「平成くん、さようなら」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|古市憲寿

平成くんさようなら

【ネタバレ有り】平成くん、さようなら のあらすじを起承転結でネタバレ解説!

著者:古市憲寿 2018年11月9日に文藝春秋から出版

平成くん、さようならの主要登場人物

平成くん(へいせいくん)
この物語の主人公。名前は平成と書いて「ひとなり」と読む。文化人として活躍しているが、安楽死することを希望している。

愛ちゃん(あいちゃん)
平成くんの彼女。この物語は愛ちゃんの視点で語られている。平成くんの安楽死希望に反対している。

ミライ(みらい)
平成くんと愛ちゃんが同棲する家で飼っている猫。

平成くん、さようなら の簡単なあらすじ

舞台は平成の終わり、安楽死が合法化された社会です。平成くんはその名前から、「平成最後を象徴する文化人」としてメディアに取り上げられる毎日を送っています。恋人の愛ちゃんは母の仕事を手伝いながら、アニメプロデューサーとして働いています。平成くんと愛ちゃんは好きな仕事に就き、幸せな生活を謳歌しているように見えますが、二人は二年ほど同棲しているもののセックスレスで、お互いに理解できていない部分も多いです。そんな時、平成くんが、平成が終わる頃に安楽死をしたいと言い出します。それに反対する愛ちゃんですが、平成くんは安楽死に関する情報収集や準備を始めてしまいます。そんな時、二人で飼っている愛猫のミライの体調が悪くなってしまいます。

平成くん、さようなら の起承転結

【起】平成くん、さようなら のあらすじ①

平成の最後に

主人公の平成くんは、平成の終わりを象徴する文化人として活躍をしています。

恋人の愛ちゃんも同じようにアニメプロデューサーとして活躍していますが、愛ちゃんの父親は有名な漫画家です。

父親の肩書や遺産のお陰で今の仕事にありつけたようなものなので、平成くんに少しの引け目を感じていました。

また、平成くんと二年ほど同棲はしていますが、長い間セックスレスで、その原因は平成くんがそういうことを好まないからです。

物足りなさを感じる愛ちゃんですが、何も言いだすことができず、時間だけが経っていくのでした。

そんな時に、平成くんが安楽死したいと考えていることを知ります。

愛ちゃんは安楽死には反対です。

というのも、特になんの問題もなく生活できているのに、平成が終わってしまうからという理由だけで安楽死をしたいと考える意味がわからなかったからです。

どんなにそれを伝えても、平成くんは耳を貸しません。

反対に意固地になったように、安楽死に関する資料集めを始めてしまいます。

いくら合法になったからといって、その安楽死に対する熱意が理解できない愛ちゃんと、これ以上生きる意味がわからないという平成くんはどんどんすれ違うようになっていきます。

