著者:キャロル・オコンネル 2020年3月に東京創元社から出版
修道女の薔薇の主要登場人物
キャシー・マロリー(きゃしー・まろりー)
ニューヨーク市警ソーホー署巡査部長。
アンジェラ・クウィル(あんじぇら・くうぃる)
行方不明の修道女。
ジョーナ(じょーな)
盲目の少年。アンジェラの甥。誘拐され監禁されている。
イギー・コンロイ(いぎー・こんろい)
ジョーナを誘拐した殺し屋。
アンドルー・ポーク(あんどるー・ぽーく)
ニューヨーク市長。元投資ブローカー。
修道女の薔薇 の簡単なあらすじ
ニューヨーク市警のキャシー・マロリーは、消えた修道女アンジェラの捜索を依頼されます。
そして、アンジェラの甥のジョーナも行方がわからなくなっていることが判明します。
その後、市長官邸前で四つの死体が置き去りにされるという事件が発生し、そのなかの一人がアンジェラでした。
ジョーナはイギーという殺し屋の家に閉じ込められてしまいます。
相手はプロの殺し屋のうえ、ジョーナは盲目で、万に一つの脱出のチャンスもありません。
ところが、イギーとジョーナの周りで不思議な現象が起こるようになるのです。
マロリーはジョーナの行方と、一連の殺人事件の真相解明のため捜査にあたります。
修道女の薔薇 の起承転結
【起】修道女の薔薇 のあらすじ①
ニューヨーク市警のマロリーの元へ、昔かよっていた教会の神父がやってきます。
シスター・マイケル(本名アンジェラ・クウィル)という修道女が消えてしまい、彼女を探して欲しいと依頼しにきたのでした。
マロリーは殺人課の刑事であるため、失踪課か重大犯罪課に行くように言いますが、神父は失踪課は別の人間が届けを提出して、重大犯罪課は誘拐の証拠がないと言われすぐに送り返されたと話します。
マロリーも誘拐に懐疑的でしたが、そのとき相棒のライカーがやってきて、アンジェラの甥も一緒にいなくなったことがわかりました。
簡単な調査の結果、アンジェラは修道院に入る前は売春で生計を立てていて、甥のジョーナは生まれながらの盲目ということがわかりました。
その後、市長官邸の正面階段下に、心臓を切り取られた四体の死体が置かれます。
そのなかの一人がアンジェラの死体でした。
マロリーは事件の状況を見て、殺し屋がかかわっていると推測します。
他の三人と比べ、アンジェラだけが殺害方法が異なっていました。
マロリーはアンジェラの殺害は殺し屋にとってイレギュラーで、彼女はまずいときにまずい場所に居合わせたために殺されたと考えます。
各被害者の死亡時刻は間隔が開いており、シスターと同じ時間帯に殺された人物はいませんでした。
そのため、殺し屋のターゲットはまだ生きていると考え、その人物を探します。
すると病院に、殺し屋の手口に一致する怪我を負ったアルバート・コステロという老人が入院していたことがわかりました。
コステロが家に帰ると、部屋に男がいました。
その男こそ殺し屋イギー・コンロイで、彼はコステロを家から連れ出し、ハドソン川に捨てて始末をつけるのでした。
【承】修道女の薔薇 のあらすじ②
ジョーナはイギーの家に閉じ込められます。
イギーの雇い主は、ジョーナをしばらく生かしておくように指示します。
ところが、家の中で鈴の音が聞こえたり、何者かの気配を感じたりと、イギーの周りで不思議な現象が起きます。
ジョーナは叔母さんはここにいると言いいます。
イギーは一蹴しますが、内心はだんだんと不安になっていました。
一方、マロリーは市長官邸前に死体が捨てられた理由を探していました。
市長のアンドルー・ポークは投資ブローカーとして財を築いた人物でした。
ポークは警察に話していませんでしたが、死体が捨てられる前に心臓が四つ官邸に送られてきていたのです。
警察が官邸を調べる前に、ポークは部下のタッカーに心臓を処分するよう指示をします。
タッカーは心臓を川に投げ捨てますが、ビニールに包まれた心臓は浜辺に流れ着いて警察に回収されました。
心臓を入れたビニールには”死の証拠”と書かれており、マロリーは何者かが市長を脅迫して金をせしめようと計画していると推測します。
警察が官邸にやってくる直前に、ポークはタッカーに書類を渡して、しばらく官邸を離れるように指示します。
しかし、マロリーとライカーがタッカーを警察署に連行します。
タッカーが持っていた書類は証券取引委員会との合意書でした。
ポークはブローカー時代に証券詐欺行為を行っていて、何人かの顧客に大損害を与えていたのです。
殺し屋を雇った人物はそのときの被害者の一人だと思われます。
その人物は殺し屋に適当な人間を誘拐させて、市長から身代金を請求することが目的でした。
ポークは証券詐欺のスキャンダルが表に出れば今の地位にとどまれないと知っているため、脅迫の件を隠し続けたのです。
彼が取引を無視し続けた結果、四人の人物が殺されることとなったのです。
