著者:岡田秀文 2020年2月に東京創元社から出版
戦時大捜査網の主要登場人物
仙石(んごく)
警視庁特別捜査隊隊長
杉原(すぎはら)
仙石の上司。捜査一課長
五十嵐(いがらし)
特高の検閲課の警部補。仙石たちと捜査することになる
赤橋恭三(あかはし きょうぞう)
仙石の同級生で陸軍に属している
戦時大捜査網 の簡単なあらすじ
1944年空襲警報が鳴り響く中、泥棒は住民が避難した家から食料や少額のお金などをほんの少しいただくために玄関に向かいますが、家中から聞き逃すほどの物音が聞こえ、泥棒は足を止めます。
気のせいだと思う反面、嫌な予感が頭をよぎりこの夜の仕事を諦めます。
実は、この時この家の中では、殺人が行われ犯人が玄関からの侵入者を始末しようと待ち構えていたのです。
この事件が露呈するのは物語がもう少し進んでからですが、空襲下では別の殺人事件が発生します。
国民服を着た丸坊主の死体が発見され、捜査に向かった仙石たち警視庁特別捜査隊は、戦時下の限られた捜査員を動員し、空襲警報が響き渡る中捜査をすすめます。
戦時大捜査網 の起承転結
【起】戦時大捜査網 のあらすじ①
昭和19年 11月末、B29による夜間空襲があった翌朝、警視庁特別捜査隊へ出動命令が下ります。
隅田川沿いの舩村商会の倉庫で身元不明の死体が発見されます。
当初、丸坊主の国民服を着た男性と思われましたが、それは男装をした女性でした。
目撃者もなく捜査は難航します。
半月以上経った頃、新たな事件が発生します。
被害者は、あの一軒家に住む42歳の中学校教師・中村弘次です。
死体の状態は、先の男装の女性と同様、絞殺された後、腹部を鋭利なもので引き裂かれたものでした。
事件発生時刻、空襲警報が鳴り響き近隣住民のほとんどが避難しており、目撃情報は得られませんでした。
事件に進展がないまま昭和20年元日を迎えたある日、中村弘次が読書倶楽部という地下組織に属し活動していたという新情報が捜査本部にもたらされます。
そして、その仲間である4名が内偵調査の対象となります。
内偵調査を始めて1週間たった頃、地下組織などの捜査権は特高にあるとの主張から横やりが入りますが、捜査一課長・杉原の采配で、特高との合同捜査になりました。
【承】戦時大捜査網 のあらすじ②
仙石は、以前に特高の調査対象になっていた中村弘次の当時の資料を見返し、坂下徳三郎という人物に眼をつけ捜査をしますが、坂下はすでに死亡しており、妻の坂下光枝が行方不明であることが判明し、男装の死体が光枝ではないかとの疑いが浮上します。
また、内偵中の4名が荒物屋「しぶや」へ定期的に通っていることが判明します。
彼らは空襲警報が出ると尾行を振り切りこの辺りで見失うとのことから「しぶや」への立ち入り調査を行います。
帳場の戸棚からは古い帳簿が見つかり記録を取ろうとしたその時、防空壕から死体が出たとの知らせが入ります。
当初、死体は「しぶや」の主人・渋谷彦松かと思われたが、家族の証言で本人ではないと判明します。
「しぶや」周辺の捜査では、自動車の目撃情報があり、関連を捜査することになります。
程なく死体の指紋から前科者の渡辺清・45歳と判明します。
渡辺は特高からマークされている人物であり、「しぶや」で押収した帳簿を調べると暗号で書かれた組織員の名簿であることがわかりました。
そして、名簿にある組織員に対して、特高を主導とする一斉検挙に入ることがきめられます。
【転】戦時大捜査網 のあらすじ③
一斉検挙の前日2月25日午前0時、陸軍から米艦載機による空襲があるとの情報が入ります。
8時45分空襲警報が鳴り響き、警報解除とともに一斉検挙に踏み切ると通達されます。
11時警報解除。
電信機から捕縛対象者を確保したという連絡が次々と入ります。
しかし、関谷幸治と磯村徳子の2名は取り逃がしてしまいます。
