「がらんどう」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|大谷朝子

「がらんどう」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|大谷朝子

著者:大谷朝子 2023年2月に集英社から出版

がらんどうの主要登場人物

平井佐和子(ひらいさわこ)
三十八歳。小さな印刷会社に勤務。アイドルグループ「KI Dash」のファン。物語の語り手である〈わたし〉。

菅沼(すがぬま)
四十二歳。女性。本職はSE。副業で3Dプリンターを使って死んだ犬のフィギュアを作っている。アイドルグループ「KI Dash」のファン。平井佐和子とルームシェアしている。

五十嵐(いがらし)
アイドルグループ「KI Dash」のひとり。

こばっち(こばっち)
アイドルグループ「KI Dash」のひとり。

雅俊(まさとし)
平井佐和子のふたりめのお父さん。佐和子が中学二年のときに家に来た。

がらんどう の簡単なあらすじ

〈わたし〉は小さな印刷会社に勤める四十歳手前の女です。

〈わたし〉は、四十過ぎのSEの菅沼と、マンションでルームシェアして住んでいます。

ふたりとも、男性二人組のアイドルグループのファンであることが縁で知り合ったのです。

ところで〈わたし〉は男性に嫌悪感があり、これまで一度も恋愛感情を持ったことがありません。

にもかかわらず、結婚・出産ということを諦めきれないでいるのです……。

がらんどう の起承転結

【起】がらんどう のあらすじ①

菅沼との同居

リビングで、同居人の菅沼が3Dプリンターを使って、死んだ犬のフィギュアを作っています。

彼女は、本職はSEですが、副業で犬のフィギュアを作っているのです。

愛犬を亡くした飼い主から、けっこう依頼があるのだそうです。

〈わたし〉は仕事に出かけます。

満員電車に乗って行く先は、小さな印刷会社です。

〈わたし〉は経理の仕事をしている古株の社員です。

その日は、恒例の期首飲み会が会議室でありました。

〈わたし〉は気が進まないので無理やり仕事を続けます。

飲み会が終わると、経理の課長の近藤さんから、余った缶チューハイとビールを持って帰るよう勧められました。

近藤さんと雑談するうちに、四か月前から〈わたし〉に同居人がいる、という話になります。

近藤さんは色っぽい話と勘違いしましたが、そんなんじゃありません。

昨年の秋、少し年上の友人である菅沼から、ルームシェアを持ちかけられ、いまよりも良い部屋に住むために、それをオーケーしたのでした。

退社した〈わたし〉は、途中寄ったコンビニでコピーをとり、菅沼から頼まれていたトイレットペーパーを買って帰りました。

土産に持って帰った缶チューハイとビールを飲みながら、菅沼とささやかな夕食を始めます。

【承】がらんどう のあらすじ②

菅沼の傷心

お風呂からあがると、リビングを片付け、菅沼といっしょにDVDを鑑賞しました。

二人組のアイドルグループ「KI Dash」のコンサート映像です。

〈わたし〉は「KI Dash」の五十嵐くんのファンであり、菅沼はこばっちの熱烈なファンなのです。

彼らは二十年以上もアイドルをやっていて、いまの若手アイドルたちに負けないよう、ダンスにも磨きをかけています。

菅沼と出会ったのは六年前です。

当時、〈わたし〉が勤める印刷会社に事務作業のためのシステムを導入することになり、やってきたシステム会社の社員のひとりが菅沼だったのです。

その後、彼女が〈わたし〉と同じく「KI Dash」のファンであるとわかり、親しくなったのでした。

彼女と同居するについては悩みました。

それは結婚を諦めるという意味合いがあったからです。

とはいえ、これまで〈わたし〉は男性に恋愛感情をいだいたことがないのですが。

また、菅沼は両親の不仲から、絶対に結婚しないときめている女性です。

さて、その晩、DVDを見ながら寝落ちした〈わたし〉は、翌朝、ショックを受けている菅沼と対面することになります。

こばっちが、十五歳年下のグラビアアイドルと結婚したというのです。

傷心の菅沼をなぐさめるため、〈わたし〉は彼女といっしょに熱海へ出かけていきました。

意外に若い男女もいます。

海が見たい、という菅沼の要望で行ってみました。

熱海だからさびれた海だろうと思っていたら、予想に反して、海は海水浴客でいっぱいでした。

水着姿の若い女性の身体を見ると、その「女」である感じが〈わたし〉に嫌悪感を呼び起こします。

〈わたし〉は菅沼といっしょにソフトクリームを食べながら、空虚な気分になっていました。

