【ネタバレ有り】海の底 のあらすじを起承転結でネタバレ解説!
著者:有川浩 2005年6月にメディアワークスから出版
海の底の主要登場人物
夏木大和(なつきやまと)
本作の主人公。海上自衛隊の実習幹部。階級は三尉。最新のおやしお型潜水艦「きりしお」の乗組員。口が悪く不愛想だが情に篤い。
冬原春臣(ふゆはらはるおみ)
海上自衛隊の実習幹部。階級は三尉。最新のおやしお型潜水艦「きりしお」の乗組員。愛想がいい。端的に物事を処理する。
森生望(もりおのぞみ)
本作のヒロイン。17歳。高校3年生。同じ町内会の子どもたちと米軍横須賀基地の桜祭りに来てレガリス襲撃事件に遭遇する。他人と諍いになったときには折れることが習い性になっている。
森生翔(もりおかける)
12歳。小学校6年生。望の弟。心因性の原因で話すことができない。
遠藤圭介(えんどうけいすけ)
15歳。中学校3年生。森生姉弟と同じ町内に住んでいる。森生姉弟を敵視している。
海の底 の簡単なあらすじ
米軍のある横須賀基地では桜祭りが行われ、多くの一般人が訪れていました。だがその賑わいのある光景は、サガミ・レガリスという甲殻類が襲撃してきたことで一変します。その甲殻類はザリガニをメートル級に引き延ばしたような大きさで、人間を襲って食べるからです。海上自衛隊員である夏木と冬原は、基地外へ避難する際に逃げ遅れて甲殻類に襲われかけている子供たちを発見し保護しますが、既に基地外への退去は難しく、止む無く潜水艦内に立て籠もることにしました。救助を待つ間、2人は子どもたちの歪な関係に巻き込まれていきます。自衛隊がサガミ・レガリスを駆除後子供たちは無事帰宅し、5年度に成長したヒロインと夏木は再会します。
海の底 の起承転結
【起】海の底 のあらすじ①
米軍のある横須賀基地では桜祭りが行われ、多くの一般人が訪れていました。
潜水艦埠頭に停泊中のきりしおから、乗組員の夏木と冬原がその光景を見ていました。
艦内で騒動を起こした罰で上陸を禁止されていたからです。
そこへ突如の出航または艦からの退去命令が出されます。
出航が不可能だったため艦から基地外への避難を試みる上司と2人は、その際に横須賀基地が謎の甲殻類に襲われていることを知ります。
甲殻類は人間を手当たり次第に襲っては食べており、異常事態であると悟ります。
そしてその途中で逃げ遅れていた子どもたちを発見し救出しますが、その間に基地外への避難ルートは完全に塞がれており、止む無く潜水艦内に立て籠もることにしました。
走って艦内を目指し、避難は成功しますが間に合わなかった上司が甲殻類に襲われて亡くなってしまいます。
身体は食べられてしまったため、たまたま潜水艦内にちぎれて落ちた彼の腕だけが唯一残る遺体となってしまったのでした。
一方潜水艦の外では、市民の避難誘導にあたったのは警察官でしたが、そもそも甲殻類を圧倒する装備がないため相手をかわして逃げるしかなく、根本的な解決手段がありません。
重傷者も続々と出ます。
解決のために警察庁から派遣されたのは烏丸参事官。
現場の状況を考慮することなく貢献度を争う警察と防衛省を非難し、現場の明石警部と共に速やかに自衛隊への状況のリレーを目指すのでした。
【承】海の底 のあらすじ②
潜水艦内で一時的な共同生活を始める2人と子どもたちでしたが、最初から大きな問題が起こっていました。
料理のできる大人がいなかったため、お粥のようなごはんや焦げたフライなどしか作れなかったからです。
最も反発したのが圭介で、望を女のくせに料理もできないと詰ります。
食事時は空気が重いものになってしまいました。
その後、子供たちは自然と圭介を中心としたグループと望に懐いた子供たちの2つに別れてしまいます。
他にも苛々した圭介が救助が来ないのを森生姉弟が孤児であるからだと触れ回ってみたり、女ひとりという環境の中で生理になってしまった望とそれを知って戸惑う夏木など騒動は尽きません。
特に圭介がなぜ望にキツクあたるのか夏木と冬原は理解できず、首を傾げます。
傍から見ていれば幼い恋心を望に抱いているのは明らかだからです。
いくら拗らせてしまったとはいえ、彼の態度は尋常ではありません。
そんななか圭介の母親がインタビューされる映像がテレビに映り、彼が母親にそっくりだと感じるのでした。
警察サイドでは、常識的な対応策は部下に当たらせた烏丸参事官が、明石警部と共に「大穴狙い」に走ります。
目をつけたのは相模水産研究所の芹澤研究員がねじ込んで提出してきた報告書です。
以前から独自にサガミ・レガリスという深海生物の研究を行っていた芹澤は、今回襲撃してきた甲殻類は、サガミ・レガリスが巨大化したものではないかと言います。
甲殻類の正体を突き止めるため、芹澤は腐心、遂にはサガミ・レガリスであることを断定するのでした。
【転】海の底 のあらすじ③
きりしお救助が決定されます。
しかし自衛隊とはいえ災害出動であったために武器を使うことができず、三度試みるものの救出は失敗に終わります。
子供たちは一度帰宅の希望を持っただけに、その落ち込みは相当なものになりました。
昼食の際、テレビでは望にとって衝撃的なニュースが流れます。
きりしお乗組員が保護している子供たちへ虐待をしているというニュースです。
