【ネタバレ有り】ドラゴン・ヴォランの部屋 のあらすじを起承転結でネタバレ解説!
著者:J・S・レ・ファニュ 2017年1月に創元推理文庫から出版
ドラゴン・ヴォランの部屋の主要登場人物
私(わたし)
主人公。パリに遊びに来たイギリス人。
サン・タリル伯爵(さん・たりるはくしゃく)
主人公が助けた貴族。年の離れた妻を持つ。
サン・タリル伯爵夫人(さん・たりるはくしゃくふじん)
伯爵の妻。絶世の美女。主人公の恋の相手。
ダーモンヴィル侯爵(だーもん?ぃるこうしゃく)
身分を隠している貴族。主人公に対し親身になってくれる。
ガイヤール大佐(がいやーるたいさ)
軍人。サン・タリル伯爵を目の敵にしている。
ドラゴン・ヴォランの部屋 の簡単なあらすじ
作者はアイルランドの作家。主人公である「私」は気のいい(そして自惚れ屋の)イギリス青年。ナポレオンによる動乱の余波収まらぬ時代、パリへ向かう途中出会った美貌の伯爵夫人に一目惚れします。横暴な夫の伯爵に苦しめられる彼女を救おうと騎士道精神を発揮し、道ならぬ恋に足を踏み入れた・・・つもりが実は伯爵と夫人はグルの悪党でした。危うく殺されかけますが二人を追っていたガイヤール大佐によって救われます。
ドラゴン・ヴォランの部屋 の起承転結
【起】ドラゴン・ヴォランの部屋 のあらすじ①
ナポレオンが敗れ、英国人に開かれたパリに人々が大挙して訪れていた頃。
パリの賭博場で運試しをもくろむ「私」はパリへの道中倒れていた馬車の難儀を救います。
そこで黒いヴェールに顔を隠した伯爵夫人に出会い、一目惚れした「私」は婦人を追って途中の同じ宿に泊まります。
しかし彼女には横暴で吝嗇な、年の離れた夫がいました。
夫人の絶世の美貌を垣間見て、二人の間の障害にますます恋心を募らせる「私。」
一方、同じ宿に泊まるガイヤール大佐は度重なる戦役で何度も負傷した猛者でしたが伯爵と伯爵夫人に対して恨みを抱いているようでした。
ふとした人違いからドロクヴィル氏として身分を隠していたダーモンヴィル侯爵と知り合った「私」はパリでの案内を買って出たいという親切な申し出を喜んで受けます。
その後宿でガイヤール大佐が伯爵と伯爵夫人に喧嘩を吹っかける騒ぎが起こり、夫人を守るため大佐を殴り倒した「私」に夫人は白バラを渡し、秘めた恋心を打ち明けて宿を去ります。
「私」は天にも昇る心地です。
【承】ドラゴン・ヴォランの部屋 のあらすじ②
騒ぎの後、ダーモンヴィル侯爵と共にパリを目指す馬車の中でコーヒーを飲んだ直後、「私」は謎の硬直に襲われます。
意識ははっきりしており、目も見えているのに何故か体がまったく動かず焦りと恐怖に襲われる「私。」
しかも異常に気付かない侯爵が道中の宿で馬車を離れた時、正体の分からない怪しい男が馬車に侵入してきて「私」の懐を探ります。
そうして「私」の持っていた大事な手紙の中を盗み読むのでした。
男の去った後、硬直のようやく解けた「私」は戻ってきた侯爵に事の次第を語りますが侯爵にも多くの説明はつきませんでした。
パリについて花の都を満喫する「私」は伯爵夫人との再会を夢見ますが中々会えません。
伯爵は郊外に邸を持っていますが酷い吝嗇で夫人は夫から逃げたがっていると聞かされます。
侯爵は近々ヴェルサイユで開かれる大仮装舞踏会の招待状を持ってきてくれますが「私」が他に予定があると言って断ろうとすると異様なほど機嫌を損ねます。
侯爵に嫌われたくない「私」は仮装舞踏会に参加することを約束するのでした。
【転】ドラゴン・ヴォランの部屋 のあらすじ③
仮装舞踏会を控えたヴェルサイユでは大変な人混みで宿泊所の確保は困難を極めます。
