著者:松岡圭祐 2020年1月にKADOKAWAから出版
高校事変 Vの主要登場人物
優莉結衣(ゆうりゆい)
17歳の女子高生。テロ事件を起こして死刑となった半グレ集団のボス優莉匡太の次女。幼いころからテロ集団に育てられ、武器の知識と戦闘能力を持つ。
優莉凜香(ゆうりりんか)
中学2年生。結衣の異母妹で、優莉匡太の四女。結衣と同じく、幼いころからテロ集団に育てられ、武器の知識と戦闘能力を持つ。
濱林澪(はまばやしみお)
17歳。武蔵小杉高校でのテロ事件(第1巻)でのショックから引きこもっている。農業高校への編入を検討する。
森沙津希(もりさつき)
17歳の高校2年生。9歳の時、優莉匡太の起こしたサリン事件により、両親を亡くした。いまは里親のもとで、農業高校への編入を検討中。
駒島淳三(こましまじゅんぞう)
56歳。行政改革担当大臣、兼、国家公安委員会委員長。公安の予算増額のため、結衣の暗殺を指示する。
高校事変 V の簡単なあらすじ
武蔵小杉高校のテロ事件での後遺症でひきこもる濱林澪は、農業高校への編入を勧められ、学力検査を受けに行きます。
一方、幼いころ、優莉匡太の起こしたサリン事件により両親を亡くした森沙津希も、編入を勧められて、同じ日に農業高校の学力検査を受けに来ていました。
後日、学校を見学中に、気分が悪くなった沙津希に対して、教師も、医師も、駐在所の警察官も、ひどくあやしい態度をとります。
澪は隙を見て、結衣に助けを求めるメールを発信します。
ただひとりの信頼できる友だちのために、結衣は不利をものともせず、澪のもとへ駆けつけます。
しかし、そこには、国家の大きな罠が待ち受けていたのでした。
高校事変 V の起承転結
【起】高校事変 V のあらすじ①
森沙津希は九歳の時、優莉匡太の起こしたサリン事件によって、両親を亡くしました。
十七歳になったいま、沙津希は里親から農業高校への編入を勧められています。
一方、武蔵小杉高校のテロ事件で、結衣と行動をともにした濱林澪は、ショックのために引きこもっています。
世間の目を逃れて田舎に引っ越した澪の親は、娘に農業高校への編入を勧めます。
与野木農業高校へ学力検査を受けにいった澪は、そこで同じく検査を受けに来ていた沙津希と出会い、彼女といっしょなら農業高校も悪くないかな、と思います。
少し時間をさかのぼって、国家公安委員会委員長の駒島淳三は、公安予算増額のため、汚い仕事も辞さない公安刑事に、結衣の暗殺を指示します。
指示を受けた公安刑事三人のうちの二人が、結衣に迫ります。
結衣は刑事に脅迫されたふりをして、その様子を動画に撮らせた上で、二人を返り討ちにして殺しました。
その上で、撮影した動画の前半部分だけをネットにアップして、刑事が優莉匡太の娘に不当な弾圧を加えているように印象操作をします。
それから結衣は、異母妹の凜香から連絡を受けて会いに行きますが、暗殺指令を受けたもうひとりの刑事が凜香を殺そうとしていました。
結衣と凜香は協力し、彼を返り討ちにして殺したのでした。
【承】高校事変 V のあらすじ②
澪と沙津希は学力検査の結果を受けて、授業料免除の適用を受けられることが決まりました。
そこで、与野木農業高校へ見学に行くことになりました。
見学の途中、体調をくずした沙津希は、近くの診療所へ運ばれます。
しかし、教師たちも、医師も、看護師も、近くの駐在所の警官も、みな様子がおかしいのです。
まるでふたりを幽閉しようとしているみたいです。
スマホを取り上げられる直前、澪は、久しく会っていない結衣へ、結衣にだけはわかるような意味深なメールを打ちました。
メールを受け取った結衣は、正確に、澪に危機が迫っていることを理解しました。