テレビ局にリークしたのは言うまでもなく圭介であることに気づきます。
子供たちはサガミ・レガリスがいない時を見計らい、外に出て家族に電話をかけることがあったのですが、その際にタレこんでいたのです。
圭介はきりしおで過ごすうちに、望が大人たち――特に夏木に心を寄せるようになっていたことに気づいていました。
諍いになると折れていた望が圭介に反発するようになったのも夏木の影響を受けてのことだと気づき、特に夏木に対してひどく反発してのことでした。
警察サイドではサガミ・レガリスに対して毒殺による一掃を試みますが、学習能力が高いためにすぐに効果がなくなってしまいます。
米軍がサガミ・レガリス掃討のために横須賀爆撃を計画しているという情報もあり、明石たちは早急に自衛隊に武器使用が可能な防衛出動してほしいと思っているのですが、高火力による市街戦を忌避したい官邸サイドがなかなか決断してくれません。
そこで烏丸は機動隊に徹底的に壊走して警察ではお手上げだということを官邸に見せつけろという命令を下します。
壊走のための壊走に最初は反発が起こりますが、米軍爆撃について知らせると機動隊長たちも納得するのでした。
【結】海の底 のあらすじ④
子供たちがきりしおの中でかくれんぼをしていると、翔が行方不明になります。
真面目で素直な翔が呼んでも出てこないことから酸欠で倒れていることも考えられ、圭介一派以外が総出で翔を探しますがなかなか見つかりません。
実は圭介は民間のテレビ局やレスキューと組んで感動の救出劇を画策しており、外へ出るための時間稼ぎに翔を自分たちの部屋に監禁したのです。
さすがに啓介派の子供が危険だとどうにか止めようとしますが、意固地になった啓介は聞く耳を持ちません。
翔は話せないので、夏木たちが圭介たちの部屋を訪ねても翔に気づくことがありませんでした。
けれどその後翔の声が出たことで圭介の企みは夏木たちの知るところとなり、外でレガリスに襲われかけていた圭介はすんでのところで救助されます。
真に危険な目に遭った啓介は、自分の母親が行ってきた理不尽をようやく認め、怒り、涙を流しました。
災害出動でしたが特例として自衛隊の武器使用が認められた結果、サガミ・レガリスはあっさりと駆除されました。
それまでの警察の苦戦ぶりが嘘のようでした。
きりしおから救出される際、望が夏木に告白しようとしましたが、夏木は告白の言葉を聞くことなく遮りました。
望の気持ちを受け取るつもりはなかったからです。
その結果、望はさようならと明確な別れの言葉を残して去りました。
また啓介は騒動に関し特に謝罪をすることなく去りましたが、TVカメラの前で判りやすく「自分勝手なガキ」になることで世間の虐待疑惑を払拭したのでした。
騒動から5年後、夏木と望は再会します。
夏木が勤めている艦に、防衛省の新人技官として入省した望が見学にやってきたのです。
夏木は望の進路を知りませんでしたが、連絡先の交換をしていた冬原は知っていました。
別れ際に「幸せに出会って幸せに始まりたかった」と言った夏木に“初めまして”と挨拶する望に、同じように夏木は“初めまして”と敬礼を返すのでした。
海の底 を読んだ読書感想
何度読んでも涙なしには読めない作品だと思います。
色々な人たちが一生懸命に事態の解決や収拾にあたる姿がとてもカッコいいです。
作者の有川さんがしっかりと取材や情報収集をされてのことだからだと思いますが「もしかしたら実際にこんなことが起こりえるかも!?」と思ってしまうくらい説得力やリアリティを持って物語が展開されます。
特に軍事オタクというわけではない私も、序盤から引き込まれていきました。
特に、有川さんの言葉の選び方が私は好きです。
春、寧日。
天気晴朗なれど、波の下には不穏があった。
という冒頭の1頁が、たった2行しかないのにこれから起こることの全てを端的に言い表しています。
何度読んでも背筋がぞくぞくと震えるような気がします。
また、この作品は私に大事なことを気づかせてくれた作品でもあります。
それは恥と恥ずかしいは別である、ということです。
望は潜水艦に避難しているときに予定外の生理になり、そしてそれを夏木と冬原に知られてしまうというシーンがあります。
汚してしまったシーツをこっそり洗うためとはいえ水の無駄遣いを禁止されているのに大量に使ったことや、洗濯やシャワー、薬などの配慮を受けたことに対し迷惑をかけたからと謝る望に対し、夏木が謝るなと言います。
お前に生理が来ることは悪いことか、と。
目から鱗が落ちたようでした。
それまでは何となく恥=恥ずかしいだと思っていました。
望が女ひとりという状況の中で月経を晒されることになってしまったのは確かに恥ずかしいと思います。
でもそれは決して恥じゃない、正常な身体の機能であるだけだというのはすごく素直に心に届いたような気がします。
恥ずかしいけれど恥ではない。
誰かに謗られる謂れもない。
揶揄される自分の恥ではない。
揶揄する者の恥だ。
臭いんだよと圭介に言われたあとに望が励ましを受けたシーンの2行です。
力強く色々なことを教えてくれくれる有川さんの作品が大好きです。
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