著者:朝霧咲 2023年9月に講談社から出版
どうしようもなく辛かったよの主要登場人物
真希(まき)
中学のバレー部員。小学校からバレーボールの経験者。主将。
桜(さくら)
中学のバレー部員。
若菜(わかな)
中学のバレー部員。
藤吉(ふじよし)
バレー部の顧問。若い女性の先生。
桐生優斗(きりゅうゆうと)
真希たちと同じ中学の同学年の男子。バレー部みんなの推し。
どうしようもなく辛かったよ の簡単なあらすじ
愛知県にあるその中学校で、三年生が卒業して、女子バレー部員は二年生の七人だけになりました。
おまけに大好きな顧問の先生は、異動でよその学校へ移っていきます。
彼女たちのバレー部は、春と夏の地区大会でも良い成績を出せませんでした。
やがて、進学先を決める季節となり、徐々に彼女たちの黒い裏面が見えてきます……。
どうしようもなく辛かったよ の起承転結
【起】どうしようもなく辛かったよ のあらすじ①
愛知県のその中学では、三月に三年生が出ていき、女子バレー部は、若菜たち二年生だけになりました。
真希、若菜、くるみ、桜、柚稀、百合、茉梨の七人です。
本当はもう一人いるのですが、その子は一年生のときから、ずっと不登校です。
バレー部の顧問は、藤吉先生という女性教師です。
厳しく指導する顧問ですが、部員たちは皆、藤吉先生のことが大好きです。
なんとかして地区大会を勝ち上がり、藤吉先生を本大会へ連れて行ってあげたい、と思っています。
ところが、三月末の人事異動により、藤吉先生は、明徳中学に移ることになってしまいました。
そこは、地区で一番バレーが強いところです。
藤吉先生に代わって、新しく顧問になったのは、バレー経験のない三十代のデブ女で、副顧問は六十代のジジイでした。
部活の練習は、そんな顧問たちでは当てになりません。
主将の真稀が、練習を主導しました。
若菜たちは、春の大会では、一回戦を勝ち抜きましたが、二回戦で負けました。
そして夏の大会、初戦は、春大会で楽勝した相手、二回戦は強豪の明徳中学と決まりました。
当然、初戦は勝てると思っていたのですが、負けてしまいました。
なぜなら、彼女たちは話し合いと称しておしゃべりばかりしていて、ろくに練習をしなかったからです。
【承】どうしようもなく辛かったよ のあらすじ②
十月になりました。
真希たち三年生は、高校への進路を決めなければなりません。
スポーツも勉強もできる真希は、進路先の高校をどこにするか、迷っています。
愛知県では、公立高校を二校受験できますが、組み合わせがあります。
この地区一番の難関校である桜西高を選ぶと、もう一つは、誰でも入れる高校になってしまいます。
桜西ほどではありませんが、家から近い進学校の明成を選ぶと、もう一校は、同じくらいレベルの高い明成東を受験できます。
理性的に考えると、明成を選ぶのがよいのですが、一番の高校へ進学した、と見られたい真希のプライドが、決断の邪魔をするのです。
実際真希のプライドは高く、心のなかで他人を見下しているようなところがあります。
真希は、解散したバレー部のみんなと月一で食事会をしているのですが、皆から「真希なら桜西、受かるよ」と無責任に言われて、つい冷たい言葉で反論してしまうのでした。
一方、教室では、同学年の女子生徒の多くが推しとするイケメンの桐生優斗に対し、真希はさかんに愚痴を言います。
彼は陸上でがんばって、高校に推薦入学が決まっています。
そのことをあまりにも「いいな」「ずるいな」と言っていたら、とうとう文句を言われてしまいました。
その瞬間、真希は、明成を受験することを決心しました。
将来後悔することになるでしょうが、決断した、と見栄を張ることにしたのでした。
【転】どうしようもなく辛かったよ のあらすじ③
八人のバレー部員のうち、不登校の子がひとりいるのですが、それが愛美です。
愛美は、一年生のとき、クラス委員をやり、バレー部に入っていましたが、ある日突然力が抜けてしまい、それ以来二年半、不登校が続いています。
