「青春の埋み火」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|狩野見神作

「青春の埋み火」小説

著者:狩野見神作 2012年4月に文藝書房から出版

青春の埋み火の主要登場人物

鈴川美奈子(すずかわみなこ)
ヒロイン。大家族と大勢の同世代に囲まれながら育った団塊の世代。恋する自分を大切にする。

滝沢清一(たきざわせいいち)
美奈子の中学時代のクラスメート。進学・就職と要領よくこなす。

狩野綾子(かのうあやこ)
清一の妻。大学生の時に付き合い始める。献身的で気配りがうまい。

北川義男(きたがわよしお)
美奈子の義父。放とう者の息子に悩まされる。

北川美奈江(きたがわみなえ)
美奈子の娘。不遇な環境にも負けず勉学に励む。

青春の埋み火 の簡単なあらすじ

長野県のいなか町で暮らしていた鈴川美奈子にとっての初恋の相手は、都会からやって来た滝沢清一です。

地元で就職した美奈子は結婚相手に恵まれずに苦労をしますが、都内の大学へ進学した清一は銀行員としてもプライベートでも順調にステップアップしていきます。

ふたりが再会を果たしたのは還暦を間近にした頃ですが、間もなく清一は病によって亡くなるのでした。

青春の埋み火 の起承転結

【起】青春の埋み火 のあらすじ①

未来の花嫁を母と息子でガード

天竜川の西から木曽山脈に向かって南北に細長く広がる人口8000人程度の町、伊那谷に鈴川美奈子は1947年に生まれました。

中学2年生になると父親の転勤に伴って転校してきた滝沢清一に恋をしますが、男女交際にまでは発展しません。

ふたりが親しくなったのは高校に進学して帰宅時間が遅くなった美奈子が、不審者に追いかけられていた時に清一の家に駆け込んで助けを求めたのがきっかけです。

清一は母親の登志江に言われて放課後の送り迎えをするようになり、美奈子も自然と滝沢家に出入りするようになりました。

登志江が美奈子のことを「息子の婚約者」と近所に触れ回ってからは、ストーカーの被害もピタリと止みます。

美奈子が飯田市内にあるデパートに就職が決まって、清一が大学受験に失敗して浪人生活に入ってからも相思相愛は変わりません。

美奈子は初任給でカフスボタンとネクタイピンのセットを、清一は就職祝いに宝石箱のようなオルゴールを贈って将来を誓います。

【承】青春の埋み火 のあらすじ②

心に残って消えない火

無事に東京の有名大学に合格した清一は渋谷区で下宿、通勤時間が苦になっていた美奈子は勤め先から歩いて20分ほどのアパートでひとり暮らし。

それぞれが生活の拠点を別々の場所に置くようになったために、会うのは清一が帰郷してくる夏休みくらいしかありません。

ふたりのすれ違いが決定的となったのは、大学4年生になった清一が試験のために1冊のノートを狩野綾子から借りた時からです。

その日から清一はキャンパス内で綾子の姿を探すようになり、声をかけて一緒に行動するようになりました。

東京を案内してもらうために美奈子は長期休暇を取得して明治神宮前で待ち合わせをしましたが、久しぶりに清一に会った瞬間にすべてを悟ります。

美奈子は家族から勧められた縁談をうけてデパートを退職、清一は綾子の父親の口添えで銀行に就職。

情熱的な青春から現実的な安定へと乗り換えた美奈子でしたが、清一への思いは「埋み火」となって胸の奥底で燃え続けたままです。

【転】青春の埋み火 のあらすじ③

明暗が別れたふたりの結婚生活

娘の美奈江を授かった美奈子でしたが、夫は外で浮気を続けていて家に生活費を入れることも帰ってくることもありません。

高校受験を控えている美奈江のために、美奈子は公衆電話の清掃員から山荘のレストランの職員まで職を転々としていました。

離婚が成立した後も浮気相手と遊び歩いていた夫が警察の厄介になったことを、美奈子は義理の父親・北川義男から知らされます。

息子とは縁を切ったという義男でしたが、孫の美奈江とだけは離れたくありません。

美奈子が白川家の養子になることと引き換えに、義男は美奈江の将来と経済的に安定した生活を保証してくれました。

一方の清一は夫婦仲がよく波乱もなく、細やかな綾子のサポートのおかげで銀行内でも順風満帆に出世を遂げていきます。

清一が結婚が決まった部下に主賓として祝辞を頼まれたのは、50代の半ばになって融資部長の肩書を手にしたことです。

招待状に書かれていたお相手の名前は北川美奈江、勤務先は伊那谷の鉄鋼会社、父親がいないために式には母親のみ出席。

不思議な胸騒ぎを覚えて迎えた結婚式の当日、清一は相手側の新婦の母として美奈子と再会しました。

【結】青春の埋み火 のあらすじ④

輝く思い出の品と命の火が消える時

披露宴が終わると新郎新婦と若い友人たちは二次会へと向かっていき、美奈子と清一はふたりだけで言葉を交わす機会がありました。

今のふたりにはそれぞれがこれまでに築いてきたキャリアや家庭があり、ここで過ちを犯す訳にはいきません。

人目を気にせず会えるのは、数年後に予定されている還暦のお祝いを兼ねた中学校の同窓会くらいです。

待ち望んだクラス会ではあらかじめ打ち合わせしていた通りに会場を抜け出して、お互いの思い出のプレゼントを見せ合います。

清一のコートの下にはかつて美奈子が初めての給料で買ったカフスボタン、美奈子が運転してきた自動車のダッシュボードには今でも音色を奏でるオルゴール。

何10年も「青春の埋み火」を抱いて待ち続けていた美奈子は次に会える日を楽しみにしていましたが、清一を介して電話番号を交換していた綾子が夫の訃報を連絡してきます。

自分が葬儀に出ることを許されない立場であることをわきまえていた美奈子は、お悔やみを述べて後日お墓参りに行くことだけを告げるのでした。

青春の埋み火 を読んだ読書感想

実家には祖母から孫まで3世代が同居してきょうだいは4人から5人、小学校では1クラスが50人以上で教室からはみ出しながら授業。

この物語の主人公・鈴川美奈子や滝沢清一と同じく、1947年から49年にかけての第1次ベビーブームに生まれた方たちには懐かしい風景が思い浮かんでくるでしょう。

のどかな山奥で貴重な青春時代を満喫している美奈子と清一にも、やがては激動の運命へとのみ込まれていくような予感も伝わってきます。

10代に育んだ美しい思い出を、大人になってからもピュアな関係のままで貫き通したふたりの男女には心が温まりました。

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