著者:足立紳 2016年2月に幻冬舎から出版
乳房に蚊の主要登場人物
柳田豪太(やなぎだごうた)
主人公。シナリオライターとして煮詰まっている。家事や子育てには積極的。
柳田チカ(やなぎだ ちか)
豪太の妻。平日はフルタイムで働き土日は遅くまで寝ている。年齢に負けずに肉体美を保つ。
柳田アキ(やなぎだあき)
豪太の娘。保育園に通っていてマイブームはプリキュア。
代々木周一郎(よよぎしゅういちろう)
豪太の仕事仲間。遣り手の映画プロデューサー。
由美(ゆみ)
チカの親友。おっとりとして誰にでも寛容。
乳房に蚊 の簡単なあらすじ
脚本の仕事でもこれといったヒットに恵まれずに、結婚生活でもすっかり冷えきってしまった柳田豪太。
四国旅行を決行したのは転がり込んできたチャンスを生かすためでもあり、妻のチカを見返してやろうという魂胆もあります。
相変わらずアイデアが生まれることもなくオファーが増える予感もありませんが、少しずつ夫婦の距離感は縮まっていくのでした。
乳房に蚊 の起承転結
【起】乳房に蚊 のあらすじ①
結婚10周年を迎えた柳田豪太・チカでしたが、ここ3カ月ほどは肌の触れあいがありませんでした。
ジュニアオリンピックに出場しただけあって172センチと大柄、今年37歳になるもののハリと艶を失っていないGカップ。
日曜日の早朝からテレビにかじりついて夢中でアニメを見てみるのは、5年前に授かった長女のアキです。
このチャンスを逃すと来週まで我慢するハメになるために、ダブルの敷き布団にくるまって背中を向けているチカにそっと手を伸ばしてみます。
速攻でわき腹に肘鉄を食らわされてしまい、おまけに顔面には裏拳が飛んできましたが文句は言えません。
大学時代にはシナリオコンクールで佳作に入ったものの去年の年収は35万円ほどの豪太、クレジットカードのコールセンターで契約社員として時給1400円を稼いでいるチカ。
最近では掃除も洗濯も率先して引き受けておいしい手料理でご機嫌をうかがっている豪太でしたが、チカとのあいだにはまだまだ乗りこえなければならないハードルがあります。
【承】乳房に蚊 のあらすじ②
製作会社の代々木周一郎から着信があったために折り返すと、練馬駅前の喫茶店「エベレスト」まで来いとのこと。
以前に女子高校生がうどん職人を目指すというプロットを豪太は提案していましたが、お金を出してくれるプロダクションが見つかったそうです。
ロケハンと家族旅行を兼ねて豪太たちが向かう先は香川県、チカも少しは開放的な気持ちになるでしょう。
新幹線ではなく青春18きっぷを使っての鈍行、食事は老舗の名店ではなく全国チェーン店、宿泊は旅館ではなくビジネスホテルのシングルルーム… とにかく無駄なお金は一銭も出したくないチカ、日常から離れても財布のヒモが緩むような気配はありません。
豪太は運転免許を持っていないためにレンタカーのハンドルを握るのはチカ、口下手な豪太の代わってインタビューをするのもチカ。
凄まじいスピードでうどんを打つ女子高生を2日目には見つけましたが、すでに大手の配給会社に先を越されていて来月にはクランクインを控えています。
旅の目的があっけなく失われてしまったために、チカの機嫌はますます悪くなってしまいました。
【転】乳房に蚊 のあらすじ③
3日目に高松駅からフェリー乗り場で向かうのは小豆島、ここにはチカと同い年で1番の友だちである由美に会いに行く予定です。
豪太とも同じ映画研究部の先輩・後輩といった間柄で、彼女が後押ししてくれなければふたりはとっくに別れていたでしょう。
オリーブのマリネにワイナリーの果実酒、阿波尾鶏の唐揚げに焼き鳥。
特産品を買い込んでいるうちに少しずつ表情が晴れやかになっていくチカ、由美とは積もる話があるということで1日豪太がアキの面倒を見ることに。
由美の家の近所には尾崎放哉記念館が、豪太と同じく鳥取県出身の俳人です。
これもまた何かの縁で、アキがトイレに行きたいと言い出したこともあり立ち寄ってみました。
小学校の国語の授業では尾崎放哉の俳句を何個も暗記させられましたが、今になって覚えているのは「すばらしい、乳房だ蚊が居る」の1句だけ。
小学生にはいささか刺激が強すぎるこの句の意味は習ったはずなのに思い出せず、館内に解説文でもないかと探し回っていると由美たちと合流しました。
【結】乳房に蚊 のあらすじ④
夫は一流ホテルマン、義理の両親に建ててもらった新居は洋風の一軒家、同居も家業の手伝いも求められていません。
好条件でこの地に嫁いできた由美でしたが、ただひとつのお悩みはなかなか子どもができないこと。
日中はこの広々とした家の中でひとりでいるという由美、アキのことをずっと膝の上に置いていてかわいくて堪らないのでしょう。
CMディレクターとして売れている細川、海外の映画祭で監督賞に輝いた前田、人気のお笑いタレントの主演作の台本を書くことになった臼井… 映画サークルの仲間たちの近況報告にちょっぴり引け目を感じてしまう豪太、そんな豪太の才能を今でも信じて応援しているという由美。
泊まってもいいというお誘いを遠慮してこんぴらさんにお参りに、アキを真ん中にして豪太とチカは手をつないで歩き出します。
最終日を明日に控えた4日目、少し奮発してウィークリー・マンションを改装したホテルに1泊です。
運転に疲れたのか早々とベッドに横になったチカ、浴衣が乱れてあらわになったのは相変わらず見事なバスト。
胸の上に2匹の蚊が止まりそうになっていたために、豪太は備え付けの蚊取り線香にそっと火をつけてあげるのでした。
乳房に蚊 を読んだ読書感想
けん怠期の真っただ中に突入したカップルの不平や不満、お互いに抱えているモヤモヤが赤裸々に描かれていました。
結婚・家庭に対する男女の意識の違いについても、世相を反映させながらリアルに映し出されているために共感できるでしょう。
筆1本で身を立てることを諦めきれない主人公の柳田豪太は、何かにつけて「できない」「やりたくない」を連発するネガティブ思考。
そんなダメダメな夫を見捨てることもなく世話を焼くチカと、無邪気に振る舞う愛娘のアキには癒やされました。
旅先で出会う風景や訪れる名所も美しく、鳥取を代表する文士のゆかりの地が瀬戸内海にあるのも渋いですね。
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