【ネタバレ有り】不死鳥少年 アンディ・タケシの東京大空襲 のあらすじを起承転結でネタバレ解説!
著者:石田衣良 毎日新聞出版に43497から出版
不死鳥少年 アンディ・タケシの東京大空襲の主要登場人物
時田武(ときたたけし)
主人公。江東橋中学校に通う14歳。英語名はアルバート・モリソン。
時田君代(ときたきみよ)
武の母。アメリカ人の夫との間にふたりの子供を授かる。
時田登美子(ときたとみこ)
武の従姉妹。都立第二十三高等女学校の2年生。
弘井鐡治(ひろいてつじ)
武の友人。肥満体で相撲が得意。
宮西幸作(みやにしこうさく)
武の友人。両親と5人の兄弟で暮らす。
不死鳥少年 アンディ・タケシの東京大空襲 の簡単なあらすじ
アメリカ人の父親と日本人の母との間に生まれた時田武はシアトルで生まれ育ちましたが、第二次世界大戦が勃発した1年後の1940年に日本へ移住します。伯父の時田義雄の家に身を寄せることになった武でしたが、外国人の血が流れた少年にとっては日本国内も何かと生きづらい世界です。従姉妹の登美子や学校でできたふたりの友人・弘井鐡治と宮西幸作の助けもあって日本の暮らしに慣れてきた武は、1945年の3月10日に不思議な体験をするのでした。
不死鳥少年 アンディ・タケシの東京大空襲 の起承転結
【起】不死鳥少年 アンディ・タケシの東京大空襲 のあらすじ①
時田武はアメリカ人の父親マイケル・モリソンと、日本人の母親・時田君代の間に1931年に生まれました。
9歳までワシントン州シアトルで過ごしますが、日米関係の悪化と共に日本人の血を引いた君代と武への風当たりは強くなる一方です。
1940年になると君代は武を連れて夫と娘のエリーをシアトルに残したまま、本所区江東橋(現在の墨田区南部)でメリヤス工場を経営している君代の兄・義雄の家に引っ越します。
義雄は現在では上海にある航空基地で整備兵としての任務に就いているために、妻の千寿子が本所の家の留守を預かっていました。
千寿子の長女・登美子、登美子の弟・直邦、お手伝いのとよと住み込みの工員・須田芳次郎。
ただでさえ食糧事情が厳しい中でふたりの居候を抱えることになったために、千寿子は君代と武に対して余りいい顔をしません。
日本国内でも次第に軍国主義が台頭してきたために、混血の武は何かと差別的な扱いを受けることがあります。
そんな武が心から信頼できるのは、地元の国民学校に通っている時に仲良くなった弘井鐡治と宮西幸作です。
国民学校を卒業してから都立中学校へと進学した後も、3人の友情は変わることはありません。
宮西は工員の父親を持ちパイロット志望で、弘井はひそかに登美子に思いを寄せています。
1945年になると戦況の悪化と共に中学校では授業の取り止めが相次いでいるために、武たちは通信機器を製造する軍需工場で勤労奉仕することになりました。
【承】不死鳥少年 アンディ・タケシの東京大空襲 のあらすじ②
3月9日、工場での休憩時間に武・弘井・宮西の3人組が中庭で世間話をしていると、同級生の細川が取り巻きの前岡と岸田を引き連れてやって来ました。
父親が戦死したばかりの細川は、アメリカ人の父親を持つ武のことが前々から気に入りません。
細川の差別的な発言が原因で乱闘騒ぎに発展しそうになったために、3対3の相撲対決で勝負をつけることに決まります。
野次馬もあっという間に集まってきて騒ぎ立て、おやつとして配られるどら焼きをどちらが勝つか賭け始める始末です。
第一回戦は日頃から陸上部で鍛えていた前岡が弘井を押し切り、二回戦は宮西が岸田にうっちゃりを決めて1勝1敗に持ち込みました。
三回戦は武と細川の一騎打ちとなり、両者ほぼ同時に土がつきます。
潔く負けを認めたのは細川で、決闘が終わると6人は肩を並べて工場へ戻りこれまでの険悪な雰囲気はありません。
その日の午後からの作業は製造ラインの故障によって中止となり、武は登美子とふたりで錦糸町の楽天地へ遊びに行きました。
映画館まで足を運んでみましたが、軍による戦意高揚のための作品ばかりで見たいものは特にありません。
結局ふたりは映画を諦めて、錦糸公園を気ままに散歩します。
武はアメリカから来た自分たちを快く迎えてくれた、時田家への感謝の気持ちを伝えました。
登美子はこの戦争が終わったら武が生まれ育ったアメリカへ行き、彼の家族に会いに行くことを約束します。
