【ネタバレ有り】弘海 息子が海に還る朝 のあらすじを起承転結でネタバレ解説!
著者:市川拓司 2005年2月に朝日新聞社から出版
弘海 息子が海に還る朝の主要登場人物
岸田弘(きしだひろし)
物語の語り手。工場の経理課に勤務。
岸田弘海(きしだひろみ)
弘の息子。小学生。
岸田真由美(きしだまゆみ)
弘の妻。コンビニのパート店員。
岸田美和(きしだみわ)
弘海の妹。兄の影響で水泳を始める。
市井里沙(いちいりさ)
「イチイフィットネスクラブ」社長の娘。
弘海 息子が海に還る朝 の簡単なあらすじ
子供の頃から身体が弱かった岸田弘海でしたが、不思議と水の中にいる時だけは元気で水泳も得意です。弘海のような得意体質を持った子供は日本だけではなく、世界各地に存在していることがインターネットを通じて明らかになります。地元の中学校へ通ってごく普通の生活を送る予定だった弘海の人生に、大きな転機が訪れることになるのでした。
弘海 息子が海に還る朝 の起承転結
【起】弘海 息子が海に還る朝 のあらすじ①
岸田弘が真由美と知り合ったのは大学2年生の時で、場所はアルバイト先の地図を制作している出版社でした。
大学卒業後に弘は工場の経理課へ就職が決まり、勤め始めてから5年目に真由美と結婚します。
男の子は父親の名前に一字足して弘海、 2歳年下の女の子は美和。
ふたりの子供を授かりますが、兄の弘海は幼い頃から風邪をひいてばかりです。
そんな身体の弱い息子を心配した弘と真由美は、彼をスイミングスクールへと通わせました。
みるみるうちにタイムが伸びて地元の大会で優勝するほどになりましたが、弘海の体には小さな異変が起こります。
指と指の間には水掻きのような薄い膜で生えてきて、両脇の下の肋骨のところに浮かび上がったのは赤い傷痕です。
体調不良が続いていたため幾つかの病院まで連れて行きましたが、医師の診断でも綿密な検査を受けても原因は見つかりません。
次第に弘は小学校を休みがちになりますが、水の中で泳いでいる時だけは相変わらず元気でした。
【承】弘海 息子が海に還る朝 のあらすじ②
弘海が市井里沙と出会ったのは、夏の終わりの対抗試合が行われている県営屋内競泳プールです。
脇の下の赤いあざに興味を示した彼女の父親はフィットネスクラブの経営者で、インターネットを通じて弘海と同じような症状を抱えている子供たちの情報を集めていました。
弘が里沙の父が作ったホームページにメールを送ると、間もなく彼の自宅へと招かれます。
市井一家が住んでいるのは人口10万人ほどの城下町で、うら寂しい商店街には日曜日の午後だというのに余り人影はありません。
里沙自身も弘海とまったく同じあざを持っていることを明かした父親は、これは病気ではなくてユニークな個性だと主張します。
オレゴン州のポートランド、地中海のシチリア島、北欧。
世界各国で同じ症例が報告されていて、何れの少年少女たちにも共通して言えるのは水への高度な順応性です。
彼らは単なる天才児でもなく、本質的な変化を遂げて何かに向かって進もうとしているのかもしれません。
【転】弘海 息子が海に還る朝 のあらすじ③
弘海は最初に市井家を訪れて以来、近所のスイミングスクールではなく「イチイフィットネスクラブ」に頻繁に足を運ぶようになりました。
里沙ともすっかり打ち解けて、様々なマリンスポーツにもチャレンジしています。
そんな中で突如として降ってわいたのは、弘海と里沙の留学の話です。
里沙の父はカリフォルニアの沖合いに浮かぶ小さな島に研究所を構える、ひとりの海洋生物学者とコンタクトを取っていました。
私利私欲のない信頼できる人格者であり、彼に子供たちの未来を託そうかと考えています。
博士が南の島に作ろうとしているのは、サマーキャンプのような学校です。
あと3ヶ月ほどで受け入れ準備が整うという遥か海の彼方の学校へ留学するのか、自宅アパートから歩いて15分程度の地元の公立中学校へ進学するのか。
弘と真由美は息子の将来について重大な決断を迫られることになりましたが、「ぼくらが生まれてきた意味を見つける」という弘海の意思を尊重することにします。
【結】弘海 息子が海に還る朝 のあらすじ④
4月の最初の日曜日には再び市井家と岸田家全員が集合して、アメリカからやって来た博士の代理人と面談を行います。
パスポートの申請から血液サンプルの採取と一通りの手続きを完了した後に、代理人は子供たちと一緒にフィットネスクラブで泳ぎました。
まだ幼い面影を残したアメリカ人の青年の脇の下にも、弘海や里沙と同じあの赤いあざがあります。
自らを「不完全な世代」と揶揄する代理人自身も、かつてはこのあざにコンプレックスを覚えていたようです。
弘海たち次の世代が、ハンディではなくパーソナリティとして受け止められるように期待を寄せていました。
出発の日は5月25日に決まり、この日は弘海の13歳の誕生日です。
海岸には里沙たち親子ばかりではなく、真由美の両親や弘の母親も姿を見せています。
弘海は最後の別れを済ませた後に、里沙と並んで海へと向かって歩いていきました。
船の上からそっと身を寄せ合って消えていく若いふたりを、残された家族はいつまでも手を振りながら見守っているのでした。
弘海 息子が海に還る朝 を読んだ読書感想
幼い頃から病弱な息子・弘海に注ぐ、主人公・岸田弘と妻の真由美の優しい眼差しには心温まるものがありました。
原因不明の難病に苦しめられながらも、決して揺らぐことのない家族の絆を感じることが出来ます。
陸上ではいまいち元気がなく息苦しさを抱いていた弘海が、水の中に入った途端に生き生きとエネルギーを取り戻していくシーンが印象深かったです。
子供だけが持っている純真無垢な心と、無限の可能性が伝わってきます。
クライマックスでの弘海たちを乗せた船の出発には、著者の市川拓司が次の世代へ向けたメッセージが込められているはずです。
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