そして、ジョーナが生かされた理由、それは彼が次の人質だからです。
ジョーナの命は危険にさらされていました。
【転】修道女の薔薇 のあらすじ③
捜査を続けるうちに、アンジェラは何者かに怯えて、身を隠すために修道女になったことがわかりました。
そして、売春婦として働いていたアンジェラの顧客が、今回の殺し屋だという可能性が浮上してきます。
一方、自分の身の回りで起こる不可解な現象にイギーはだんだんと参っていました。
ジョーナはその隙をついて、家からの脱出を試みます。
しかし、家から出たところでイギーの番犬に襲われます。
脚に噛みつかれたジョーナは、騒ぎに気づいたイギーに捕まって家に連れ戻されてしまいます。
マロリーはポークの証券詐欺で大損を被った投資家たちを調べ上げ、ドウェイン・ブロックスという人物が怪しいと睨みます。
捜査陣が彼を尾行した結果、ブロックスはレストランのトイレタンクから容器を引き上げる場面を抑えます。
容器の中にはジョーナの心臓が入っているとみて、ブロックスを逮捕しますが、中に入っていたのはハムサンドでした。
イギーがブロックスがマークされていることを察し、気転をきかせて心臓の代わりにハムサンドを入れていたのです。
ブロックスは釈放されて、その夜イギーがブロックスの家に侵入します。
そこでイギーは、依頼主に心臓を渡すのでした。
ブロックスは郵便配達のカートに心臓を入れた小包を紛れ込ませ市長に送ります。
その後、マロリーは市長を訪ね、隠された心臓を見つけ出して市長を逮捕、それと同時にブロックスも再び署に引っ張られていきました。
ところが、市長に送られた心臓を調べた結果、それはジョーナの心臓にしては幼すぎるうえ、他の心臓より腐敗が進んでいました。
検死局長は、この心臓はどこかで安置されている遺体からとられたものだと推測します。
イギーがブロックスに渡したのは、ジョーナの心臓ではなかったのです。
【結】修道女の薔薇 のあらすじ④
イギーは自分の足跡を消し始めます。
まず、ブロックスに自分を紹介したゲイル・ローリーという男を殺害しました。
そのころ、マロリーは殺し屋が置いていった心臓の出所を調べていました。
そして、心臓はユダヤ教の少年のものであることが判明します。
その少年が埋葬された墓地を頼りに、マロリーは殺し屋の居所を突き止めようとします。
墓地にはイギーの母が埋葬されており、彼女は書類上はまだ生きていることがわかりました。
マロリーは大急ぎで、その住所に向かいます。
イギーは家に火を放って、ジョーナもろとも何もかも隠滅しようとしていました。
ジョーナは死にかけますが、間一髪のところでマロリーが彼を救出します。
ジョーナは病院へと搬送されますが、殺し屋と何日も過ごしたことで自分の悪事を知っているのではと危惧したポークは、大々的にジョーナが生きていることをマスコミに公表します。
イギーは、ブロックスを始末しようと彼の家を訪れていたときに、そのニュースを見ます。
イギーはブロックスを殺害すると、ジョーナが入院している病院を探し出して、彼を殺そうとします。
ところが、イギーは殺人を思いとどまります。
病室には薔薇の花が花瓶に生けられていました。
薔薇はアンジェラと彼の思い出の花でした。
イギーは病院から去ると、ポークの家に忍び込みます。
イギーはポークからブロックスが起こした計画の全容を訊こうとしますが、マロリーに逮捕されます。
マロリーは、イギーに、どうしてジョーナを殺して心臓を取り出さなかったのか?と訊ねます。
イギーは鈴の音がしたから、と伝えます。
マロリーがジョーナから話を聞くと、監禁されていたときに空から何度もジングルベルの音が聞こえてきたというのです。
マロリーは燃え残ったイギーの家に行って屋根裏を調べます。
そこには首に鈴をつけたネコがいました。
ただし、マロリーはそこにネコ以外の何者かの気配を感じるのでした。
修道女の薔薇 を読んだ読書感想
人は死んでも他の人の記憶になって生き続ける、という言葉が思い浮かびました。
盲目のジョーナは、殺し屋イギーに囚われて死を待つばかりでした。
そんなジョーナを助け続けたのが、死んだアンジェラだったのです。
アンジェラの幽霊がいたという描写は、最後まで明示されていないため、霊体となったアンジェラがジョーナを助けたとは言い切れません。
しかし、確実に言えるのは、ジョーナのなかのアンジェラの記憶が彼を励まし続け、同じように、イギーのなかのアンジェラの記憶が彼を浮き足立たせたのだと感じました。
アンジェラはストーリーの最初に死んでしまったにも関わらず、全編にわたって大きな存在感を持っていました。
これほどまで死者が際立ち、話の展開をまでも決定づけるとは、なんと驚くべきことでしょうか。
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