著者:ショーニン・マグワイア 2018年12月に株式会社東京創元社から出版
トランクの中に行った双子の主要登場人物
ジャクリーン・ウォルコット(じゃくりーん・うぉるこっと)
双子の姉。通称ジャック。母親の希望通り可愛らしく成長していたがその役割にうんざりしていた。
ジリアン・ウォルコット(じりあん・うぉるこっと)
双子の妹。通称ジル。父親の希望通り活発に成長していたがその役割にうんざりしていた。
ブリーク博士(ぶりーくはかせ)
荒野のマッドサイエンティスト。ジャック弟子にする。
ご主人さま(ごしゅじんさま)
荒野のヴァンパイア。ジルを娘にしようとする。
トランクの中に行った双子 の簡単なあらすじ
双子のジャックとジルはそれぞれ両親に望まれた役割に飽き飽きしていた。
ある日、空き部屋のトランクの中に階段を発見したふたりは奇怪な世界へ降り立つ。
その世界でふたりは自分の役割を選んだ。
ジャックはブリーク博士と、ジルはご主人さまと新しい生活を始める。
12歳だったふたりが18歳になる頃、その生活はジルが犯した殺人によって終わった。
元の家に戻されたふたりだったが、そこには幼い息子と暮らす両親の姿があった。
トランクの中に行った双子 の起承転結
【起】トランクの中に行った双子 のあらすじ①
弁護士として働くチェスター・ウォルコットは、自分の仕事場でひとり静かに働くことを楽しみ、日課通りの毎日を生きることを好んでいました。
妻のセリーナは家や庭を清潔に保ち、上品に暮らすことが好きでした。
ふたりはそれぞれの世界での社交に有利になると考えて子どもを生みます。
一卵性双生児の女の子はジャクリーン(ジャック)とジリアン(ジル)と名付けられました。
それまで静かに暮らしてきた夫婦にとって子育ては思い通りにいかないことばかりです。
疲れ果てたふたりはチェスターの母、ルイーズにすっかり育児を任せてしまいます。
五年後、ジャックは母の希望に従い、お姫さまのような女の子、ジルは父の希望に従い、少年のような女の子として育てられていました。
両親は娘たちもだいぶ手がかからなくなったからとルイーズを追い出してしまいます。
かつてルイーズが暮らしていた部屋は双子にとって心の拠り所になりました。
そこには祖母がふたりのための服やおもちゃを詰め込んだトランクが残されていました。
その場所でだけ、ふたりは両親に負わされた役割から逃れることができたのです。
ところがある日、そのトランクの中にまがりくねった木の階段が下へ下へとのびていました。
ふたりは一緒に階段を下り、奇怪な荒野へ降り立ちました。
【承】トランクの中に行った双子 のあらすじ②
荒野をさまようふたりは黒髪にオレンジの瞳、真っ赤な唇のマントの男に保護されます。
ヴァンパイアである彼はふたりに食事を与え、ブリーク博士を自分の城へ呼び出しました。
ジルはマントの男を信用していますが、ジャックは彼が信じられません。
城のメイド、メアリーから「ブリーク博士は拾い子を助けられるときは助けてくれる」と教えられたジャックはブリーク博士に頼み、彼の弟子として城と村の外側にある風車小屋へついて行きました。
ヴァンパイアの下でお人形のように扱われるのは考えるだけでぞっとしたのです。
風車小屋で質素ですが丈夫な服と空き部屋を与えられ、錫のたらいに井戸から汲んだ水を沸かして体を洗い、身なりを整えます。
一方、城に残ったジルはバラとバニラの香りがする風呂に入り、メアリーに手伝ってもらいながらドレスに着替えました。
それは少年のように育てられていた彼女が密かに憧れていたものでした。
こうしてそれぞれ自分の望む役割を選択した双子は、互いにまったく違う新しい生活を始めることになったのです。
【転】トランクの中に行った双子 のあらすじ③
ブリーク博士は蘇生術を持っていました。
博士の指示に従い、ジャックが助けた娘、アレクシスは彼女にとって大切な恋人になりました。
ジャックにとってその恋は「二度と生まれた世界には帰りたくない」と考えるほどでした。
一方、ジルも城での優雅な暮らしを満喫していました。
そしてヴァンパイアであるご主人さまの影響を受け、日に日に人間らしさを失っていきました。
しかし本物のヴァンパイアになるには18歳になるまで待たなくてはなりません。
拾い子が18歳になるまでは元の世界に戻る可能性があるからです。
すぐヴァンパイアになれないことにジルはイライラしていました。
ある日、ジャックはブリーク博士のお使いに出る道すがら、アレクシスを家まで送っていきました。
彼女の家は村の宿屋で、ジャックは夕飯をご馳走になります。
そこへ突然ジルが現れました。
ジルは自分の姉で、この世界で唯一の肉親であるジャックがご主人さまに背き、自分と正反対の暮らしを楽しんでいることが許せませんでした。
村人たちはジルを恐れ、ジャックのことも見ようとはしませんでした。
【結】トランクの中に行った双子 のあらすじ④
17歳になったジャックは18歳の誕生日をアレクシスと共に指折り数えて待っていました。
いつかは自分の庭と風車小屋を手に入れて家計を担っていこうと、永遠に暮らすこの世界での将来について考えていたのです。
ジルのほうも18歳の誕生日を心待ちにしていました。
一刻も早くヴァンパイアになりたいのに、18歳にならなければ叶わない…それはかつてヴァンパイアになった後に元の世界に戻った例があるせいだとメアリーは言います。
メアリーはヴァンパイアの恐ろしさをよく知っていました。
かつて拾い子だったメアリーは、自らがその恐ろしい存在になることを拒んだためにメイドとして働いているのです。
しかし何も知らないジルはヴァンパイアに夢だけを見ているのでした。
その日はふたりが荒野に来た日でした。
「ご主人さまは祝宴を開くだろう。
その宴をもっと素晴らしいものにするために、自分がいかに主人の娘にふさわしいか証明しよう。
姉の暮らす風車小屋でも祝いの場が設けられるはず。
あんな小屋はレディの居場所ではない。
まっとうではない。
自分なら、自分がヴァンパイアにふさわしく無慈悲であることを証明し、姉を正しい道に引き戻すこともできる」ジルはそう考えました。
ジルはアレクシスを殺しました。
ご主人さまは彼女を見放しました。
ヴァンパイアは村の脅威でありながら、村を守ってもいたのです。
ジルを殺そうと暴徒と化した村人たち。
ジャックはブリーク博士の手引きで、ジルを連れ元の世界に戻ります。
なつかしい家では、幼い息子と両親が食卓を囲んでいるところでした。
ふたりは互いにしがみついて涙を流したのでした。
トランクの中に行った双子 を読んだ読書感想
この小説はヒューゴー、ネビュラ、ローカス賞の三賞を受賞したファンタジー三部作の第二作目に当たります。
一作目『不思議の国の少女たち』の前日譚であり、前作でもキーキャラクターだった双子が主人公です。
異世界が舞台の物語でありながら、双子のジレンマや心の動きなど共感できるところがたくさんあり、とても引き込まれます。
ジャックがジルのとばっちりを食らったようなエンディングではありますが、それも姉妹の容易には切れない関係性を表しているような気がします。
面白く、あっという間に読めてしまうので、洋書に抵抗のある人にもおすすめです。
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