結衣は、見張りの公安の目を盗んで、学校を抜け出し、バスやタクシーを乗り継いで、澪たちのいる診療所へ到着します。
そこで、沙津希に施されている点滴が、実は睡眠導入剤であることを見破ります。
あわてて駐在所の警官を呼ぼうとした医師を、結衣は殺しました。
結衣は診療所が爆発するような仕掛けを施したのち、澪と沙津希をつれて出ます。
しかし、そこで、結衣の名前を聞いた沙津希は、サリンテロのことを思い出し、ひとりで逃げ出してしまいました。
【転】高校事変 V のあらすじ③
結衣と澪は、沙津希をさがしに高校のなかへ入っていき、教師たちにレイプされそうになっている沙津希を助けました。
沙津希の嗅覚をたよりに、三人は、地下に設けられたサリンプラントへと降りていきます。
そこは駒島の陰謀で作られた設備でした。
サリンプラントを作り、結衣を暗殺して死体を隠し、優莉匡太のあとを継いで、結衣が半グレ集団をまとめあげ、再びサリンテロを起こそうとしているのだと世間に思いこませる、それが駒島の狙いです。
それにより、公安は莫大な予讃を獲得できるのです。
結衣の前に凜香が現われます。
実は凜香は、駒島の依頼を受けてサリンプラント製造に尽力したベトナム人のフィクサーの手下になっていたのです。
結衣と凜香は決闘します。
幾多の武器で戦ったのち、結衣は爆発を仕掛け、凜香をしりぞけます。
プラントにもどったあと、結衣たち三人は敵に追いつめられてしまいました。
助かる道は、警察へ結衣の居場所を知らせることしかありません。
それは結衣の破滅を意味します。
澪と沙津希が反対するなか、結衣はスマホの電源を入れ、サリンプラントの画像を警察へ送信したのでした。
【結】高校事変 V のあらすじ④
結衣からの情報を得て、近くの自衛隊基地から、自衛隊が駆けつけてきました。
圧倒的な火器と水責めにより、サリンプラントは壊滅します。
ところが、壊滅する前に一味は、精製したサリンを持ち出し、原宿でばらまこうとしていたことがわかりました。
結衣たち三人は原宿へ行き、「百均とマルシェのあいだ」という一味の言葉を手掛かりにして、サリンの装置をさがします。
しかし、みつかりません。
結衣はふたりを残して離れます。
もしかすると一味は「百均」ではなく、ファーストキッチンを略して「ファッキン」と言ったのではないかと考えたのです。
結衣はウェンディーズ・ファーストキッチンの近くで、サリン装置を持った凜香と遭遇し、追います。
そして、ビルの屋上に逃げた凜香に追いつき、荷物を水責めにしてサリンを中和したのでした。
結衣の暗殺に失敗した駒島は、公安委員会界から追われ、手を組んだベトナム人フィクサーの手で殺されました。
結衣は、フィクサーの息子で、表向きはさわやかなバドミントン選手の田代勇次と会い、今後対決する意思を明らかにするのでした。
高校事変 V を読んだ読書感想
出だしが非常にうまい、という印象です。
まず、森沙津希が九歳のときに遭遇した、サリンテロの様子が描かれます。
閉じ込められた空間で、無残に死んでいく両親と、からくも外に出て助かった沙津希のコントラストが、鮮やかです。
そこから一転して、今度は結衣の幼いころのエピソードです。
半グレの集団のなかで、生きるか死ぬかの扱いを受けます。
実際に死んだ姉妹の様子も描かれ、これもまた無残な印象を残します。
以上のふたつのエピソードにより、これはもう読むしかないという気持ちにさせられるのです。
実にうまい作家です。
もちろんクライマックスの戦いのシーンの描写もすさまじく、また、自衛他の介入によりサリンプラントが壊滅するシーンは圧巻でした。
5巻目になってもまだ次が楽しみという、稀有なシリースです。
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