日本に来てからというもの暴力と空腹に悩まされてばかりでしたが、この日は武にとっては忘れがたい1日になりました。
【転】不死鳥少年 アンディ・タケシの東京大空襲 のあらすじ③
3月10日の午前0時過ぎ、空襲警報が鳴り響いたために武は飛び起きました。
空にはB29が飛び交い、辺り一面は火の海です。
君代と武、千寿子と登美子に直邦、とよと須田。
7人は身の回りの品をリュックサックに詰め込んで、昨日の午後に武と登美子が訪れたばかりの錦糸公園を目指します。
道端には焼け焦げた人間が転がっていて、武は道中で宮西と弘井の遺体も目撃しますがどうにもできません。
武が違和感を感じたのは、川沿いを走る千葉街道を北に逃げている時です。
武は確かに爆弾の直撃を受けて死んだはずでしたが、気が付くと時間が巻き戻されていて無傷のままでした。
このような不思議な体験は、今回が初めてではありません。
武が6歳の時にシアトル郊外の川で泳いでいると、深みにはまって溺れてしまいます。
一度は死を覚悟しますが、なぜか川に入る前に戻っていて服もぬれていません。
その時に武に付けられたあだ名は、アンダイイング・タケシ(死なない武)です。
この日も武は幾度となく体を焼かれながらも、その度に復活して家族を守り抜くことに成功しました。
ようやく錦糸公園までたどり着いた一向は、途中で負ったやけどを癒やすために広場の噴水に飛び込みます。
日頃は嫌みばかり言っていたはずの千寿子も、この時ばかりは武に感謝しっぱなしです。
最初に武の異変に気が付いたのは登美子で、いつまでも噴水に顔を沈めたまま出てきません。
慌てて引き上げますが、武は既に亡くなっていました。
【結】不死鳥少年 アンディ・タケシの東京大空襲 のあらすじ④
第二次世界大戦終結後、戦地から帰ってきた義雄は時田メリヤスを再開しました。
女学校を卒業した登美子は帳簿の仕事を引き受けて、父の事業をサポートします。
メリヤス編みの需要がすっかり落ち込んでしまったのと、高度経済成長期の終わりはほぼ同時期です。
先見の明がある義雄は工場と倉庫を取り壊して、跡地にマンションを建てました。
長男の直邦も不動産経営に思いのほか手腕を発揮したために、時田一家がお金に困ることはありません。
登美子は製紙会社に務める男性と結婚して、4人の子供たちに囲まれて幸せな家庭を築き上げます。
ひとりは映像関係の仕事に就いて、ハリウッドの大手スタジオで働くほどです。
間もなく86歳を迎える登美子は、これが最後の海外旅行のチャンスと感じたためにシアトルへ行くことを決意しました。
タコマ国際空港の手荷物預かり場で彼女を出迎えてくれたのは、タケシの姉・エリーと彼女のひ孫に当たるエドワード・和生・時田・モリソンです。
空港の中にあるスターバックスコーヒーでひと息ついた登美子は、あらためて若き日の武にそっくりな男の子の顔を見つめます。
世界中で武の思い出話を共有できるのは、エリーとエドワードのふたりしか居ません。
エリーはアメリカ国内で、東京大空襲の悲惨さを語り継ぐ活動をしています。
わずか3時間で本所区の住人の5割が亡くなったあの大災害の中でいかにして生き延びることができたのか、登美子は命の恩人の姉に語り始めるのでした。
不死鳥少年 アンディ・タケシの東京大空襲 を読んだ読書感想
アメリカ人の父と日本人の母を持つ主人公・時田武の、数奇な運命に引き込まれていきました。
アメリカでは日系人として差別を受けて、日本では混血としてのレッテルを貼られていく様子には胸が痛みます。
その一方では従姉妹の登美子や友達の弘井鐡治や宮西幸作のように、自分と異なる存在をすんなりと受け入れていく寛容性ある若者たちの姿が感動的です。
憲兵が暴力で支配して密告者が相次ぐ軍需工場の中でも、正々堂々と相撲で決着をつけるシーンには心を揺さぶられるものがありました。
東京大空襲の前日、武と登美子が錦糸町でささやかなデートをする場面も微笑ましく映ります。
血のつながった2人が、恋人としてお互いを意識する瞬間がドキドキです。
その時に交わした「いつか一緒にシアトルに行く」という約束が、後の展開を考えると何とも切ないです。
日本でも愛されているスターバックスを、クライマックスの舞台に持ってくるのも心憎い演出でした。
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