著者:石野晶 2023年4月に双葉社から出版
パズルのような僕たちはの主要登場人物
(谷口月彦)
地味で平凡な男子高生。父子家庭で、両親のすれ違いに心を痛めている。
(藤枝糸雨)
月彦の幼馴染みでクラスメイト。アイドルとして活躍する美少女で、芯が強い。
(立川薫)
謎の「機関」から派遣された、月彦と糸雨の世話人。体が不自由になっていく二人と同居し家事を行う。体は男性だが、心は女性。実は「ジグソーパズル症候群」の生き残り。
(杉村)
糸雨に片想いするクラスメイト。体育会系のイケメンで、糸雨の親衛隊を自称する。月彦を邪険にしている。
パズルのような僕たちは の簡単なあらすじ
平凡な高校生谷口月彦と、幼馴染のクラスメイトの藤枝糸雨は、ある日「ジグソーパズル症候群」に襲われます。
その病は、二人の手足が徐々に入れ替わっていき、最後には片方が死亡するというものでした。
不自由の中、二人は自分たちの未練や夢に向き合い、協力して懸命に叶えていきます。
最後、全身の入れ替わりが完了したあと、残されたのは糸雨の体に入った月彦でした。
月彦は糸雨として彼女の分も生きていきます。
パズルのような僕たちは の起承転結
【起】パズルのような僕たちは のあらすじ①
目立たないことをモットーに生きる父子家庭の高校生、谷口月彦は、クラスメイトの藤枝糸雨と同じ美化委員になりました。
美人でアイドル活動も行う糸雨は、月彦に話しかけたいようなそぶりですが、月彦はあえて避けています。
じつは、二人は幼馴染だったのです。
しかし、目立ちたくない月彦はそれを頑なに隠そうとします。
そんなある日、月彦は右手に違和感を覚えます。
麻痺してしまったかのように動かず、意図せずおかしな動きをします。
そのせいで体育の時間に怪我をし、保健室に運ばれますが、同じ状況で糸雨も保健室を訪れたことが気になりました。
後日、病院を受診した月彦は、なぜか糸雨もそこにいることに驚きます。
診察室に通された二人は、秘密裏に「ジグソーパズル症候群」という病名を宣告されます。
それは、身近にいる男女一組の手足が突然入れ替わりはじめ、最後にはどちらかが命を落とすという奇病でした。
政府により徹底的に秘匿されているというこの病気を患った者たちは、「機関」が借りたマンションで最期まで同居することを義務付けられます。
ショックを受け、慌ただしくマンションに移った二人を迎えてくれたのは、世話人というトランスジェンダー(体は男性、心は女性)の立川薫でした。
【承】パズルのような僕たちは のあらすじ②
月彦と糸雨は、症状が軽いうちは極力学校に通いたいという希望を持っていました。
マンションから通うことにしましたが、右手が不自由なので学校生活に支障が出ます。
仕方なく、二人は恋人同士であるということにして、できるだけ一緒に行動するという選択を取ります。
そのため、地味な男子とアイドル美少女というカップルが学校中の話題になってしまいました。
それに不満を示したのが、糸雨に片想いし、親衛隊を自称する体育会系イケメンの杉村です。
杉村は月彦に宣戦布告し、「俺と勝負し、勝ったら二人の交際を認めてやる。
負けたら学校で糸雨に接近するな」という条件を付けられてしまいます。
月彦の体に糸雨の右手というハンデを負って戦わなければなりません。
月彦は窮地に立たされましたが、糸雨がとっさの機転で種目に「卓球」を提案します。
実は、糸雨は卓球が得意だったのです。
月彦の体に糸雨の右手だけが付いているという状態なので、有利であると判断した結果でした。
一週間、二人で息を合わせての練習の日々が始まりました。
二人は意地を示し、勝負に勝ちます。
杉村は泣きながら「糸雨を頼む」と月彦に頭を下げました。
二人はこの勝負を経て、自分たちは運命と戦うのだ、という決意を固めます。
そうすると、死を待つだけという気持ちにはなりません。
次は、糸雨が大切にしているアイドル活動へのピリオドをちゃんと打ちたいという目標が見えてきました。
これ以上体が不自由になる前にと、糸雨は卒業ライブを念願にしていました。
月彦は、今度は自分が糸雨を助けたいと思い、ダンスの練習に励みます。
そして迎えた卒業ライブの最中、よりによって今度は左足が入れ替わってしまいます。
舞台袖で一緒に踊りながら、懸命に持ちこたえる月彦。
ついに転んでしまいそうになる糸雨を、メンバーが支えてくれます。
糸雨はファンからもメンバーからも愛されていたということを知り、月彦の胸は熱くなりました。
【転】パズルのような僕たちは のあらすじ③
卒業ライブをやり遂げた糸雨は、次に月彦の未練を気にしはじめます。
昔、一緒に遊んでいたときの月彦は、もっと溌溂としていたのに、高校生になったらまるで影のようになってしまい、何事も一生懸命にやらなくなったと指摘します。
