著者:石井睦美 2010年5月にポプラ社から出版
兄妹パズルの主要登場人物
松本亜実(まつもとあみ)
ヒロイン。文系コースに進みテニス部に所属する女子高生。恋愛よりも家族との時間を大切にする。
松本潤一(まつもとじゅんいち)
亜実と2歳離れた兄。おしゃべりで自己主張が激しい。
松本浩一(まつもとこういち)
亜実と7歳離れた兄。大学院で司法試験の勉強中。物静かで美形。
松本百合(まつもとゆり)
亜実の母。エリート証券マンの夫を支えつつ我が子の健康管理に気を配る。
清水(しみず)
亜実のクラスメート。サッカーに青春のすべてをかける。
兄妹パズル の簡単なあらすじ
ある日突然に行き先も告げずに失踪してしまったのは、松本亜実の2人いるうちの下の兄・潤一です。
サッカー部に在籍した頃の後輩・清水の話を聞いた亜実は、自分と潤一は本当の兄と妹ではないのかと疑い始めます。
上の兄・浩一が実はいとこであることが判明した頃、日本列島を西へ放浪していた潤一がようやく帰宅するのでした。
兄妹パズル の起承転結
【起】兄妹パズル のあらすじ①
松本亜実は東京都と隣り合う県の川沿いの街に父親と母・百合、ふたりの兄と住んでいる県立高校の2年生です。
長男の浩一は百合に似た上品な顔立ち、亜実は父親似でボーイッシュ。
両親のどちらにも似ていない次男の潤一のことを、亜実は「ジュン兄」という呼び名で慕っていました。
中学時代に有望な選手だった潤一はサッカーの名門校からスカウトがきましたが、丁重にお断りをして2年後に亜実が通うことになる高校に進学します。
周りから体育会系だと思われていた潤一は大学に通うようになると、新入生歓迎コンパに参加したり映画同好会に入部したりと遊び暮らす毎日です。
いつものように家族5人でキッチンとひと続きのリビングで朝食を取っていましたが、潤一だけが元気がありません。
松本家の門限は基本的に午後7時で、東京証券取引所で働いている父でさえ遅れる時には電話をするという約束を守っています。
この日に限って潤一からの連絡はなく、次の日になっても帰ってこなかったため無断外泊というよりは家出でしょう。
【承】兄妹パズル のあらすじ②
潤一がいなくなってから4日目の午前中、ひとりで自宅に待機していた百合が受け取ったのは1枚の官製はがきです。
「思うところがあってしばらく家を出る」というメッセージと、「潤一」という手書きのサインの他には詳しいことは書いてありません。
夫と3人の子どもたちにおいしいご飯を食べさせることを人生の意義としている百合でしたが、この日に限ってはお米を研ぐことをすっかり忘れていました。
お祝い事や記念日にたびたびお世話になっている近所のおすし屋さん、「寿司岩」で遅めの夕食を取ることにします。
それぞれが好きなネタをカウンター越しに注文しますが、何となく会話も弾まないままで食欲も一向には湧いてきません。
カウンターの奥から順番に百合、亜実、浩一、父。
亜実と浩一のあいだが空席になっていることを敏感に察知した大将によると、今どきはいつまでも家族総出で外食という方が珍しいそうです。
大将のさりげない心遣いに感謝した父は、子どもたち全員が独立した後も夫婦でこの店に通うことを約束します。
【転】兄妹パズル のあらすじ③
最初に届いたはがきは6月で消印は静岡県清水市、2枚目は7月で愛知県蒲郡市、3枚目は8月で滋賀県彦根市。
「清水」という地名を見てピンっとひらめいた亜実は、同じクラスの男子生徒・清水に思いきって声を掛けてみました。
中学生の頃からサッカーを始めた清水は、潤一に憧れてこの高校への入学を決めたとのうわさがあります。
潤一が3年生の大会を最後に引退した時には涙を流したほどですが、亜実のことは「松本先輩の妹」としか見ていません。
それぞれの部活動の練習が終わって合流したふたりが向かった先は、駅ビルの中にテナント出店しているファミリーレストランです。
潤一の実の母親はずいぶん前に亡くなってしまったこと、その妹・百合に引き取られたこと。
もしも清水の話が本当であれば、親同士が姉妹であるために潤一と亜美は兄妹ではなくいとこという間柄になるでしょう。
16年のあいたひとつ屋根の下で暮らしていた自分に打ち明けなかったことを、赤の他人の清水が知っていたのが亜実は悔しくて仕方がありません。
【結】兄妹パズル のあらすじ④
亜実にとってはおばに当たる西田という女性のお葬式があったのは幼稚園の頃でしたが、うっすらとは覚えていました。
散らばっていた不確かな記憶のひとつひとつを、ジグソーパズルのように空白にはめ込んだ亜実はようやく答えを見つけます。
西田の息子は潤一ではなく、中学生の時に養子縁組みをして松本家の一員となった浩一の方です。
当の浩一はこれからも誰に対しても遠慮することもなく、自分のやりたいことをやると亜美に宣言します。
当面の目標は弁護士を目指すことで、死んだ母親のような法的に立場の弱い人たちを助けるためです。
11月に届いた潤一のはがきは下関からで、これまでのように素っ気ない内容ではありません。
自分はこの家の子どもではないと思い込んでいたこと、気になって調べると浩一の母・西田の存在についてたどり着いてしまったこと、罪悪感から家出をしてしまったこと。
「今度の日曜日に帰る」という文面どおりに、日焼けで真っ黒になった兄と亜実は久しぶりに顔を合わすのでした。
兄妹パズル を読んだ読書感想
東京近郊にマイホームを構えて、男の子ふたりに女の子ひとりを育て上げていく夫婦の姿が思い浮かんできます。
東証というこの国の経済界の中心で働いているはずの父親が、門限7時を律義に守っているのもほほえましいです。
朝食のオムレツからおやつのスイートポテト、夕飯の煮込みハンバーグまで百合の手料理も食べてみたくなりました。
一見すると幸せな松本一家が抱えている小さな秘密が、きょうだいの間に微妙な距離感を生んでいることも見逃せません。
完璧な家族のかたちを押し付けるのではなく、緩やかなつながりを尊重するかのようなラストも秀逸ですね。
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