「スイミングスクール」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|高橋弘希

「スイミングスクール」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|高橋弘希

著者:高橋弘希 2017年1月に新潮社から出版

スイミングスクールの主要登場人物

久保田早苗(くぼたさなえ)
ヒロイン。専業主婦として地に足をつける。若い頃はばくぜんとした目標があった。

久保田春菜(くぼたはるな)
早苗の母。旅行会社に勤めていて給与も悪くない。その時の風潮に感化されやすい。

鈴村(すずむら)
早苗のバイト先の先輩。英才教育よりも自主性を大切にする。

宇佐見(うさみ)
早苗たちの雇い主。独り身になってから心体ともに弱くなっている。

鈴村ひなた(すずむらひなた)
早苗の娘。やりたいことを飽きることなく続ける。

スイミングスクール の簡単なあらすじ

進むべき道や趣味嗜好に関して見解の相違があり、理解し合えないまま家を出たのは久保田早苗です。

愛する人と出会って自分たちの家庭を築いていた矢先に、母親・春菜の突然の訃報が舞い込んできたために実家と遺品の整理に追われることに。

1個のカセットテープに残されていたメッセージがきっかけで、ようやく母性愛を実感するのでした。

スイミングスクール の起承転結

【起】スイミングスクール のあらすじ①

大黒柱の不在で母娘に亀裂が

久保田春菜が大学在学中に旅行業務取り扱いの資格を取得したのは、海外旅行者がこの先も増え続けるとにらんだからです。

予想通りに就職先の業績は好調、結婚後には女の子を授かりますが物心つく頃には離婚が成立しました。

父親からは埼玉県深谷市にある庭付き一戸建てを相続、児童扶養手当もほぼ満額の支給。

経済的には恵まれているためにスイミングスクールに通っていた早苗ですが、ある日突然に辞めさせられて電車で2〜3駅ほど離れた隣町にある進学塾へ。

教師も保護者も偏差値で将来が決まると信じていた1990年代前半、春菜は我が子が期待を裏切るたびに苦痛に顔を歪めるような表情をしています。

中学受験に失敗して近所の公立校に進学した時、某国立大ではなく短大の奨学金を申請した時、元夫の養育費で真っ赤なレースの下着を購入した時。

平手打ちを食らい「あんたを堕ろすつもりだった」と打ち明けられた早苗は、日野にあるアパートでひとり暮らしを始めて母とは連絡を取りません。

【承】スイミングスクール のあらすじ②

お先真っ暗弁当が恋のともしびに

アルバイトをして学費を稼いでいた早苗でしたが、「朝日弁当店」を切り盛りする宇佐見には元気がありません。

妻に先立たれてからは落ち込みがち、さらには近隣に全国チェーン「オリジン」が出店してきてからは売り上げも下がりっぱなし。

病で床に伏せるようになった宇佐見に代わって店舗の指揮を執るようになったのは、私大の4年生だという鈴村。

従業員からは次期後継者にと期待されているようですが、すでに大手の電化製品メーカーに内定が決まっていました。

その鈴村からプロポーズされた早苗は即答でOK、ふたりで三鷹にマンションを借りて新婚生活も順風満帆そのもの。

娘のひなたを春菜に会わせるつもりがついつい先延ばしに、そうこうしているうちに深谷総合病院から緊急連絡が届きます。

大雨の日に町外れの側溝で誤って転倒して、搬送された先の集中治療室で亡くなったとのこと。

深谷の実家は取り壊されて更地に、早苗の手元には土地売却代と春菜の愛用品が大量に残っただけです。

【転】スイミングスクール のあらすじ③

愛犬の死から水を得た魚に

フッサリとした毛並み、目や耳周りは栗色、豊かな白毛が生えた腹部、2色が混ざったマーブル模様のしっぽ。

シーズー犬を可愛がっていたひなたですが、10年の長寿をまっとうしたためにペット業者に依頼して火葬してもらいました。

濡れたひとみから次々と涙をこぼしていましたが、次の日にはケロリとしてスイミングを習いたいと言い出します。

以前も安売りしていた玩具のピアノを買い与えたところ、毎日弾きつづけて独学でバイエルまで覚えたとか。

本人の意欲を尊重するのは早苗も夫も同じ、初日にビート板クロールができるようになりスクールバスも運行しているため送り迎えの負担もありません。

「負担」といえば深谷の家から引き取ったコレクションの方が深刻で、ボブ・ディランやらイーグルスやらのレコードが山積みに。

少しずつ処分をしていたところ発見したのはソニーのオーディオカセット、夫の勤め先の倉庫に眠っていたデッキを貸してもらい再生ボタンを押すと聞こえてきたのはふたりの女の声です。

【結】スイミングスクール のあらすじ④

過去へ巻き戻し未来へ向かって逆再生

今日は1992年7月24日、名前は久保田早苗、もうすぐ10歳、特技は水泳、最近のマイブームはB’zの新曲「ZERO」、将来の夢は動物のお医者さん。

紛れもなく自分の声で、インタビュアーは母親に間違いありません。

録音の最後には「パパ」と呼びかけていますが春菜の兄、早苗から見るとおじに当たる男性。

父親代わりに何かと面倒をみてくれた人でしたが、思春期を境に距離を置くようになってすっかり疎遠に。

久しぶりに電話で相談してみると教えてくれたのは「百か日法要」、故人の死から100日目に悼むのを止めることだそうです。

春菜の死から1000日以上は過ぎていましたが、ようやく全てを土に返しても咎められない気がしてきます。

この時期には駅近くの神社で縁日が開かれていて、フランクフルトにりんご飴・ソースせんべいとひなたは大喜び。

バタフライの試験に受かりますように、あと30センチ背が伸びますように… 賽銭箱に五円玉を投げ入れたひなたは次々とお願いごとをしていますが、早苗はみんなが健康であることだけを祈るのでした。

スイミングスクール を読んだ読書感想

シングルマザーの久保田一家から物語は幕開け、さぞかし生活に困っているかと思いきや以外にも優雅な環境ですね。

3度の食事はもちろん習いごとにまでお金を出してもらっている早苗ちゃん、豊かな創造性を身に付けていくのかと思いきや過熱するお受験戦争に投げ込まれるとは。

早々と学歴社会からドロップアウトするのは致し方ないとしても、その娘にお母さんが投げかけた言葉は余りにも辛辣でした。

修復不可能なほどに縁をきった春菜・早苗、親子を結びつけるのは懐かしの磁気テープメディア。

祖母、母、孫の3世代が一堂に会することはなくとも、記憶と命は確実に次の世代へと受け継がれていくのでしょう。

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