そんな時に、二人で一緒に飼っている愛猫のミライの体調が悪いことに二人は気付きます。

病院には連れて行ったものの、回復の見込みがあまりなく、いままで二人の心の支えであったミライの突然の不調に、平成くんと愛ちゃんは途方に暮れてしまいます。

【承】平成くん、さようなら のあらすじ②

ミライの死

平成くんは相変わらず安楽死の情報収集をし、愛ちゃんはそれを困ったように眺めています。

愛ちゃんが仕事で安楽死に関するテーマの取材をすることになったとき、平成くんも自分も同行させてほしいと言い出す始末です。

無理やり平成くんは愛ちゃんの取材相手にも会い、実際の火葬現場などにも出向いていくようになります。

そんな時、愛ちゃんが仕事から帰ってくると、平成くんとミライがいません。

ミライを動物病院に連れて行ったのかと待っていると、平成くんだけが帰ってきます。

苦しむミライを安楽死させ、今火葬してきたところだ、と平成くんは言います。

愛ちゃんはそれをどうしても許すことができませんでした。

いくら動物だからといって、勝手に安楽死させないでほしい、といって怒り、悲しみます。

平成くんの言い分としては、ミライをこれ以上苦しませるのが嫌だったから。

しかし、ミライのために怒って泣く愛ちゃんの姿を見て、平成くんの心境にも変化が訪れます。

自分ひとりで死ぬのは勝手だが、自分が死ぬことによって、悲しむ人がいるということ。

死んだもののことを考えると、残された人はとてもつらいのだということを理解します。

そうして、平成くんは少しずつ、愛ちゃんの考え方を理解するようになり、愛ちゃんの前で安楽死のことを言い出すことも少なくなりました。

愛ちゃんは、平成くんが安楽死することを諦めたのではないかと思い、少しずつ二人の距離は縮まっていくようになりました。

【転】平成くん、さようなら のあらすじ③

告白

平和な日が続いていましたが、ある日愛ちゃんから、平成くんに、自分は目の病気であるということを打ち明けられます。

この病気は進行性のもので、おそらく将来的には目が見えなくなるということ、現在も少しずつ視力が落ちていっているということを平成くんは愛ちゃんに話しました。

何も気づいていなかった愛ちゃんは驚きます。

平成くんが愛ちゃんとのセックスを拒む理由もここにあって、もしも子どもができてしまったら、その子どもにも目の病気が遺伝してしまうかもしれません。

それを恐れて、平成くんは今まで愛ちゃんを拒んできたのです。

また、安楽死をしたいと思ったのも、この目の病気が原因でした。

この世界で、視力を失ってしまってまでも生きていく自信がないというのです。

だったらもう死んでしまいたい、と思って安楽死を考えるようになったと言います。

しかし、ミライの死や、実際に安楽死をした人のことを見聞きするうちに、安楽死が最善の策とも思えなくなり、平成くんは途方にくれていました。

すべてを知った愛ちゃんは平成くんを受け入れようと思いますが、その翌日から、平成くんは姿を消してしまいます。

驚いた愛ちゃんは平成くんを探しますが、どこに連絡を取っても平成くんは見つかりません。

もしかして死んでしまったのではないか、と思う愛ちゃんですが、平成くんと連絡が取れないうちはどうしようもありません。

平成くんのことを心配しながらも、日常に戻っていくしかないのでした。

【結】平成くん、さようなら のあらすじ④

平成くん、さようなら

平成くんはいつまでたっても姿を現しません。

もう、死んでしまったのではないか、もしくは平成くんは私とはもう別れたつもりになっているのではないか、と愛ちゃんは考えるようになりました。

しかし三か月後、平成くんはいきなり愛ちゃんの前に姿を現すのです。

そして、愛ちゃんに白い箱を渡します。

平成くんは、まだ僕は死ぬか迷っていると言い残して、また去っていきました。

その箱の中身は、小さなスマートスピーカーでした。

そのスマートスピーカーに話しかけると、平成くんの声で返事が返ってきます。

その返事も、平成くんがいかにも言いそうな内容ばかりでした。

このスマートスピーカーの発言がリアルタイムの平成くんの声なのか、録音されたものなのかはわかりませんが、愛ちゃんはいつでも平成くんの声が聞けるようになりました。

今でも愛ちゃんはこのスマートスピーカーに話しかけます。

しかし、今、平成くんが生きているのか、死んでいるのかはわかりません。

もう平成くんは愛ちゃんの前には姿を現さないつもりだ、ということだけはわかるのでした。

もし、平成くんが死んでしまっても、スマートスピーカーから返事が来る限りは、愛ちゃんは平成くんの死を実感することがありません。

人の死を実感することは悲しくてつらいと言っていた愛ちゃんに対する最善の策を、平成くんは遺してくれたのだと、愛ちゃんは実感するのでした。

また、愛ちゃん自身はしっかりこれからも生きていこうと、強く誓います。

平成くん、さようなら を読んだ読書感想

作品全体を通して、平成の時代を象徴するような固有名詞が頻出するので、平成時代の現代人として、楽しめる部分はたくさんありました。

また、安楽死という重いテーマを扱いながらも、気軽に読める内容だと思います。

平成くんがペットの死や恋人の考え方を通して、死に対する意識が変わっていく場面は見どころだと思います。

今、この本を読むことで、平成の終わりということをリアルタイムで実感することができるので、今、この時代にこの本を読めたことは私にとってかなり大きな収穫です。

平成くんの性格は著者の古市さんの生き写しかのように思えるほど、斜に構えていて、万人に好かれるタイプではありませんが、私自身はそういう考え方もあるのか、と面白く読むことができました。

第160回芥川賞と直木賞の候補 11作品ノミネート時のニュース

コメント