著者:町屋良平 2019年2月に河出書房新社から出版
ぼくはきっとやさしいの主要登場人物
岳文(たけふみ)
作品の語り手である〈ぼく〉。高校時代に野球部だった。
照雪(てるゆき)
岳文の、大学以来の親友。
冬実(ふゆみ)
岳文の高校時代のクラスメート。同じ大学に進学した。
セリナ(せりな)
岳文がインド旅行で出会った、香港から来た女性。
石上心佳(いしがみしんか)
岳文の弟の恋人。岳文より二歳年上。
ぼくはきっとやさしい の簡単なあらすじ
岳文は高校三年のときに、突然恋をしたクラスメートの冬実と、大学に入ってから付き合い始めます。
しかし、気が合わず、振られてしまいました。
半年後、友人といっしょに出かけたインドで、香港から来たセリナと知り合い、恋人関係になります。
しかし、それもほんの束の間で、あっさりと振られてしまいました。
四年後、出版社で働いていた岳文は、弟の彼女に恋心をいだいてしまうのですが……。
ぼくはきっとやさしい の起承転結
【起】ぼくはきっとやさしい のあらすじ①
岳文は、大学受験をひかえた冬のある日、クラスメートの冬実の瞳に雪を見て、恋に落ちました。
岳文が合格した大学には、冬実も入学しました。
岳文には、新入生へのサークル勧誘をきっかけにして、照雪という友人ができました。
冬実の姿は、ときどきキャンパス内で見かけます。
入学して三か月後、岳文は彼女に告白しました。
ふたりは付き合い始めましたが、なかなか会話がはずみません。
岳文は友人の照雪を誘って、三人で野球を観戦しに行きました。
岳文は高校時代は野球部で、照雪は野球を見るのが好きなのです。
三人でいるときだけは、なぜか冬実の会話ははずむのでした。
やがて岳文は冬実を自分の部屋に誘います。
そこでも会話ははずまず、キスもできませんでした。
彼女の希望により、ふたりで夜の海を見に行きました。
冬実は岳文と会話を続けるのがつらく、その一方で、照雪のことが好きかもしれない、と告白します。
そして、もう岳文のことは好きじゃない、と言って、彼を突き飛ばしました。
夜の海に落ちた岳文が、上がってみると、もう冬実はいませんでした。
岳文は近くのホテルにかけこんで、一夜をすごしたのでした。
【承】ぼくはきっとやさしい のあらすじ②
岳文は、照雪と話をしました。
照雪は冬実のことが好きだと言って、岳文に謝ります。
まだ彼女と付き合ってはいないようですが、ともかく謝ります。
そして、岳文のことは親友だと思っていると言うのでした。
それから半年後、岳文は照雪とふたりでインドへ旅行しました。
慣れないインド旅行では、いろいろと災難にあいました。
それでもともかくふたりはインドの北部を東へ八百キロ横断する夜行列車に乗りました。
列車内で、岳文はセリナという、香港から来た女性と知り合い、意気投合し、手をつないで眠ります。
翌朝、照雪が「こいつは何もないけどいいのか」と訊くのに対し、セリナは「この男には霊性がある」と答えたのでした。
岳文はしばらく照雪と離れ、セリナといっしょに行動することにします。
その晩、セリナとセックスしようとしましたが、うまくできませんでした。
しかしセリナは少しも責めません。
「わたしは男らしらより、人間としてのやさしさを優先する」と言うのでした。
ふたりは早朝のガンジス川を見に行くことにしました。
早朝、ホテルの玄関が閉まっていたので、職員を起こして、無理やり開けさせました。
ボートの乗り場では、セリナが値段の交渉をし、少年の漕ぐボートに乗りこんだのでした。
【転】ぼくはきっとやさしい のあらすじ③
岳文とセリナは火葬場にボートをつけてもらいました。
死者が火葬され川に流される場所で、ふたりで手をつないでしばらくたたずみました。
ボートにもどると、岳文は元カノの冬実のことを打ち明けます。
とたんに、セリナに突き飛ばされて、ガンジス川に落ちてしまいました。
ようやくボートにもどると、もうセリナはいませんでした。
無理やり別のボートに乗り移ったそうです。
それ以来、セリナには会えません。
岳文はふられたのです。
岳文は照雪に、セリナにふられたことを報告し、再会しました。
そもそも、このインド旅行は、照雪が冬実にふられたのが始まりでした。
岳文と別れて照雪と付き合い始めた冬実は、じきに照雪のやさしさが物足りなくなったのでした。
そうして、照雪の失恋の痛手が回復したころに、岳文の提案で、インド旅行を計画した、というわけなのでした。
さて、それから四年の年月が流れました。
出版社で働く岳文は、その日、母といっしょに、弟の恋人に引き合わされることになっています。
弟より三歳年上の心佳さんは、岳文と同じように日記をつけていると言います。
そのとたん、岳文はお酒をこぼしてしまいました。
心佳さんがそれをさっと拭いてくれました。
その日以来、岳文は、心佳の家の近くにある喫茶店に入りびたり、日記をつづるようになります。
そんなある日、心佳が偶然に店に入ってきました。
岳文は彼女に「好きだ」と言ってしまったのでした。
【結】ぼくはきっとやさしい のあらすじ④
それからすぐに、弟から内容証明郵便が送られてきました。
今後岳文が心佳につきまとうことを禁止する、旨のことが書かれていました。
弟は激高しているようです。
間の悪いことに、岳文の働いていた出版社が倒産してしまいました。
おまけに、岳文が会社と正式に雇用契約を結んでいなかったことが、いまわかったのでした。
母親からは家を出て行けと言われましたが、こんな状態で自立することなどできません。
週の半分ほどは、照雪のアパートに泊めてもらいました。
照雪はいまブロガーとして、低収入ではありますが、お金を稼いでいます。
照雪は始終パソコンをたたきつつ、彼なりに岳文のことを心配して、アドバイスしてくれます。
岳文はときどきさびれたバッティングセンターに行って、バットをふったりします。
しかし、そこもつぶれてしまいました。
岳文が外でごろごろしていると、弟がさがしにきました。
逃げたものの、つかまります。
弟いわく、心佳とは別れたとのことです。
岳文は家にもどります。
なんとはなしに、昔の兄弟の関係が復活します。
弟は、岳文がヨガをするために整理した兄の部屋を気持ち悪いと言います。
岳文は、結局自分は主人公なんかじゃなくて、ただの兄にすぎない人間なのだと悟りのようなものを開くのでした。
ぼくはきっとやさしい を読んだ読書感想
著者は「1R1分34秒」で芥川賞を受賞した作家です。
今回は、とりたててすぐれたところのない平凡な青年が主人公の物語です。
ただし、彼はけっこう女性に一目ぼれするタイプらしく、そこからは、猪突猛進とまではいかないものの、なんとか告白したりするだけの積極性は持ち合わせています。
ところが、悲しいかな、女心の機微など全然わからず、ふたりの女性と付き合い、ふたりともにふられてしまうのです。
このあたりは、自分の青春時代を思い出しつつ、ニヤニヤしながら読んでいきました。
しかし、主人公が弟の彼女に惚れてからは、ガラガラと世界が反転していきます。
そんななかで主人公は、「世界」や「自分」についての真理のひとかけらをつかんだようです。
そこのところが、この作品を読むポイントなのかな、と思ったしだいです。
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