著者:菅原和也 2014年8月に角川文庫から出版
さあ、地獄へ堕ちようの主要登場人物
ミチ
本作の主人公。SMバーでM嬢として働いている。
ルーシー
同僚。プロ意識の強い天性の女王様。
リスト
同僚。美しく自由気ままな女性。過激な身体改造を行っている。
タミー
ミチの幼なじみ。かつては臆病な性格だったが、再会した際には一変している。
脚切り
身体改造クラブの主催者。自身の両脚を切り落としたことからその名で呼ばれている。
さあ、地獄へ堕ちよう の簡単なあらすじ
SMバーで働くミチは、薬とアルコールに浸りながら過ごしていました。
幼なじみのタミーと再会したとき、彼が死体の写真が集められた裏サイト《地獄へ堕ちよう》に関与していることを知ります。
店の同僚の女性「リスト」やタミーが裏サイトに関連した死を遂げましたが、その死は一切報じられません。
ミチは彼らを失った悲しみを抱え、裏サイトの正体を追いかけて闇に踏み込むのでした。
さあ、地獄へ堕ちよう の起承転結
【起】さあ、地獄へ堕ちよう のあらすじ①
SMバーでM嬢として働くミチは、心療内科の薬とアルコールに浸りながら過ごしていました。
生まれながらの女王様であるルーシーや、自分の店を持つために貯金をしているクッキーちゃんのような理由や目標もなく、空っぽのままで仕事を続ける日々。
希死念慮を抱えながら行きつけの病院に向かったとき、薬局の待合室で幼なじみのタミーに再会します。
2人は高校まで一緒に過ごしていましたが、タミーが高校を突然中退してから会えなくなっていました。
臆病で弱気だったはずの彼が、他者が視界に入っていないかのように振る舞うことに違和感を抱くミチ。
彼が高校を中退したときのある噂が頭をよぎりました。
一緒に暮らしていた女性と住めなくなって行き場を失っていたタミーを家に泊めることになり、出来心から彼が眠っている間にデジタルカメラを見てしまいます。
そこには腹を切り裂いて内臓を摘出された女性の写真がありました。
詰問するミチに対して、タミーは一緒に暮らしていた女性を殺したのだと打ち明けます。
殺す人間と殺される人間をつなぐWebサイトがあるのだと伝え、高校に来なくなった時期に「特別な存在として生まれ変わるために自分の目を抉った」のだと高揚した様子で話しました。
彼の左目は義眼でした。
【承】さあ、地獄へ堕ちよう のあらすじ②
混乱したミチは薬を流し込んで眠ってしまい、目覚めたときにタミーは姿を消していました。
ノートパソコンに残された《地獄へ堕ちよう》というHPを殺人請負の仲介サイトだろうと考え、手を染めてしまったタミーを説得して自首させようと考えます。
それと平行してサイトについての情報収集を始めました。
店に行くと、自由気ままで美しい同僚の女性、通称「リスト」の姿がありました。
彼女が過激なパフォーマンスを披露した後で客との騒動が起こり、ミチはリストに手を引かれて店を逃げ出します。
部屋に招かれて身体改造やタトゥーの話を聞かされ、身体改造者のパーティーに「脚切り」という知り合いがいると紹介されました。
その場で彼女に愛を囁かれ、乳首にピアスを刺される目に遭いました。
騒動で店をクビになったミチは、部屋に戻っていたタミーと一緒に暮らし始めます。
そんな中、裏サイトの死体画像にリストの肌に刻まれたタトゥーが映っているのを発見し、部屋に駆けつけて皮膚を剥がされた死体を目にしました。
第一発見者のミチに刑事は「裏サイトのことは忘れるように」と告げ、それ以来事件は報道されていません。
リストの死の理由を解明しようと決めたミチに、タミーはナイフを渡して「これで体を切り裂いてほしい」と頼みます。
刃物を使ったSMプレイの後、ミチが疲れて眠っている間にまたしてもタミーは姿を消しました。
【転】さあ、地獄へ堕ちよう のあらすじ③
タミーは去る時にサイトの履歴を消していました。
部屋の鍵を手掛かりに、リストを殺したのは彼女と親しい人間だと考え、元同僚のルーシーに電話してサイトについて尋ねます。
彼女は《地獄へ堕ちよう》 は一種のSNSだと話してURLを教え、ルールを破ると酷い目に遭うから登録の際は気を付けるようにと忠告しました。