侯爵の紹介でドラゴン・ヴォランという閑静な宿をようやく取ることが出来た「私」はその宿が奇しくも憧れの伯爵夫人の住む城のすぐ隣にあり、宿自体も本来伯爵の持ち物だと知って胸が高鳴ります。
舞踏会は絢爛そのもので、その中には奇妙な演し物がありました。
輿に乗った預言者が舞踏会に来た人々の身の上を言い当てるというもので、その預言は恐ろしいくらいに当たるのでした。
預言者から伯爵夫人との恋を言い当てられて呆然とする「私。」
その場にはガイヤール大佐も姿を見せていました。
「私」は伯爵夫人の親友を名乗る仮面の美女と出会いますが彼女は伯爵夫人が「私」との逢い引きを望んでいると言いその時間と場所を告げます。
「私」は自分の幸運が信じられません。
しかしその後出会った古い友人とその知人の官憲・カルメニャック氏は「私」が泊まるドラゴン・ヴォランの宿は過去に何人もが謎の失踪を遂げた曰く付きの場所であると不吉なことを言います。
一晩に色んなことを聞かされて混乱する「私」はそれでも伯爵夫人との不倫の恋に突き進むべく逢い引きの場所へと向かうのでした。
【結】ドラゴン・ヴォランの部屋 のあらすじ④
「私」は遂に伯爵夫人と密会し、互いの思いを打ち明け合います。
翌晩再び出会った時伯爵夫人は自らの不幸な結婚を嘆き、「私」に駆け落ちして欲しいと懇願します。
一も二もなく頷く「私。」
駆け落ちの準備として伯爵夫人はドラゴン・ヴォランの中の知られていない隠し通路の鍵を渡し、資金として全財産を互いに持ち寄ること、そしてそれらの準備を決して人に知られぬように約束させます。
恋に夢中の「私」はその全てに唯々として従います。
駆け落ち実行の夜、親類の葬儀に参列する伯爵が城を後にした隙に「私」は城に忍び込みます。
伯爵夫人は熱烈に恋を語り二人は恋に酔いますがふとしたことから「私」は先程城を出たはずの葬儀の棺がまだ城の中にあることを発見します。
不審がる「私」を伯爵夫人は何とか言いくるめます。
そしてこれから始まる冒険に胸を躍らせつつ用意されていた飲み物を口にすると「私」はどういうわけか前にも起きた謎の硬直状態に陥ってしまいます。
実は伯爵と夫人とは恐ろしい悪党で財産のある男に近づいては夫人の美貌を餌に駆け落ちの約束をさせ、その後人間を麻痺状態にする薬品を飲ませて生きたまま棺に納め葬るという殺人を繰り返していたのでした。
侯爵もこの計画の仲間でした。
絶体絶命の瞬間ガイヤール大佐とカルメニャック氏が来て「私」を救います。
ドラゴン・ヴォランで過去に失踪した人々は伯爵夫妻の犠牲者でしたがその中には大佐の兄弟もおり、大佐は復讐の機会を求めて伯爵達を探偵していたのでした。
馬車の中に入ってきた謎の男も、舞踏会の預言者も全て伯爵夫人の変装だと知って驚愕します。
彼女の前身は女優だったのでした。
こうして「私」はまさに九死に一生を得たものの、騙されやすいカモとしてパリの人々に笑われ、心には深い傷が残ってしまったのでした。
ドラゴン・ヴォランの部屋 を読んだ読書感想
レ・ファニュはアイルランドに伝わる伝説や幽霊話を題材とした作品で知られますが、サスペンスやミステリ風の物語を書いても抜群でした。
「見かけ」の下に隠された「本当」を描く、読者を翻弄する物語としては本作の他にも『墓地に立つ館』があります。
古風な作品ながら読者を疑心暗鬼にさせるサスペンス性、緻密なトリックの面白さは今読んでも少しも色あせません。
主人公の「私」は自分のことを抜け目がないと信じている独りよがりの青年で、正直冒頭からかなり反感を抱く人物として描かれます。
間抜けなカモが翻弄されるのを高みの見物しているような、多少の底意地の悪さもこの作品の面白さのひとつでしょう。
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