著者:高山羽根子 2014年11月に東京創元社から出版
うどんキツネつきのの主要登場人物
高梨和江(たかなしかずえ)
ヒロイン。地元の高校から大学に進学。自分のやりたいことを大切にする。
高梨美佐(たかなしみさ)
和江の上の妹。安定志向ではやく家庭を持ちたい。
高梨洋子(たかなしようこ)
和江の下の妹。分け隔てなく接してもめ事をまとめるのが得意。
うどん(うどん)
高梨家のペットで外見的には犬。体が丈夫で気性がはげしい。
ハツ乃(はつの)
和江たちの祖母。古今東西の怪談に詳しい。
うどんキツネつきの の簡単なあらすじ
高梨一家の和江・美佐姉妹がある日拾ってきたのは1匹の犬らしき生き物、「うどん」と名付けて末の妹の洋子も加わって世話をします。
和江は恋愛よりも仕事とキャリアを優先、美佐は早々とパートナーと出会って結婚生活。
ふたりの姉がそれぞれの人生を歩んでいく中で、洋子は相変わらず実家で長生きをし続けているうどんの面倒を見ていくのでした。
うどんキツネつきの の起承転結
【起】うどんキツネつきの のあらすじ①
最寄りの公立高校に徒歩通学をしている高梨和江、私立校に自転車で通っているひとつ年下の美佐。
たまたまテストの最終日が同じだったために待ち合わせて帰宅すると、晴れた空に銀玉の入ったドル箱を両手に持つゴリラが笑っていました。
幹線道路沿いのビルに設置されたパチンコ店のマスコットですが、泣き声が聞こえてきたために屋上まで様子を見にいきます。
発泡スチロールの箱を開けてみると赤黒くぬれた肉塊がピクリと動き、ヘソの緒がついているので生まれたてでしょう。
そっとタオルにくるんで持って帰りましたが母親は猛反対、生き物は何の役にも立たないくせに手間だけはかかるとのこと。
中学生になったばかりの洋子には何かとあまい母、何とかお許しが出たためにペットショップの主人に相談してみますが何を食べるのか分かりません。
300グラム入りの小さい缶ミルクが800円、1キログラムのが1600円。
とりあえずは大きいお徳用の方を購入、店主によると人間に飼われている限りは意外と死なないそうです。
【承】うどんキツネつきの のあらすじ②
虫のように小さかった生き物はミルクを飲ませていると、いつの間にか犬のようなシルエットを形成していきました。
3時間ごとに大きな声で泣きさけぶためにうるさくて仕方がありませんが、とりあえずは名前だけでも決めておくことに。
耳の先だけ垂れているところ、顔の真ん中にある白い線がずれているところ。
3姉妹はあらかじめ打ち合わせをしていた訳でもないのに、同じタイミングで口を開いて「うどん」とハモります。
そのうどんの尻尾をリビングでダンスの練習をしていた母が踏みつけてしまい、慌てて駆け込んだ先は商店街にある「斉藤動物病院」です。
診察のあいだは少しだけけいれんを起こしていましたが、おそろしく骨が太いようで特に問題はないとのこと。
斉藤先生はうどんの外見をからかっていましたが、和江からするとヒゲをはやしたこの獣医師のほうがよっぽどうさん臭いです。
気になるのは興奮すると手がつけられないほど暴れること、母のぬくもりを知らないために今後も発作的に爆発が起きるでしょう。
【転】うどんキツネつきの のあらすじ③
同じゼミの研究生と付き合い始めた和江でしたが、演劇の脚本を書くことにキャンパスライフのほとんどを費やしているようです。
1年浪人して3回生を2回繰り返している彼に見切りをつけて、就職が決まった職場から電車ですぐのワンルームアパートを借りることに。
スーパーで買ってきたのは1パック8匹入りのサワガニ、半分は唐揚げにして残りの半分をペットボトルの中で飼い始めます。
恋人の陽一と同せい生活をスタートしたのは美佐、母はあまりいい顔をしません。
ひとつ屋根の下でお互いのフィーリングが合うのかを試すために、半年後には無事に籍を入れるために。
彼氏もいなく暇だという洋子があいだに入って、月に1回程度のペースで様子を見にいくことでようやく落ち着きました。
うどんの成長過程は洋子が携帯電話で記録しているために、離れているふたりの姉にもしっかりと届いています。
フラッシュが苦手でカメラを向けると威嚇してくるうどん、年々写真のデータは増えていきますがいずれも怒ったような顔です。
【結】うどんキツネつきの のあらすじ④
古くから語り継がれてきた幽霊の話、遠い国から伝わってきた妖怪の話、実際にいた残忍な人殺しの話… 3人の孫を怖がらせるのが大好きだったハツ乃、特に和江は幼い頃にきいたキツネがついた女の人の話がショックでした。
いまだに近所のお稲荷さんの前を通るだけで緊張してしまいますが、そんな最中にハツ乃の訃報が舞い込んできます。
越後湯沢から富山へ向かう「はくたか」へ、ターミナル駅からバスに乗り換え、路面電車に乗ると古い鉄骨家屋が。
義理の祖母が危篤だという美佐は嫁ぎ先を離れられないために、お線香をあげるのは和江と美佐のふたりです。
転職をしたばかりの和江も忌引き休暇が取得できなかったために、日帰りで東京に引き返さなければなりません。
洋子が確かに3匹のキツネを見たというのは、オフィスビルが立ち並んでいる駅前交差点のど真ん中。
雪が降りしきる中で姉妹のように寄り添うキツネたちを、和江はヌクヌクとした保護の下で15歳になったうどんの姿と重ねるのでした。
うどんキツネつきの を読んだ読書感想
巨大なゴリラが宙を舞うオープニングからしてかなりのインパクトがありましたが、正体の知れない小動物に迷わず救出する女子高校生も相当に肝が座っています。
「役に立たない」と文句をいう、高梨家のお母さんの意見も御もっともです。
その一方では「番犬」という言葉自体か死語になりつつあり、今の時代にネズミ退治のために猫を飼う家庭も存在しないでしょう。
産まれてすぐに予防接種、お年頃になったら避妊・去勢手術、年を取ってきたら介護、ペット専用墓地… 都会で人間と動物が暮らすには何かとハードルが高く、最期まで責任をもって小さな命を引き受ける覚悟について考えさせられました。
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