著者:高尾長良 2013年2月に新潮社から出版
肉骨茶の主要登場人物
赤猪子 (あかいこ)
ヒロイン。 進学校に通う17歳。中学生頃から食べることに罪悪感を覚えるようになる。
ゾーイー (ぞーいー)
赤猪子の友人。シンガポールからの留学生 。社交的で実家はお金持ち。
アブドゥル(あぶどぅる)
ゾーイーの家のお抱え運転手。ガイドの資格を勉強中で日本語も堪能。
鉱一(こういち)
ゾーイーの幼なじみ。女性とのトラブルが絶えない。
肉骨茶 の簡単なあらすじ
健康優良児だった赤猪子が、摂食障害を患うようになったのは小学校を卒業したあたりからです。
高校生になった赤猪子は家族と来ていた海外旅行を抜け出して、日本に留学経験のあるシンガポール人・ゾーイーの別荘に匿ってもらいます。
幼なじみとの関係をゾーイーが誤解してしまい赤猪子は別荘を去ることになりましたが、久しぶりに食欲が湧いてくるのでした。
肉骨茶 の起承転結
【起】肉骨茶 のあらすじ①
小学校を卒業する間際には身長が160センチ・体重48キロあってリンゴのような頬っぺたをしていた赤猪子ですが、その後の5年間はできる限り食事を拒み続けていました。
心配した母親は山盛りの手料理を作ってテーブルに並べますが、その1割くらいしか手を付けません。
他人の食べている姿を見ることが苦手な彼女にとっては、誰かと一緒に食卓を囲むことが何よりもの苦痛です。
夕食が終わるとすぐに自室に引っ込んで、真夜中すぎまで腹筋トレーニングをしてカロリーを消費します。
翌朝になると母はボリューム感のたっぷりとしたお弁当を作って手渡してくれますが、その中身を赤猪子は学校のトイレにこっそりと捨てていました。
高校に進学して思春期を迎えるとますます痩せ細って体重は35キロまで落ちていきましたが、身長は小学校6年生の時から成長していません。
そんな赤猪子に親しげに話し掛けてきたのが、洋菓子のようなきめ細やかな肌をしたゾーイーという少女です。
【承】肉骨茶 のあらすじ②
ゾーイーが赤猪子の学校に滞在していた期間は11カ月ほどでしたが、母国に帰ってからもメールでやり取りを続けているふたりの友情は変わりません。
夏休みに入ったばかりの7月、母親が勝手に申し込んだ東南アジア5日間の旅に赤猪子も嫌々ながら同行することになりました。
パックツアーには朝昼晩の豪華な食事が付いていることを知った赤猪子は、途中で離脱することをゾーイーに連絡しています。
シンガポールでの2日間の観光を終えてマレーシアとの国境に到着した3日目、母が入国手続きの列に並んでいる間に赤猪子を迎えに来てくれたのはゾーイーと運転手のアブドゥルです。
アブドゥルの運転するイタリア製の高級スポーツカーに乗り込んだ赤猪子は、ゾーイーの兄が所有する海に面した一戸建ての別荘に招待されました。
赤猪子が親の虐待から逃げてきたと勘違いしたゾーイーは、おいしい料理を食べさせてあげようとバクテーの準備を始めます。
骨付きの豚肉を漢方薬のスープで煮込んだ郷土料理で、別名「肉骨茶」です。
【転】肉骨茶 のあらすじ③
飛行機の中で提供されたカレーソテーとポテトサラダの機内食をめずらしく完食していた赤猪子は、リバウンドが気になるために一向に食欲が湧いてきません。
別荘の庭を歩き回っているとゾーイーの家の使用人たちが不審げに眺めてくるために、スロープを下りて海の方へと向かいました。
南国の日差しが降り注ぐ白い砂浜の上を走るのはかなりのハードな運動ですが、1時間もすればこの数日間に接種した脂肪はエネルギーへと燃焼されるでしょう。
スピードを上げながら波打ち際を通りすぎた赤猪子は、突如として砂に埋もれていた固い物体に足を取られて転倒します。
砂まみれで立ち上がったのは、スキニージーンズにTシャツを身に付けた17〜18歳くらいのアジア系の青年です。
日本語で話かけてきた青年の名前は鉱一、ゾーイーとは小さい頃からの顔見知り。
本来であればゾーイーと一緒に赤猪子を迎えに行く予定でしたが、海辺でアブドゥルとふたりでウイスキーを飲んでいるうちに泥酔してしまったそうです。
【結】肉骨茶 のあらすじ④
赤猪子の後を追いかけて別荘に入ってきた鉱一は、ゾーイーとの約束を忘れて砂の中で眠りこけていたことは打ち明けません。
「マレー鉄道が停まっていた」と言い訳をする鉱一に対して、ゾーイーは疑いのまなざしを向けるばかりです。
2年前の春にはこの地に滞在中の若い日本人女性の部屋を覗きに行って大騒ぎを起こしたり、ここ最近にも観光客から金品をだまし取ったりと鉱一は何かと問題を起こしています。
完成した肉骨茶が土鍋で運ばれてきましたが、黒々とした液体を見て独特なスパイスの香りを嗅いだ赤猪子は具合が悪くなってしまいました。
ゾーイーが抱き枕を取りにいっている間に、心配した鉱一は赤猪子の骨ばかりで肉のない背中を優しくさすってあげます。
タイミングが悪く戻ってきたゾーイーの目は嫉妬で赤く輝いていて、部屋の中で暴れ出した彼女の怒りは収まりません。
赤猪子は外へ飛び出して誰もいない海に身を任せて、土鍋の中から持ってきた骨付き肉を独りで食べるのでした。
肉骨茶 を読んだ読書感想
思春期にありがちな小さなコンプレックスから、過剰なダイエットにのめり込んでいく10代の少女の気持ちがリアルに描かれていました。
食欲を「恥」ととらえるほどのヒロイン・赤猪子の繊細と、見知らぬ異国の地で脱走を決行する大胆不敵さとは結び付きません。
日本の学校であろうと母国・シンガポールであろうと何ひとつ不自由のない生活を送っているはずのゾーイーが、思いの外嫉妬深いのも皮肉です。
ふたりの多感な少女の友情にヒビが入るちょっぴり切ないラストにも、食べ応え十分な名物料理・肉骨茶がわずかに心地よい後味を残していました。
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