「彼女と風と押し花と」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|松波季子

彼女と風と押し花と 松波季子 2011年9月

著者:松波季子 2011年9月に文芸社から出版

彼女と風と押し花との主要登場人物

折原かれん(おりはらかれん)
ヒロイン。勉強とプライベートを両立させる女子大生。きちょうめんで筆まめ。

岸本さつき(きしもとさつき)
かれんの親友。人当たりが良くサバサバとしている。

桐谷拓海(きりたにたくみ)
かれんの彼氏。男っ振りがよく頼りになる。

彼女と風と押し花と の簡単なあらすじ

大学への進学を期にひとり暮らしを始めた折原かれんは、キャンパス内で出会った岸本さつきと親しくなっていきます。

サークル活動を通じて知り合った桐谷拓海との交際も順調な中、突如として末期ガンの告知を受けたのはふるさとの母親です。

容体が悪化した母は間もなくこの世を去りますが、かれんは手紙の中に残されていたメッセージに気が付くのでした。

彼女と風と押し花と の起承転結

【起】彼女と風と押し花と のあらすじ①

ふたりの田舎娘が都会で巡り合う

長野県のいなか町で生まれ育った折原かれんは、平凡なサラリーマンの父親と専業主婦の母親に育てられました。

5つ離れた姉は優秀なために何かにつけて比べられることが多く、両親への反抗の意味も込めて都内の大学受験を考え始めます。

第一志望の学校に合格してワンルームのアパートに引っ越しを済ませたかれんの胸のうちは、自分だけの城を手に入れた喜びでいっぱいで寂しさや不安はありません。

入学式やオリエンテーションがあっという間に終わった頃、かれんが常に一緒に行動するようになっていたのは岸本さつきです。

かれんと同じく東京に憧れて秋田から単身で上京してきたという彼女とは、初対面の時から馬が合いました。

夏休みになるとかれんは長野に帰郷しましたが、さつきを実家に招待して両親に紹介します。

父も母もとてもさつきのことを気に入った様子で、夏のあいだはずっとここに居て構わないそうです。

子どもの頃のこと、高校時代のこと、将来のこと、毎晩寝る間を惜しんで語り合い話題は尽きません。

【承】彼女と風と押し花と のあらすじ②

恋も友情も咲きほこる

大学2年生になったかれんはテニスサークルの中でも特に女子から人気のある先輩、桐谷拓海とお付き合いを始めました。

夏の合宿での彼からの告白、右の手首に巻いたおそろいのミサンガ、ふたりっきりで過ごしたお互いの誕生日。

拓海との恋人としての関係性を順調にステップアップしていくかれんですが、さつきとの友情は変わりません。

長野の母とはこまめに連絡を取り合っていましたが、携帯電話やメールではなく昔ながらの文通を続けています。

順風満帆な大学生活のこと、アルバイト先であった小さなトラブル、朝昼晩に食べたもの。

さつきにとっては何でも打ち明けられる良き相談相手でしたが、恋人ができたことについてはまだ報告していません。

どのように文章で表現すればいいのか分からないのと、ちょっぴり恥ずかしい気持ちとが半々です。

ついつい先延ばしにしているうちにかれんは東京での3度目の春を迎えていて、周りは就職活動で慌ただしくなっていました。

【転】彼女と風と押し花と のあらすじ③

すれ違う親子と立ち込める暗雲

地元に戻ってきて安定した職種についてほしい母と、まだまだ東京に残ってやりたいことを見つけたいかれん。

両者の間では少しずつ意見の違いが鮮明になっていて、これまでは欠かさずに続けていた手紙でのやり取りも途絶えがちです。

そんな最中に実家の番号で留守番電話が入っていて、リダイヤルボタンを押すと父の不安げな声が聞こえてきました。

毎年受けている健康診断で母にガンが見つかったこと、詳しい再検査が必要なこと、明日からしばらくは入院の必要があること。

週末のスケジュールをすべてキャンセルしたさつきは、すぐさま特急電車に飛び乗って2月の冷たい風が吹き付ける長野へと帰ります。

入院先の6人部屋で久しぶりに見た母はひどく疲れて小さくなったようで、別室に待機していた担当医から聞かされた話はさらに深刻でした。

母の病気は子宮けいガンで進行状態はステージのスリー、すでに手術は不可能なほど悪化していて放射線と抗がん剤治療で様子をみるしかありません。

【結】彼女と風と押し花と のあらすじ④

命の書き置き

4年生になったかれんは東京と長野を行き来していましたが、骨と肺に転移が確認され再入院することになった母は日に日に弱っていました。

手紙だけは1カ月に1通のペースで送られてきますが、季節の押し花が添えられています。

8月には朝顔、9月はイヌタデ、10月は七変化、11月はテングノハウチワ、12月はるりびょうたん。

最後の方は起き上がれない母に代わって父が花を摘みに行ったそうで、文字にもほとんど力が入っていません。

家族に見守られて眠るように母が旅立っていったのは、年が明けた2月10日のことです。

葬式、法要、大学の卒業式と目の前の雑事に追われている毎日で、残された者には悲しみにくれる時間もありません。

かれんが声をあげて泣くことができたのは、新社会人としてのスタートのためアパートを引き払う準備をしていた時です。

亡くなる直前に届いた5通の手紙を順に並べてみると、押し花の頭文字が母の伝えたかった言葉になっています。

朝顔の「あ」、イヌタデの「い」、七変化の「し」、テングノハウチワの「て」、るりびょうたんの「る。」

かれんの涙は春の日差しを浴びてキラキラと輝き、4月の風が長い髪を優しく揺らしているのでした。

彼女と風と押し花と を読んだ読書感想

オープニングで引っ越しの荷物を片付け終わった主人公・折原かれんが、小さな部屋の窓を開け放って自由を満喫するシーンがほほえましいです。

親元を離れて念願のひとり暮らしをスタートする瞬間に、誰しもが同じような経験をしたはずであり共感できるでしょう。

地方と都会での考え方や価値基準の違い、ジェネレーション・ギャップはありながらも昔ながらの方法でしっかりとコミュニケーションを取る母と娘にも心が温まります。

穏やかなストーリー展開かと思いきや終盤には痛切な別れが待ち受けていますが、確かな親子の絆を感じることができました。

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