ミチはリストに紹介されたパーティーに向かい、おぞましい身体改造の数々を目にします。
電動車いすに乗った主催者の男性「脚切り」に出会い、リストが殺されたこと、親しい人を探していることを告げました。
「彼女と同棲していた女性、ミウは病気を苦にして自殺している」との情報を得たミチ。
帰ってサイトを覗くとそこには瞼を縫い合わされたタミーの死体画像があり、ミチは虚脱状態に陥ります。
実家に帰ってタミーの葬儀に出席し、タミーは女性と心中したのだと伝えられますが、とても信じられません。
《地獄へ堕ちよう》は参加者の命を賭けたゲームであり、どこかにゲームマスターがいるのだろうと考えます。
リストとタミーを失った悲しみを抱えながら、ゲームマスターを引きずり出すことを決意しました。
ミチはタミーのアカウントで《地獄へ堕ちよう》にログインし、SMバーのバーテンダー、ムラサキくんのアカウントを見つけます。
彼を飲みに誘い、睡眠薬を盛って自宅に連れ込みました。
手足を縛って拷問しながら情報を引き出そうとしますが、役立ちそうな情報は一向に得られません。
解放しようと思ったときに彼は舌を噛んで死んでしまいました。
ミチは彼の死体をバラバラにして投棄し、公衆電話から新聞社に通告します。
【結】さあ、地獄へ堕ちよう のあらすじ④
毎日のように事件が報道される中、自宅に身体改造クラブの脚切りとモリオが訪ねてきました。
脚切りが《地獄へ堕ちよう》の運営者であり、ミチが自宅PCから不正にアクセスしていたことを辿って彼女の住所を突き止めたのです。
裏サイトに関する推理を話しましたがまともに取り合ってもらえず、モリオとともに部屋に軟禁されました。
ミチはモリオを殺害し、死体をクッションにして3階の窓から飛び降りて逃げます。
今度はルーシーを脅してラブホテルの一室に連れ込み、情報を聞き出そうとしました。
そこでルーシーから告げられたのは《地獄へ堕ちよう》は自殺志願者が助け合うシステムだという事実でした。
仕組みを伏せて「ルールを破ると酷い目に遭う」と教えたのは、騒動を起こして辞めたミチに対するちょっとした意地悪だった、と。
ルーシーが逃げ出した後、疲れ切ってアパートに帰ると、建物の前で脚切りが待っていました。
彼は裏サイトを維持する殺人者としてミチの才能を見出し、ナイフを渡して自らを殺すように求めましたが、ミチはそれを拒否します。
部屋に戻った後、裏サイトの死体画像がリストではないことに気付いて混乱し、SMバーのオーナーに会って話をします。
オーナーから「リストはさっき挨拶に来た」と伝えられ、リスト本人にも再会します。
リストはアートの一種として裏サイトのトップページを作っており、自殺者のコミュニティは彼女の関与の外で生まれたものでした。
ミチが招かれて死体を見つけたのは友達のミウの部屋で、死体もミウのもの。
病気で肌に斑点が出たのを隠すために、リストはミウの肌にお揃いのタトゥーを彫り、最後にはミウが望んだ死を与えました。
裏サイトの創設者として警察に追われていたリストは、ミウの皮膚を剥がして壁に打ち付けることで、自分が死んだものと見せかけていたのです。
自身の勘違いを悟ったミチは、リストと手を取り合って追っ手から逃げるのでした。
さあ、地獄へ堕ちよう を読んだ読書感想
盛大に勘違いをして突っ走る主人公が描かれており、後半からは吹っ切れたような疾走感があります。
登場人物がそれぞれに投げやりな気持ちや自己破壊願望を抱えており、吐き気を催すような描写もありますが、続きが気になってページをめくる手が止まらなくなりました。
本作は横溝正史ミステリ大賞の受賞作であり、作者は当時24歳。
バーテンダーを退職してキャバクラのボーイとして働いているときに本作を執筆したのだそうです。
SMや身体改造といったアンダーグラウンドな世界の描写がリアルで、この作品を書くまでにどのような世界を目にしたのだろうと考えさせられる1冊でした。
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