そんな中、報告書や地図を改めて検証していた部下の三輪間から仙石に「組織の隠れ処を絞り込んだ」との報告がありました。
地図上に印をつけたところ、2名は廃工場に逃げ込んだのではないかといいます。
そして、仙石は自分の眼で確かめるために現場へ向かいます。
廃工場へ踏み込んだ仙石と三輪間、勝俣は拘束されてしまいます。
そこで仙石が見た顔は、中学時代の同級生だった赤橋恭造でした。
赤橋は陸軍に属しており、警察が取り逃がした関谷と磯村をすでに捕縛し移送したといいます。
赤橋は仙石から話を聞くと、何も情報を漏らすことなく、仙石たちを解放しました。
仙石たちが本庁に戻った26日、捜査資料や証拠品は持ち出されており、捜査本部は解散させられていました。
3月1日午前10時半、仙石にメッセージが届きます。
難なく暗号を解いた仙石は13時有楽町駅へ向かいます。
迎えに来たのは、赤橋の部下・友利でした。
赤橋は陸軍の特殊任務に就いており、帝都(東京)下では敵方の間諜として活動している地下組織をあぶりだすのが使命だと告白します。
そして、仙石に赤橋の指揮下に入り捜査するように命じます。
程なく特捜の隊員が到着します。
赤橋は事件の概要を全員に伝え、地下組織の最高幹部を特定し逮捕すること、さらに組織の本拠地の特定することを告げます。
最高幹部の容疑者は、陸軍の紫邑少将、桜城大佐、倉田中佐であり、赤橋の上司・川崎少将の命令で極秘捜査となる旨を伝えます。
【結】戦時大捜査網 のあらすじ④
容疑者3名の監視、盗聴、郵便物の検閲が始まり、組織の本拠地といわれている建物である荏原発電所、辻原医学研究所の2カ所も監視対象となります。
仙石たちが巡回中、桜城大佐の行方がわからなくなったとの連絡が入ります。
赤橋と仙石、その部下たちは4台の車に分乗し、仙石は医学研究所正門前へ、赤橋は荏原変電所へ捜索に向かいます。
そこへ倉田中佐を監視していた部下たちから倉田中佐も行方不明になったとの連絡が入り、さらに変電所から出火したとの連絡が入ります。
続いて研究所の中を確認していた部下から死体を発見したとの連絡があり、仙石が死体の階級章を確認し桜城大佐と判明します。
陸軍大佐の死体だったことから憲兵隊に通報し、到着した憲兵隊員により仙石たち捜査員は連行されます。
尋問の後、仙石と三輪間はともに釈放されます。
仙石たちは大空襲に巻き込まれながらも、本庁へたどり着きます。
その後、陸軍から赤橋の死亡が確認されたとの情報が入ります。
仙石たちは独自に医学研究所へ家宅捜索に入り、倉田中佐の死体を発見します。
捜査が続く中、捜査本部の仙石宛に手紙が届きます。
死んだはずの赤橋からです。
待ち合わせ場所に向かった仙石に、赤橋は、地下組織の中心人物は自分であり、自らが幹部であることが露見しないために数々の殺人を行ってきたと告白します。
そして、赤橋は国民の戦意を消失させるために地下組織で活動していたといい、さらにこの先は新たな任務に赴くといい残し去って行きました。
すべての捜査権が憲兵へ移され、特捜は後味の悪い結末に終止符を打つことになりました。
戦時大捜査網 を読んだ読書感想
終戦間近の東京で空襲に見舞われる日々の中で殺人事件が起こるというストーリーでした。
警察の捜査に特高が加わり、陸軍が介入し、最終捜査は憲兵隊がかっさらっていくという縦割り社会の見本のような時代だったのだなと思いました。
また、物語の中では、3月10日の東京大空襲の様子を克明に描き、戦争の恐ろしさを改めて感じる場面もありました。
この時代の捜査は、今のように科学捜査は発達しておらず、スマートフォンもありませんので連絡は無線や電話です。
それも空襲の影響で使えない時もあります。
どのようにして事件を解決に導くのか先が気になり、一気読みしてしまいました。
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