【ネタバレ有り】異国のおじさんを伴う のあらすじを起承転結でネタバレ解説!
著者:森絵都 2011年10月に文藝春秋から出版
異国のおじさんを伴うの主要登場人物
僕(ぼく)
広告代理店に勤めるアラサーのサラリーマン。様々な道が収められた写真集をプレゼントして感想を聞くのが好き。
藤巻亜美(ふじまき あみ)
僕のアシスタントで、優秀。仕事が出来、気配り上手で外見も良い。僕の彼女になるが、ある秘密を抱えている。
異国のおじさんを伴う の簡単なあらすじ
広告代理店に勤める僕は、一枚の写真をきっかけに、アシスタントの藤巻さんのことが次第に気になっていきます。その写真とは、僕がプレゼントした様々な道が収録された写真集の中の一枚で、寂しく荒んだ色調のその道の写真は、普段の彼女からはかけ離れたものだったからです。藤巻さんの心の闇を垣間見た僕は、彼女を意識するようになり、付き合うことになりますが……。
異国のおじさんを伴う の起承転結
【起】異国のおじさんを伴う のあらすじ①
僕と藤巻さんが付き合うきっかけになったのは、写真集に収められた一枚の絵がきっかけです。
道だけで編まれた写真集『道のむこう』に感銘を受けた僕は、友人知人にも、自分が受けた驚きや興奮を味わって欲しい一心で、事あるごとにこの写真集を贈ります。
評判は上々で、多くの友人知人たちがこの写真集に魅せられました。
男性陣は写真のアングルや技術について評したがり、女性陣は、写真集の中のマイベストを語りたがりました。
自分が歩んできた人生になぞらえて、一本道について熱く語る様を僕は面白く聞いていました。
藤巻さんは、僕が勤める広告代理店で、アシスタントをしている女性です。
こちらが頼んだ業務はもちろんのこと、二、三日後に頼もうとしていた業務まで先回りして処理してくれる優秀な右腕で、頭は切れるのに物腰は柔らかで、愚痴もこぼさず笑顔を絶やしません。
いつも助けてくれる藤巻さんに感謝の意を込めて、僕は例の写真集を贈ることにしました。
藤巻さんはどんな道を選ぶのか気になったのです。
【承】異国のおじさんを伴う のあらすじ②
藤巻さんは、僕の予想通り大層写真集を気に入ってくれました。
一日見てても飽きないと言って、仕事終わりデスクに残って、写真集をめくっています。
僕は気になっていた質問をしてみます。
『どの道が一番好き?』と。
藤巻さんは、それまでのにこやかな笑顔を消し『はい?』と怪訝な顔で聞き返してきます。
まるで下着の色を聞かれたみたいに。
僕は慌てて、女性は道と自分を重ねるものだからと説明します。
笑顔なく、『あぁ、わかる気がします』と言いながら、翳りある笑みを浮かべながら、短い逡巡の後、一枚の写真を指差します。
藤巻さんが選んだ道は、今まで誰も選んだことのない写真でした。
数ある中で最も寂しく最も荒んだ色調の道で、砂利を敷いた道の左右に荒野が伸びていて、ところどころには枯草が茂り、ところどころには土色をさらしているそれは、命の匂いがどこにもせず、分厚い雲に塞がれて太陽の光はなく、まるで地の果てのようにすべてが暗いもので、目の前にいる藤巻さんが選ぶような道ではありませんでした。
困惑する僕に、藤巻さんは選んだ理由の自己分析も語らないまま、会社を後にします。
【転】異国のおじさんを伴う のあらすじ③
その一件以来、僕は藤巻さんのことが気になり出します。
藤巻さんは相変わらず優秀で親切で、非の打ちどころのない女性でしたが、彼女の心の中には、あの写真のように荒野が広がっているのだと感じるのです。
藤巻さんの本質を知りたい僕は、藤巻さんに告白し、付き合うようになります。
交際は順調で、藤巻さんは仕事同様、プライベートでもとても良くできた彼女でした。
不平不満も愚痴もこぼさず、適度に甘えて適度に尽くして、適度に放っておいてくれる藤巻さん。
しかし、僕は藤巻さんが何か重大なことを隠していると疑いません。
そんなに身構えなくて良いと、事あるごとに声を掛け、だんだんと藤巻さんの真相に迫っていきます。
そしてついにその日は訪れました。
交際三か月、初めて僕の部屋に招いて藤巻さんが手料理をふるまってくれた時のことです。
キッチンにこもり、ホワイトソースのパスタに唐揚げサラダを作ってくれた藤巻さん。
食事を終え、僕が食器をキッチンへ運ぶと、そこは僕の知っているキッチンではありませんでした。
竜巻に巻き込まれた後のように荒れに荒れており、戦場と化していました。
呆気にとらている僕の背後で、『ごめんなさい。
私、片づけるのが苦手で……。
』と藤巻さんが悄然と俯きながら立っていました。
【結】異国のおじさんを伴う のあらすじ④
荒れ果てたキッチンを前に、僕は冷静に藤巻さんに声を掛けます。
そんなに完璧じゃなくて良いんだよ、と。
そして『たとえば藤巻さんの中に殺伐とした風景が広がっているんなら、そのわけを知りたいし、できるならそこに小さな花を咲かせたい』と続けます。
その言葉に勇気づけられたのか、藤巻さんは意を決したように『今から、私の部屋に来て』と言って、僕をタクシーに乗せ、自分の部屋へ招き入れようとします。
それまで何かと理由をつけて、一回も部屋に招待されていなかった僕は、先ほどのキッチンを目の当たりにし、ぼんやりと答えがわかった気がします。
そして、いつかテレビの特集で見た〈片づけられない女たち〉の映像が頭に流れます。
レポーターが『臭くて鼻がもげる』と悶絶しながら、ゴミと衣類とその他様々な物でぐっちゃぐちゃな足場もない部屋を歩く様子。
今まさに、その部屋に乗り込もうとしている。
藤巻さんは隣で泣き出しています。
嫌な汗をかきながら、僕は必死に考えを巡らせますが、回避する道はありません。
僕は覚悟を決めて、タクシーの運転手に『ここで降ろして下さい』と声を掛けます。
藤巻さんは涙でぐしょぐしょの顔を上げます。
そして僕は言うのです。
『降りよう、亜美。
まずは掃除用具一式の調達からだ』と。
異国のおじさんを伴う を読んだ読書感想
9編の短編が収録された『異国のおじさんを伴う』から、優秀で人柄も良い女性の心の中の闇に迫る『藤巻さんの道』をご紹介しました。
一見すると完璧に見える藤巻さんの抱えていた秘密。
道の写真を通して、その闇を垣間見た僕が、放り出すことなく、藤巻さんの問題に真正面から向き合おうとするラストに胸が熱くなります。
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