローラ七一七を第二区へ連れていきましたが、すぐに第一区へ呼び戻されました。

第一区では生殖警察が、翅の奇形が見つかったこと、それは「子を産めるのは女王だけ」という教理に背いて子を産んだ異端者が巣にいるためと言って、フローラ七一七を含めた育児蜂全員と幼虫を調べました。

そしてある幼虫を処分しようとしたとき、シスター・サルビアはフローラ七一七に始末させるよう命じました。

フローラ七一七は幼虫を始末することができず、頭に直接響く「始末せよ」という声の衝撃で倒れました。

フローラ七一七が意識を取り戻すと、悪臭のする小部屋にいました。

そこではクローバー族の蜂がサルビア巫女たちに、卵を産んだ罪を詰問されて、毒針で殺されました。

フローラ七一七はサルビア巫女たちによってこれまでの記憶を封じられ、ただの衛生蜂に戻りました。

【承】蜂の物語 のあらすじ②

愛する者たちとの出会い

フローラ七一七は雄蜂の到着の間を掃除していると、視覚・聴覚・嗅覚・知能が戻ってきました。

花蜜を集めてきた外役蜂が帰ってきたところに遭遇しました。

フローラ七一七は外役蜂に付いて羽ばたきの間に行きました。

そこへ雄蜂たちが押し入ってきました。

雄蜂のひとりシナノキ卿がフローラ七一七に自分の世話係を強いてきましたが、サルビア巫女の一団がやってきた隙に逃げ出しました。

行きついたのは死体置き場でした。

そこでは知性のあるフローラ族の精鋭が死体を外に捨てる任務を担っていました。

フローラ七一七は族姉妹に付いて着地板に行きました。

そこでユリ五〇〇という外役蜂に出会い、死体の落とし場所まで連れて行ってもらいました。

巣に戻るとスズメバチに攻撃されていました。

フローラ七一七は集合意識を読み取り、他の蜂とともにスズメバチを攻撃して巣を守りました。

シスター・サルビアは、危機に際して集合意識を読み取るものは女王に会うことができるという古い法にのっとり、フローラ七一七を女王に会わせることにしました。

フローラ七一七は女官たちに女王の図書館へ同行させられ、触れると外敵や粛清などを脳内で体験できる6つの羽目板に触れるよう促されました。

3枚目に触れていると、ついに女王が部屋に現れました。

女王はフローラ七一七に自分の代わりに羽目板に触れて内容を教えるよう頼みました。

フローラ七一七は6枚すべてに触れました。

ですが、女王に気に入られたことに嫉妬した女官によって、そば仕えの任を解かれ、フローラ七一七からはすべての記憶が消えていきました。

ユリ五〇〇が座標を教えた花は毒霧に汚染されていました。

ユリ五〇〇は巣を危険にさらした者として死刑となりました。

処刑の直前、フローラ七一七はユリ五〇〇から外役蜂としての知識と情報を受け取りました。

【転】蜂の物語 のあらすじ③

献身と掟破り

フローラ七一七は密かに卵を産みました。

ありえない事態に動揺しましたが、なりゆきで産卵室の一室に卵を置くことができました。

朝になり、フローラ七一七は汚染源を突きとめる偵察隊に選ばれました。

汚染された花で死んだばかりのマルハナバチから話を聞き、花はユリ五〇〇が来た後に汚染されたことを知りました。

巣に戻ったフローラ七一七は、外役に就くことを認められました。

一方、フローラ七一七の子は生殖警察に殺されてしまいました。

フローラ七一七は再び卵が産まれる予感がして、卵のベッドとなる蜜蝋を作る技術を蜜蝋礼拝堂で学びました。

サルビア族の死体が安置されている秘密の部屋にたどり着き、そこで卵を産みました。

花蜜集めにいったフローラ七一七は携帯電話の中継塔の周波にとらわれましたが、スズメバチが助けてくれました。

心を許したフローラ七一七はスズメバチの罠にかかりましたが、何とか逃げ延びました。

巣に帰ると養蜂家の老人が巣箱から蜂蜜を収穫していました。

フローラ七一七の卵も持ち去られてしまいました。

フローラ七一七は心を閉ざして外役の仕事に精を出しました。

蜂の命と引き換えに知識を与えるクモは、冬が二度やってくること、フローラ七一七がもうひとつ卵を産むことを告げました。

巣の雄蜂は、冬を前に殺され、あるいは放逐されました。

フローラ七一七は死体置き場で殺戮を免れたシナノキ卿を見つけましたが、見逃しました。

冬を乗り切るために蜂たちは女王を囲み、蜂球になりました。

フローラ七一七が命の尽きた仲間を看取っていると、巣に隠れていたシナノキ卿が姿を現しました。

フローラ七一七はシナノキ卿を衛生蜂の中にかくまいました。

フローラ七一七は花蜜集めで温室へ行き、そこで出会ったクモから、父親がよそ者であること、自分が巣に禍をもたらす存在であることを告げられました。

ネズミが巣に侵入してきたので蜂たちは退治し、死体に保存処理をほどこしました。

【結】蜂の物語 のあらすじ④

新たなる時代

春になり、女王が再び産卵を始めました。

巣は喜びにあふれました。

ですが、女王は病んでいて、病気の子供を産んでいたのです。

聖なる法の掟により、女王は殺されました。

新しい女王が来るまでの間に、フローラ七一七は立ち入り禁止になっているネズミの死体のそばに3つ目の卵を産みました。

新しい女王がなかなか到着しないので、巣の蜂たちは次第にいら立ちました。

サルビア族と、サルビア族を快く思っていなかったオニナベナ族との対立が表面化しました。

フローラ七一七がわが子にフローを与えているとシスター・サルビアが踏み込んできました。

フローラ七一七はシスター・サルビアを殺しました。

サルビア族とオニナベナ族はそれぞれ自分の族の王女を擁立しました。

オニナベナ王女をサルビア王女が殺しました。

サルビア族がサルビア王女の女王宣言をしているところに、成虫となったフローラ七一七の子がやってきて王女として名乗りを上げました。

二人の王女は戦いました。

そこへスズメバチが襲来しました。

サルビア族とサルビア王女は巣に残り、フローラ七一七の子供は巣の仲間とともに巣を捨てて旅立ちました。

フローラ七一七の子はシナノキ卿と結ばれて女王となりました。

蜂の物語 を読んだ読書感想

蜂の生態を精緻に、かつ大胆にデフォルメして紡がれる物語に圧倒されます。

蜂視点で描かれる世界がまた素晴らしかったです。

携帯電話の中継塔や街の様子など、文章をかみしめながらこれは何のことだろうと想像をめぐらすのも楽しく、絵でなく文字で情景を描く小説ならではの楽しみにあふれています。

本書はいわゆるディストピア文学ですが、蜂たちには余暇や娯楽が無いことを鑑みると、信心深く、与えられた役割に疑問を持たずに働き、命を全うするという一生は、そこまで悪くないのではないのではと思いました。

反対に、余暇や娯楽があるからこそ人間は思い悩み苦しむのではないか、とも思いました。

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