【ネタバレ有り】明日の記憶 のあらすじを起承転結でネタバレ解説!
著者:荻原浩 2004年9月に光文社から出版
明日の記憶の主要登場人物
佐伯 雅行(さえき まさゆき)
広告代理店営業部長を務める50歳の主人公。充実した毎日を送っていたが、日常で物忘れが激しくなる。仕事にも影響をきたした為来院したところ若年性アルツハイマー病と診断される。
佐伯 枝実子(さえき えみこ)
雅行の妻。アルツハイマー病で苦しむ夫を献身的に支える。
渡辺 梨恵(わたなべ えり)
雅行24歳になる一人娘。妊娠が発覚し結婚を決める。
木崎 茂之(きざき しげゆき)
雅行が通う陶芸教室の先生。
明日の記憶 の簡単なあらすじ
広告代理店勤務の佐伯雅行は営業部長を務め仕事盛りの50歳で、一人娘の梨恵は結婚を控えており、公私ともに充実した日々を送っています。ところが最近になって物忘れが激しくなります。妻・枝実子との会話が噛み合わず、仕事にも影響をきたし始めた為しぶしぶ来院すると、診断結果は若年性アルツハイマー病。ショックで現実を受け入れられない雅行ですが、枝実子の励ましで病気を受け入れる覚悟を決めます。しかし病気は確実に進行しており……。
明日の記憶 の起承転結
【起】明日の記憶 のあらすじ①
広告代理店営業部長を務める佐伯雅行は、部下をかかえ大きな契約も決め仕事盛りの50歳です。
やり手の雅行は部下からの信頼も厚く、雅行自身も己に満足していました。
仕事一筋で、妻の枝実子に一人娘の梨恵を任せきりにしてきましたが、それも家族の為と言い訳してここまでの地位に昇り詰めました。
娘の梨恵はそんな父親に反発した時期もありましたが、今では24歳になり妊娠が発覚し結婚を決め、式を控えています。
公私ともに順調な雅行でしたが、ここ最近体調に異変を感じるようになりました。
よく眠れず体がだるく、枝実子との会話も噛み合わないのです。
言った言わないの口喧嘩になることが増えました。
仕事が忙しく疲れが溜まっているのだと軽く考えていた雅行でしたが、仕事中にも部下にイライラしたり、連絡伝達がうまくいかないことが増え、つい大声で怒鳴ってしまうことも。
以前よりも怒りっぽくなっているという自覚は持ちつつも忙しさに忙殺され病院へ足が向かない雅行に、枝実子は病院で一回きちんと診察してもらうことを勧めます。
【承】明日の記憶 のあらすじ②
不調は過労からくるものだと軽く考えていた雅行でしたが、枝実子の説得で、やっと病院に向かいます。
医師から告げられた結果は若年性アルツハイマー。
予期せぬ結果に衝撃を受けます。
物忘れやイライラ等思い当たる節はあるものの、診断を受け入れられない雅行。
自分は病気の進行が人よりの遅いのではないかと期待して、これまで通りの仕事をこなそうとします。
しかし、部下から受けた伝達事項を忘れたり、些細なミスが重なり、だんだんと以前は当たり前にできていた業務ができなくなっていきます。
付箋メモをスーツにつけあたふたする雅行を冗談でからかっていた部下たちもだんだん異変に気が付き、笑えなくなっていきます。
落ち着きがなく片っ端からメモをとる雅行の姿は、自信と余裕に満ち溢れていたそれまでの雅行とは別人でした。
物忘れだけでなく、待ち合わせもできなくなってしまった雅行は焦りと絶望で打ちひしがれます。
荒れる雅行を枝実子は心配そうに見つめていました。
【転】明日の記憶 のあらすじ③
日常生活にも仕事にも病気の影響が出て苦しむ雅行は、備忘録をつけ病気の進行具合を客観的に判断しようとします。
若年性アルツハイマー病は進行が早く、初期は物忘れからはじまり、迷子、幻覚、妄想、家族や親しい人を認識できなくなり、ついにはコミュニケーションもとれなくなります。
末期では在宅介護が難しいほどの状態になるのです。
退職に追い込まれ、自分の近い将来を想像し絶望する雅行に、枝実子は思い出作りを提案します。
忘れてしまうことになっても、やってみることが大切だと励まされた雅行はかつての趣味だった陶芸を再開します。
雅行と枝実子は陶芸を通して出会い、結婚するに至ったのでした。
陶芸教室は楽しく、暗いトンネルを彷徨っていた雅行の小さな光になります。
陶芸の先生・木崎には病気のことを伝えており、信頼を寄せていました。
この頃にはお金の管理が難しくなり、物を失くすことが増えていた雅行はすべてのことをメモするようにしていました。
月謝の支払いを忘れていたと思った雅行は、木崎に謝りながら月謝を渡します。
木崎はにこにこしながら受け取りますが、後に備忘録のノートを読み返すと、月謝は支払い済みだとわかります。
雅行は再び暗い気持ちになります。
【結】明日の記憶 のあらすじ④
備忘録は誤字が増え、平仮名が増え、字体も崩れるようになっていました。
それでも雅行はメモを取り続けました。
自分が壊れていくのを恐れながら毎日をやり過ごす雅行を、枝実子は気丈に、温かく支え続けます。
やがて雅行は娘の梨恵も認識できなくなってしまいます。
病気が進行していく中、雅行はひとり、若かりし頃に通った奥多摩にある窯元を訪ねます。
かつてお世話になった先生は痴呆が進んでいました。
先生と一晩共に過ごした雅行。
翌日、心配した枝実子が迎えにきます。
しかし、雅行は素通り。
思わず枝実子が声を掛けると、雅行は道に迷っているのだと勘違いし、駅まで一緒に行こうと返します。
雅行はもう枝実子を認識できなくなっていました。
涙をこぼす枝実子に雅行は明るく声を掛けます。
歩きながら雅行は自己紹介を始めます。
『僕佐伯って言います。
あなたは?』枝実子は、妻の自分を忘れてしまった雅良に調子を合わせ答えます。
『枝実子って言います。
枝に実る子と書いて枝美子。
』すると雅行は『枝美子さんか。
良い名前だ。
』と答え、泣き崩れる枝美子に『心配しないで。
だいじょうぶですよ。
この道で間違いない。
僕がずっと一緒にいきますから』と優しく声を掛けるのでした。
明日の記憶 を読んだ読書感想
若年性アルツハイマー病を取り扱った本作は、今まで当たり前にできたことが困難になっていく主人公の姿が読んでいて苦しいくらいリアルでした。
病気と向き合う覚悟をしてからも、心が折れてしまう雅行に寄り添う妻の枝美子が温かくて温かくて。
メモだらけになっていく雅行を奇異な目で見るかつての部下たちや、月謝をだまし取る陶芸教室の木崎など決して優しい人だけではない世界で雅行夫妻は生きています。
それなのになぜこんなにも温かい気持ちになるんでしょう。
最後の迎えにきた枝美子と、枝美子を忘れてしまった雅行のやりとりは涙で読み進めるのができないくらいでした。
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