著者:片瀬チヲル 2022年12月に講談社から出版
カプチーノ・コーストの主要登場人物
森長早柚(もりながさゆ)
二十六歳。二か月間休職している。
野川未来(のがわみくる)
浜でゴミ拾いをする女性。早柚はカメ姉さんと呼ぶ。化粧品会社で働いている。
長澤灯里(ながさわあかり)
早柚の高校以来の友人。広告関係の仕事をしている。
日置(ひおき)
柔道着を着て、「ありがとう」と言いながら、浜でゴミ拾いをしている男性。
大西(おおにし)
早柚と同じ会社で働いている男性。
カプチーノ・コースト の簡単なあらすじ
森長早柚は二か月間休職しています。
会社でいろいろあったのです。
彼女はふとしたきっかけから、浜に落ちているゴミを拾う活動を始めます。
同じくピーチクリーンをしている人たちと知り合いになり、少しは気が晴れてきます。
しかし、休職期間が終わって復職したとき、休職の原因となった同僚から、思いもかけない言葉を投げつけられたのでした。
カプチーノ・コースト の起承転結
【起】カプチーノ・コースト のあらすじ①
森長早柚は二か月間休職していて、残りは一か月です。
海辺の魚屋でアジフライを食べながら、魚屋のお兄さんと雑談します。
今朝、サメの子が打ちあがったのを、お兄さんはこっそりと逃がしてやったそうです。
早柚は浜に出ました。
五月だというのに、日差しが強いです。
サメの子はこのあたりに打ちあがったのかも、と想像するうちに、腕時計を海に落としてしまいました。
探して拾あげたものは、服のボタンや王冠など、どれもゴミでした。
ゴミをいくつか持って、またあの魚屋に寄ると、海のゴミは市役所へ持っていくとよい、と教えてくれました。
市役所では、専用の青いゴミ袋をくれ、軍手を使ったらよい、とアドバイスされました。
その夜、早柚は、サメの子にまたがって市街地を飛ぶ夢を見たのでした。
さて、翌日から、早柚は海辺のゴミ拾いを日課にします。
いろんな人に会いました。
奥さんが凪乞いだったという、ダンスを踊るおじさん。
「やりやすいよ」とトングをくれたゴミ拾いの女性。
かと思えば、「そんなの何になるんだ」とけなす男性もいました。
再び市役所にゴミを持っていくと、この間とは違う人が、そっけない態度で、海岸にそれ専用のゴミ置き場があることを教えてくれました。
【承】カプチーノ・コースト のあらすじ②
ある日、いつものように早柚が浜でゴミ拾いをしていると、頭にバンダナを巻いた男性から声をかけられました。
早柚の使っているトングから、ピーチクリーンしている仲間だと判断して、声をかけたようです。
男に誘われて、ピーチコーミングの仲間のところへ連れていかれました。
焚火をかこんで、浜で拾ったものを見せ合い、話をします。
彼らのうちのひとりである女性(早柚は後にこの女性をカメ姉さんと呼びます。
便宜上、これより彼女をカメ姉さんと呼びます)が、ウミガメの鱗板を見せながら、自分の小学校のころの話をしました。
あるとき、カメ姉さんがクラスの男子にからかわれたとき、ひとりだけ、かばってくれた女子がいました。
その女子が、飼っていたカメを捨てようとしたので、カメ姉さんはそれをもらって自分で飼うことにします。
ところが三年後、元の飼い主である女子が、そのカメに、好きだった男子の名前をつけていたことがわかります。
その男子とは、カメ姉さんをからかった男子だったのでした。
ピーチコーミング仲間のそんな話を聞いた数日後、早柚は浜でゴミ拾いをしていて、カメ姉さんと再会します。
カメ姉さんは早柚に、ゴミ拾いのコツについて、いろいろと教えてくれるのでした。
また、別のある日のこと、早柚の友人の灯里が突然訪ねてきました。
休職している早柚のことを心配して来てくれたのでした。
早柚が海に落とした腕時計は、昔、灯里といっしょに、初めての給料で買ったものでした。
【転】カプチーノ・コースト のあらすじ③