愛美の両親は、離婚協議を五年も続けています。
そんなある日、家出していた姉が、ふいに家に来ました。
姉は、両親の離婚協議が進まないのは、愛美が家にいるせいだ、と言います。
四時半まで確実に家にいないように学校に行け、と命じられ、翌日、愛美は久しぶりに登校しました。
自分のクラスに行くと、若菜が何かと面倒を見てくれました。
若菜は、愛美が不登校になったときに、しつこく親身になろうとしてくれた子です。
愛美は、女子たちの推しである優斗のとなりの席につきました。
そして、優斗に教科書を見せてもらいながら、一日を過ごしました。
イジメや、学校が嫌になったのが不登校の原因ではないので、愛美は平気で学校にいられました。
学校が終わって、早めに帰宅すると、両親が喧嘩していました。
二人とも、愛美の養育を相手に押し付けようとしています。
愛美は、姉に言われた通り四時半まで外にいようと、再び家を出ました。
公園で、優斗に会いました。
気楽におしゃべりするうちに、優斗がこんな愚痴を言います。
自分は推薦で進学するが、それは背水の陣であり、失敗が許されない大変な状況なんだ、また、自分はごく普通の人間なのに、推しとして祭り上げられ、勝手に高いイメージで見られて、大変なんだ、そうして、こんな愚痴を、頑張れない自然体の愛美だからこそ話せたのだ、等々と言いました。
優斗と別れたあと、愛美は、明日も学校へ行こうかな、と思うのでした。
【結】どうしようもなく辛かったよ のあらすじ④
桜は茉梨と大の仲良し、と周りから見られています。
でも、心のなかではうっとうしいと感じています。
それにもかかわらず、茉梨をそでにしないのは、ひとりぼっちになるのが怖いからです。
クラスで友だちのいない五人の女子は、順にイジメにあって、順に不登校になりました。
いま、五人目の梓という子をみんなでいじめています。
桜もいじめています。
桜はハラの黒い策略家なのです。
ある夜、桜は茉梨からコクられました。
友人としてではなく、恋人として付き合ってほしい、というのです。
桜は返事を保留します。
そのうち、梓がアイドルグループのオーディションに合格しました。
とたんに、皆が梓をちやほやしはじめました。
梓はアイドル活動のために転校することになります。
一方、桜は茉梨にОkの返事をしました。
あと二か月とはいえ、ひとりになったら、どんなイジメを受けるか、わからないからでした。
さて、卒業式の日になりました。
規則を破らないマジメ人間とみなされているくるみは、髪形や制服の着方などで、少しだけ規則を破り、学校へ行きます。
若菜が話しかけてきます。
「バレー部は楽しかったね」と言われました。
けれどもくるみは、みんなのことが大嫌いでした。
でも、みんなが自分と仲良くしてくれるからこそ、ちゃんとみんなを嫌うことができるのだ、と自覚します。
くるみにとって、中学の三年間は、とてもつらい日々だったのでした。
どうしようもなく辛かったよ を読んだ読書感想
第17回小説現代長編新人賞受賞作です。
著者は高校三年生のときに本作でデビューしたそうです。
読んでみて「どうりで」と感嘆したものです。
というのも、十代の女性にしか書けないような、女子中学生たちの内面が、実に生き生きと、また残酷に、描かれていたからです。
一見、和気あいあいと仲良く付き合っている女子生徒たちが、その内面では、実に腹黒いことを考えています。
けれども、彼女たちの腹黒さを知ったとき、いやな気持ちになったかというと、必ずしもそうではなかったのです。
むしろ、切実で、哀切だなと感じたものです。
たぶん、彼女たちの「黒さ」というのが、若さゆえ、幼さゆえ、純粋さゆえ、生じてきたものだと思えるからです。
そんなことを考えさせるこの作品は、確かに青春小説の佳作なのだろうなあ、と思うのでした。
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