【転】がらんどう のあらすじ③

マッチングアプリ

予約しておいた古めかしい宿に泊まりました。

大浴場で女性の裸を見ても、昼に水着の女性を見た時のようななまなましい感じはしません。

菅沼の身体はガリガリで、〈わたし〉の身体は下半身にたっぷりと贅肉がついています。

夜はバーに行ってみました。

ふたりで「KI Dash」のことをおしゃべりしていたら、となりの中年男が話に割りこんできました。

男のいやらしい目が、自分を「女」として見ているようで、とても嫌でした。

翌日、ふたりとも会社に仮病を使って欠勤の連絡をし、東京へ帰りました。

それからしばらくして、菅沼はフィギュアの発送でパニックになっていました。

そんなとき、〈わたし〉の母から電話がありました。

近況を話すうち、従兄弟の亜紀ちゃんが、不妊治療の末に妊娠した、ということを聞きます。

母は〈わたし〉をせかしてそう言ったのではありませんが、〈わたし〉の心はざわめきます。

健診台の上で両足を開いたときのことが思い出されます。

〈わたし〉はベッドに横たわり、ぐったりと力をぬいて、「死んだふり」をするのでした。

さて一方で、〈わたし〉はマッチングアプリでひとりの男性とときどきメールをやりとりしています。

メールのやりとりならばできるのだ、と自分に言い聞かせます。

そのやりとりが何度か続いて、そろそろ来るかな、と思ったところで、案の定、男性から食事の誘いがきました。

ドキリとしました。

〈わたし〉が中学のときに母が再婚したさえない男、雅俊さんのことが思い出されます。

〈わたし〉はほとんど捨て鉢になって、会いたい旨の返信をしたのでした。

【結】がらんどう のあらすじ④

〈わたし〉の赤ちゃん

マッチングアプリで知り合った男、田辺祐樹と池袋で待ち合わせて、食事しました。

外見はあまりよくありませんが、けっこうおしゃべりで、気づまりということはありませんでした。

ところが、一時間ほどすると、田辺は突然〈わたし〉の転職を応援すると言い出し、自分の師に会ってほしいと言うのです。

田辺と別れた〈わたし〉は、マルチだからうまくいかなかったのだ、と思い込もうとして、気がつきます。

たとえ田辺がマルチでなくて、やさしい人だったとしても、男性に嫌悪感を覚える〈わたし〉では、うまくいかなかっただろう、これは自分自身の問題なのだ、と。

マンションに帰った〈わたし〉は、菅沼に今日の出来事を話し、ついでに、〈わたし〉が三十五歳から卵子を凍結保存していることを打ち明けます。

毎年一回、保存を更新するかどうかの問い合わせが来て、いまどうするか迷っていることも話したのでした。

やがて季節が行き、涼しくなりました。

このところ菅沼は週末に外泊します。

問い詰めると、熱海で話しかけてきた男と、不倫関係にあるといいます。

〈わたし〉はひどい嫌悪感を覚えました。

それからしばらくして、菅沼に3Dプリンターで作ってほしいものはないかと訊かれます。

〈わたし〉は赤ちゃんを作ってほしいとリクエストしました。

少しすると、赤ちゃんのフィギュアの失敗作がお焚き上げの箱に入れられていました。

〈わたし〉はその出来損ないのフィギュアで満足します。

自分が子供をほしいという気持ちはせいぜいその程度なのでした。

〈わたし〉は卵子の保存更新をやめることにします。

そして、人間になれなかった〈わたし〉の卵子が、失敗した菅沼の失敗したフィギュアとともに、天国へいってほしいと願うのでした。

がらんどう を読んだ読書感想

第46回すばる文学賞受賞作です。

ストーリー的にはとても静かで、波乱万丈の物語からは遠い印象でした。

途中、私は勘違いしてしまいました。

もしかすると主人公は義理の父親から性的虐待を受けていて、そのために男性に対する嫌悪感が生じたのではないか、途中で出てくる産婦人科の寝室のイメージは、もしかしたら義理の父親の子を妊娠したためにそれを中絶したときの記憶ではないか。

そんなふうに予想しながら読みすすんだのです。

予想ははずれました。

そんなゲスな展開はなく、もっと静かに、静的に物語は進行します。

ただただ主人公の心の空白が描かれ、やるせない気持ちにさせられます。

きっと女性の読者にはすこく共感を呼ぶのではないでしょうか。

また男性読者の場合は、共感、とまではいきませんが、女性の「なんとはなしの思い」を感じとれるのではないでしょうか。

読んでみて、けっこう尾を引く作品でした。

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