【ネタバレ有り】鬼の蔵 〜よろず建物因縁帳〜 のあらすじを起承転結でネタバレ解説!
著者:内藤了 2016年12月に講談社タイガから出版
鬼の蔵 〜よろず建物因縁帳〜の主要登場人物
高沢春菜(たかざわはな)
本書の主人公で、広告代理店アーキテクツのキャリアウーマン。
守屋大地(もりやたいち)
「仙龍」の号をもつ曳き屋師で、建設会社の若き社長。
崇道浩一(すどうこういち)
仙龍に憧れ、大学を卒業後に守屋の経営する会社に入り、一人前の職人になるべく修行中。
鬼の蔵 〜よろず建物因縁帳〜 の簡単なあらすじ
旧家の蔵を移築し、資料館のような展示スペースのプロデュースを任された広告代理店勤務の高沢春菜でしたが、蔵には人の血で書かれた「鬼」という結界が張られており、容易に手を付けられず困りはてます。なんとか仕事を完了させる為、曳き屋仙龍たちの手を借りて、この村の深い闇を明かしていきます。連続ドラマ「ON 猟奇犯罪捜査班・藤堂比奈子」シリーズで一躍有名になった内藤了が手掛けた和製ホラーのシリーズ第1弾です。
鬼の蔵 〜よろず建物因縁帳〜 の起承転結
【起】鬼の蔵 〜よろず建物因縁帳〜 のあらすじ①
高沢春菜が初仕事として任されたプロジェクトは、ある田舎町の旧家の跡地に道の駅を作る際に、蔵を移転して資料館のような展示プロデュースをおこなうというものでした。
喜びと期待に胸膨らませて現地に赴くのですが、そこで彼女が目にした旧家の様子は、禍々しい雰囲気を醸し出しており、一瞬にして不安な気持ちへとさせられてしまいます。
それでも、初仕事のためにと蔵へと立ち入ろうとするのですが、その蔵に問題が発生したとその場で知らされます。
蔵の扉の内側に人間の腕の太さで、しかも血液で書かれた「鬼」という文字がある上に、蔵の軒下に怪しい龍の三本指のような不気味なマークが見つかり、それらは「安易にこの蔵に手をつけてはいけない」という警告であることがわかります。
実際に蔵に入って自分の目で確かめた春菜は背筋が凍るほど恐ろしく感じるのでしたが、やはり初仕事を成功させたいという一心で彼女はこの因縁物件と向き合うことにしました。
【承】鬼の蔵 〜よろず建物因縁帳〜 のあらすじ②
「蔵の血文字はどういう目的で書かれたのか」「なぜ警告マークがつけられているのか」これらの謎を解明しなくては、仕事の着手ができない春菜は、そういった因縁物件を専門に扱っている凄腕曳き屋師を上司から紹介してもらいます。
しかし、出会ったのは、不愛想でズケズケ物を言う仙龍こと守屋大地でした。
仙龍と彼のもとで修業中のコーイチは、春菜とともにあの旧家の謎の解決に走り回ります。
あの家では、8月のある一定の時期に決して「隠れ鬼」をしてはならないと言われていました。
もしすると、死に至り、しかもその死に様は顔の下半分が野生動物に食いちぎられたようなありさまで、手足の指はあらぬ方向に折れ曲がった姿になって発見されるのでした。
また、その家の直系男子ばかりが早逝しているという事実もわかります。
あの旧家では女たちが夜になると灯りをもって秘密裡に集まったり、女庭と呼ばれて男子禁制の庭には、赤と黄色の風車が女たちによって作られて一面に飾られていました。
【転】鬼の蔵 〜よろず建物因縁帳〜 のあらすじ③
暗闇の中で女庭で張り込みをしていた仙龍と春菜は、そこで女たちがかつて何をしていたのかを知ります。
江戸時代以降、彼らの村にも不作の時期がおとずれ、そのため飢饉の中、身籠ってしまった子供を産み育てることができない時は、女たちは女庭にある外トイレと言われる所で、堕胎をしていたのです。
しかし、翌日、産み落とされた赤子の息があった時は、蔵でこっそりと育てるようにしていたのですが、それも彼らが可哀想だからではありませんでした。
実は、蔵の中で育てられた子供たちに「隠れ鬼」をさせ、見つかった子を人柱(生贄)と村人たちはしていたのです。
その悲しき子供たちの霊魂を鎮めるために作られたのが赤と黄色の風車だったのです。
仙龍たちは、子供たち一人ひとりが無事に成仏できるようにと心を込めて供養を行います。
そして、無事に一件落着と思われたのですが、ここでまだ直系男子だけに呪いを受ける理由が解明されていないことが残されます。
【結】鬼の蔵 〜よろず建物因縁帳〜 のあらすじ④
蔵の中に張られた「鬼」という結界は、子供の霊を鎮めるためではなく、本当は神の怒りを鎮めるものだったのではないかと春菜たちは考えます。
かつて村の庄屋の策略で、善良な男が村の犠牲になりました。
その際、男は役人たちに真実を語らないようにと、仲間であった庄屋から煮え湯を飲まされ舌を爛れさせられ、筆談ができないようにと指を切り落とされるという扱いを受けます。
そして、死した彼は、村人を恐れさせる恐れ神として、特に庄屋一家に対して災いをもたらす存在になってしまうのです。
けれども、自分と同じように、村のために死んでいく人柱の子供たちには優しい一面を見せていたそうです。
春菜のがさつなクライアントにより結界が破られたことにより、悪鬼は春菜や仙龍を呪い殺そうとします。
そんな彼の前に立ちはだかり共に成仏の道を選んだのが、蔵の中で育ち、村を見守り続けてきたお婆さんでした。
彼女の清らかな命をもって、悪鬼の怒りは鎮められます。
そして、無事に仙龍たち曳き屋によって蔵は移築され、春菜はこの悲しき風習を忘れないよう、資料館をプロデュースするのでした。
鬼の蔵 〜よろず建物因縁帳〜 を読んだ読書感想
ホラー小説なのですが、一番怖いのは「人間のエゴ」だと改めて思い知らされる一冊でした。
いつも犠牲になるのは幼い命で、その命を守ることができなかった母たち。
彼女たちは、少しでも我が子を慰めるようと、子供が好きそうな色合いで風車(子供用玩具)を作っていたことがわかった時、それまで主人公春菜と同様に感じていた不気味な風景が一瞬にして温もりのある光景へと変わりました。
そういう表現の巧さが、そこかしこに散りばめられています。
人の怨念を鎮めるには形式だけのお祓いではなく、心に寄り添って鎮めようとした登場人物たちの思いやりに、ホラー小説なのに、胸打つものがあり、非常に読み応えのある作品でした。
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