早柚と灯里はゴミ拾いを続けます。
灯里は、早柚が休職したのは、会社でのパワハラが原因だと知っています。
灯里自身も、自分の勤め先でパワハラに会いましたが、強い精神力で乗り越えてきたのです。
灯里は、早柚に裁判に訴えることを勧めますが、早柚は乗り気ではありません。
さて、ふたりがゴミ拾いをするうちに、浜に打ち上げられた網の塊をどうにかしようとしているゴミ仲間に出くわしました。
早柚と灯里が手伝いに入ると、そこへダンスのおじさんがパン切包丁を持ってきました。
それで網を細分化し、丘に引き上げることに成功したのでした。
また別の日、NPO法人が企画した、ピーチクリーンイベントが浜で開かれました。
早柚もそこへ行ってみましたが、肌が合いません。
やはりひとりでコツコツと無心にゴミを拾うのが性に合っています。
ゴミを拾っていると、柔道着を着たピーチクリーナーの日置と出会いました。
日置に誘われ、仲間のところへつれていかれましたが、皆、ゴミ拾い中のようでした。
そこで日置といっしょにゴミ拾いに出ると、岩場で助けを求める声がします。
カメ姉さんが踏みつけたエイに刺されて、けがをしていました。
それを、日置の仲間たちが介護しています。
すぐにタクシーを呼び、早柚がつきそって、カメ姉さんを病院につれていったのでした。
【結】カプチーノ・コースト のあらすじ④
病院からの帰り、早柚は、カメ姉さんのおごりで蕎麦を食べながら、おしゃべりしました。
カメ姉さんが言うには、泡でけがをすることもあるそうです。
波の花という、カプチーノ・コーストというのがあって、見た目はきれいだけれども、プランクトンや汚染物質が含まれていて、身体によくないそうです。
海はそんなにきれいではないのです。
そうして、それからもいろいろあり、気がついてみると、復帰まで二日となりました。
最後のゴミ拾いになるかもしれない、と思いながら浜に出てみると、知り合いがバーベキューをしているのに出くわしました。
そのなかの数人がゴミ拾いを手伝ってくれたのですが、自分たちのゴミまで出してきて、それに抗議できない自分にモヤモヤするのでした。
さて、いよいよ出社する日になりました。
会社へ行くと、上司から文章作成の指示メールが来ていました。
早柚の仕事は、ネットで検索して文章をリライトすることです。
誰の役にも立たないゴミを作っている気分です。
仕事が一段落するのを待って、大西という後輩から声をかけられ、「ゴタゴタに巻き込まないでくれ」と言われました。
元はと言えば、大西が上司からパワハラを受けていたのを、早柚が告発したのです。
そのせいで早柚は休職するはめになったのです。
でも大西にとって、そんな告発は迷惑でしかなかったのです。
早柚は、お昼休みに海に出てみました。
カメ姉さんがいて、ウミガメにからまったビニルひもを外していました。
ようやく外し終わると、ウミガメは海へと戻っていったのでした。
カプチーノ・コースト を読んだ読書感想
読み終わると、なんとも切ない後味が残りました。
主人公の早柚が休職するにいたった理由は、小説の全体を使って少しずつ明らかになっていきます。
その過程で、彼女の精神がいかに傷ついているかも、じっくりと描かれます。
その傷が、休職中のゴミ拾いによって、少しは癒されていきます。
ところが、復職すると、重い現実が彼女の前に突き付けられるのです。
なかなか、エンタメ小説のように、すっきりしたハッピーエンドにはならないのです。
それでも、休職中のゴミ拾いは、まったくの無駄ではなかったと思います。
そこにほんのわずかな光明が差しこんでいます。
人生とは、そのわずかな明かりを頼りに歩き続けるものだのだ、と訴えているかのような終わり方でした。
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