しかし、これまでの挑戦から、月彦が決して無気力ではなく、きちんと努力すれば達成できるはずの人間であると糸雨は見抜いています。
実は、月彦がそうなったのには原因がありました。
月彦の祖父はこの街で有名な和菓子屋「かささぎ庵」を営んでいました。
そこを手伝う伯父(父の兄)も腕は確かでしたが、跡取りに恵まれませんでした。
そのため、祖父は別な仕事に就いていた父を呼び戻し、無理矢理跡を継がせようとしましたが、父には経験も技量もありません。
それが原因で伯父は店を出て、市内の別な場所に和菓子店「オトシブミ」を開店し、人気を博します。
そちらに職人もついていき、祖父も亡くなったため、残された父は店を閉じます。
父は呼び戻される際、親族のいざこざに巻き込まないためとして、母と離婚していました。
跡取りに期待されていた月彦だけは連れてきましたが、妹も母とともに残され、家族は分断された状態でした。
閉店後も気まずさから元の家に戻れず、慣れないウォーターサーバーの営業職で無理しています。
そんな家族を元に戻したいと、月彦は願っていたのです。
それを知った糸雨も協力してくれ、月彦は両親の結婚記念日にサプライズでお祝いしたいと計画します。
伯父にわけを話すと、ぜひ協力したいと言って、和菓子作りを教えてくれ、店も貸してくれました。
二人は何度も練習を重ね、結婚記念日の七夕に合わせ、織姫と彦星、そして神話に登場するかささぎの和菓子を作りました。
七夕の日、店で顔を合わせた両親は驚きましたが、腹を割って話すことができ、将来的に復縁することを約束します。
月彦は、もう思い残すことはないとホッとしました。
【結】パズルのような僕たちは のあらすじ④
しかし、その直後、ついに右足までもが入れ替わってしまいます。
二人の四肢で自由になるのはもはや左手だけです。
不便を強いられる生活に、ついに糸雨の精神が限界に達します。
大声で泣く糸雨を、「今、君に世界で最も近いところに僕の気持ちはある」と月彦は慰めます。
しかし、糸雨は死と、忘れられていくことが怖いと言います。
もしどちらかが死んだら、残された方は相手を忘れないことを約束します。
しかし、同時に月彦は、自分の本当の願いは糸雨と一緒に生きていくことだったのだと気付きました。
それは忘れていた初恋の気持ちでした。
残された時間がわずかであると知り、二人は遺書を書き、自分たちの実家へ一泊します。
昔よく一緒に来た橋の上で、糸雨は月彦のことがずっと好きだったと明かします。
月彦は、自分の気持ちは手紙に書いてあると打ち明け、糸雨は微笑みました。
そしてついに四肢が完全に入れ替わり、もう動くことのできない二人は穏やかに結末を待ちました。
最後に、竜巻のような感触とともに胴と頭部が入れ替わったとき、月彦は意外なものを見ました。
驚いた顔の自分が正面に座っていたのです。
直後、その自分は倒れ、死んでしまいました。
それを見下ろしていたのは糸雨の体に入った月彦の魂でした。
この入れ替わり現象こそが「ジグソーパズル症候群」の結末であり、政府が秘匿してきた理由でした。
世話人の薫も、実はこの病気の生き残りだったのであり、要所要所で差し込まれる短いモノローグはこの薫のものでした。
月彦は糸雨として生きることになり、自分の葬式に出ます。
やがて大学生になり、誰にも気付かれないまま消えた糸雨の魂を偲びます。
糸雨の実家で遺書を開くと、「好きな人と家庭を持って幸せになりたかった」と書いてあります。
その夢を叶えられるか、月彦にはまだ自信がありませんが、糸雨の分まで生きるしかありません。
遺書を土に埋め、そっと弔いました。
パズルのような僕たちは を読んだ読書感想
2007年に『パークチルドレン』で小学館文庫賞を受賞、2010年には『月のさなぎ』で日本ファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞し、切ないファンタジー小説を得意とする著者の満を持しての新作です。
「僕らは手足と運命を共にする、パートナーだ」という帯に惹かれ読み始めました。
本当は想い合っていたのに疎遠になっていた男女が、病気をきっかけに共に行動することになり、気持ちが通じ合っていくというストーリーは、予想していた以上に切なく、涙が出ました。
これは「青春ファンタジー」を超えた「命の物語」であると思いましたし、自分自身の生き方を振り返り、もっと悔いなく生きたい、周りの人にも優しくしたい、と思える小説でした。
著者の次作も楽しみです。
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