著者:戌井昭人 2012年4月にリトルモアから出版
松竹梅の主要登場人物
松岡(まつおか)
主人公。小学5年生だが世間ずれしている。ひょうきん者でみんなを笑わせるのが好き。
竹村(たけむら)
松岡の幼なじみ。鼻っ柱が強く何事にも動じない。
梅田(うめだ)
松岡のクラスの転校生。気弱だが家事はきっちりこなす。
キミ(きみ)
梅田の姉。高校を卒業してすぐに風俗業に従事。能天気で屈託がない。
半田(はんだ)
松岡たちの担任。家庭でのストレスを外で発散させる。
松竹梅 の簡単なあらすじ
先生やクラスメートからまったく相手にされていない松岡と竹村のコンビに、岐阜から転校してきた梅田が加わります。
3人はそれぞれの頭文字を取って「松竹梅」と呼ばれていましたが、相変わらず学校の中では浮いた存在のままです。
松岡は歌手、竹村はボクサー、梅田は料理人と少しずつやりたいことを見つけて成長していくのでした。
松竹梅 の起承転結
【起】松竹梅 のあらすじ①
東京都文京区の本郷弥生交差点から隅田川にかかる言問橋を抜けた先に、松岡の通っている小学校がありました。
松岡の母親はスナックを切り盛りしていて、そこの常連に竹村というタクシー運転手がいます。
親同士が顔見知りで同い年のために、松岡と竹村は小学校に通う前からの仲良しです。
独特な雰囲気で周りを圧倒していたふたりは明らかに異質な存在で、休み時間になると非常階段に隠れて花札やサイコロをやっていました。
5年生に進級した時に岐阜県から引っ越してきたのが梅田ですが、服装や話し方が変わっているためにクラスに溶け込めません。
いじめられていたところを松岡たちに助けられた梅田は、それ以来ふたりの後ろにくっついて行動するようになりました。
久しぶりに新しい友だちができたお祝いにと、放課後になると3人は駄菓子に寄り道をしてジュースで乾杯をします。
梅田が見違えるように元気になっていることに気がついたのは、早くに両親を亡くして女手ひとつで弟を育てているキミです。
【承】松竹梅 のあらすじ②
梅田がピンク地に猫のイラストがプリントされたTシャツを着て登校してきたり、女言葉を使っているのもキミの影響です。
梅田の姉に興味を持った松岡と竹村は、彼女が働いているという吉原のソープランド街へ行ってみることにしました。
ふたりとも「ソープランド」とは何をする場所なのか正確には分かりませんが、男女が裸になって泡にまみれて踊るようなものだと想像しています。
白亜のお城のような建物の前まで来ましたが、入り口に黒いスーツを着た屈強な大男が立っているために中には入れません。
キミが今の仕事を辞めて針きゅう師の学校に行くと言い出したのは、馬道通りにある「江戸前寿司」に招待してすしをごちそうしてくれた時です。
職人たちの無駄のない動き、キラキラと光る包丁、お酢の香り、ショーケース越しに見える色とりどりの魚や貝、カウンターの木目。
店内は目に映る何もかもが新鮮で、もともと料理が得意だった梅田はこの瞬間からすし職人になりたいと決意しました。
【転】松竹梅 のあらすじ③
仲本リツコは父親が日本人、母親はスペイン系フィリピン人でスタイルが良くエキゾチックな美しさを備えていました。
松岡たちのクラスに編入してきたのは2学期の始めで、10月の休日には4人で葛西臨海公園までサイクリングに行きます。
まもなく宝石商をしている父親の都合でサンフランシスコに移住することが決まり、せっかくできた仲間が急にいなくなったため竹村は寂しいです。
週に3回ボクシングジムに通っている竹村は、アメリカに留学経験があるトレーナーに相談してみました。
向こうでは8歳からアマチュアテストを受けられるそうで、ジムの会長も渡航費を集めるための募金箱を設置してくれます。
今まで以上にトレーニングに打ち込むようになった竹村、すし屋で下働きをするようになった梅田。
急に忙しくなったふたりは、これまでのように非常階段でのギャンブルや下校途中の買い食いにも付き合ってくれません。
授業をサボって図書室で寝ている松岡は、何となく取り残されたような気持ちです。
【結】松竹梅 のあらすじ④
松岡、竹村、梅田を合わせて「松竹梅」と名付けたのはこのクラスを受け持つ半田です。
いつもは嫌みばかり言ってくる半田も、日当たりのいい床の上で昼寝をしている松岡を見て「うらやましい」と愚痴をこぼしました。
半田の妻も以前は教師でしたが結婚してすぐに退職してしまい、一日中家の中でテレビを見ています。
マンションに帰ってもテーブルに菓子パンかお弁当が置いてあるだけですが、土地も建物も妻の実家の名義になっていますので文句は言えません。
ストレスから自転車であおり運転をしたり、酔っ払って駅前で暴れたりと近頃の半田は奇行が多いです。
世の中のこと全部が面白くないという陰気な顔をした、半田のような大人にだけはなりたくありません。
母親のスナックでカラオケを歌って客からお小遣いをもらっていた松岡は、自分で演奏するためにギターを習うことにします。
浅草の国際通りにあるギター教室の先生はかなりの高齢で、その昔は上野や新橋で流しをやっていたことで有名です。
先生と一緒にバーで「ラストダンスは私に」を熱唱して大喝采を受けた松岡は、この先に何が待ち受けていようとも歌い続けることを誓うのでした。
松竹梅 を読んだ読書感想
上品で知的な本郷を隅田川に沿って下っていくと、下町のムードが満点な千束の町並みと愉快な3人組に会えるような気がしました。
「松竹梅」というおめでたい響きとは裏腹に、やさぐれ感を漂わせた小学生たちの日常がユーモラスに描かれています。
ふざけきった学校生活を送っているように思える松岡たちも、家庭ではそれぞれが複雑な事情を抱えているのかもしれません。
教育者としては失格で大人気ない半田のようなキャラクターも、どこか哀れみを誘っています。
落ちこぼれのレッテルを貼られていた少年たちが、将来の夢を見つけて小さな一歩を踏み出していくラストが清々しいです。
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