著者:樋口明雄 2020年11月に徳間文庫から出版
南アルプス山岳救助隊K-9 風の渓の主要登場人物
星崎夏実(ほしざきなつみ)
本作の主人公。山梨県南アルプス署地域課山岳救助隊の一員。北岳中腹にある白根御池小屋に他の隊員と共に駐在している。救助犬のボーダーコリー、メイのハンド ラー。
神崎静奈(かんざきしずな)
星崎夏実の同僚。救助犬のジャーマンシェパード、バロンのハンドラー。空手の名手。
加賀美淑子(かがみよしこ)
北岳両股小屋の管理人。70歳。通称「両股のおねえさん」。
桜井和馬(さくらいかずま)
サイバー犯罪の常習者。アイドルグループ「ANGELS」の安西友梨香のファン。
中江悠人(なかえゆうと)
引きこもりの少年。不仲の両親に疎まれ、伯母と共に北岳を訪れる。
安西友梨香(あんざいゆりか)
アイドルグループ「ANGELS」のリードボーカル。テレビ番組の企画で北岳登頂にチャレンジする。
風の渓 の簡単なあらすじ
人気アイドルグループ「ANGELS」のボーカル、安西友梨香がTV番組の企画で北岳にのぼることになりました。
南アルプス山岳救助隊員の星野夏実は、番組の収録を見つめる登山客の一人に違和感を覚えます。
その頃、以前北岳で遭難し救助隊に助けられた少年、悠人が両股小屋に預けられることになります。
彼は父親から命を狙われていました。
風の渓 の起承転結
【起】風の渓 のあらすじ①
親に恵まれない少年、悠人。
本格的な登山シーズンを間近に控えた6月、北岳の中腹にある白根御池小屋に隣接する夏山警備派出所に駐在する山岳救助隊に救助要請が入りました。
要救助者は伯母と一緒に登山に訪れていた中江悠人という少年でした。
無事に救助されても無表情で返事もしない悠人。
怪我をした伯母はそのまま病院に搬送され、悠人は救助隊員の深町が自宅まで送り届けます。
悠人を出迎えた母親は、深町に礼をいうこともなく「あの子はもう二度と山には行かせない」と言い切ります。
深町は入院していた悠人の叔母から、彼の家庭の事情を聞きます。
悠人の母親が彼を連れて再婚した相手は表向きは金融業ですが、実は暴力団の一員で、借金の強引な取立てや脅迫をしていました。
母親からも面倒を見てもらえず、学校にも行かずに引きこもってしまった悠人を心配した伯母が、北岳に連れてきたのでした。
その後、悠人の母親は再婚相手からの家庭内暴力で入院してしまいます。
義父と二人きりになる状況を避けるため、悠人は夏の間、北岳で生活することになりました。
その事情を夏実と静奈から聞いた両股小屋管理人の加賀美淑子は彼を自分の小屋で預かることにしました。
【承】風の渓 のあらすじ②
もう一人の引きこもりの少年。
桜井和馬は母親と二人暮らしをしています。
彼はいわゆる「引きこもり」ですが実はネットハッカーで、企業から違法に引き出した機密情報を依頼者に売り、大金を稼いでいました。
そんな和馬はアイドルグループ「ANGELS」のリードボーカル、安西友梨香の大ファンでもあります。
和馬はハッキングの技術を生かして友梨香の所属事務所のサイトに侵入し、彼女のスケジュールや未公開の映像を閲覧して楽しんでいました。
友梨香は最近「山ガール」としても売り出し中で、番組の企画で北岳登頂にチャレンジすることになります。
それを知った和馬は友梨香と一緒に北岳に登る計画を立てます。
山用品を買いに行ったアウトドアショップで、和馬は折り畳み式のナイフも手に入れます。
そして北岳登頂に向けてトレーニングを始めます。
予備登山として雲取山に登りますが途中で登頂をあきらめ引き返します。
そんなとき、和馬の犯罪に警察の捜査の手が伸びてきます。
家宅捜索にやってきた刑事の一人をナイフで刺し、和馬は逃走、友梨香がいる北岳へと向かいます。
【転】風の渓 のあらすじ③
心を開き始める悠人。
両股小屋で暮らし始めた悠人は忙しく働く淑子を手伝うこともなく、持ち込んだゲーム機でゲームばかりしています。
しかし、家族で渓流釣りに両股小屋を訪れた少年との交流をきっかけに徐々に心を開きはじめ、両股小屋でアルバイトをしているので青年「ガッキー」に釣りを教えてもらいます。
そんなある日、渓流釣りをするガッキーと悠人の前にクマが現れ、助けに向かった淑子が大怪我をして入院してしまいます。
淑子が退院して両股小屋に戻ってくると、そこには少したくましくなった悠人がいました。
北岳での暮らしを満喫していた悠人ですが、嫌な知らせが届きます。
両親が離婚し、親権は義父が持つことになったというのです。
義父の経営する会社は多額の借金を抱えて倒産していました。
悠人には生命保険が掛けられており、そのため命を狙われることになってしまったのです。
両股小屋に悠人と淑子が二人きりになったところに、悠人を殺すように義父から命令された二人の男がやってきました。
【結】風の渓 のあらすじ④
それぞれの結末。
番組収録で北岳に訪れた友梨香。
その様子を登山客や白根御池小屋のメンバー、山岳救助隊員たちが見守ります。
そんな中、夏実は一人の登山客に違和感覚えます。
それは警察の追跡をかわし北岳までやってきた桜井和馬でした。
北岳の麓の警察署から桜井和馬が北岳にきているという情報が入り、夏実は相棒のメイ、同僚の神崎静奈、静奈の相棒のバロンと共に急いで友梨香たちを助けに向かいます。
現場に到着した夏実たちが見たのは、桜井和馬に刺されたテレビクルーたちでした。
和馬は友梨香を追って刺し殺そうとしますが、間一髪のところで夏実とメイに救われます。
一方、両股小屋では淑子から連絡を受けた深町が二人を救うため、悠人の義父から差し向けられた男たちと対峙しています。
深町は男たちに刺され、大怪我を負いますが、淑子は悠人を逃がし、男たちのうちの一人をベアスプレーで目つぶしをしてやっつけます。
悠人はもう一人の男に捕まってしまい、殺されそうになります。
そこへ桜井和馬の逮捕を夏実に任せた静奈とバロンが駆け付けます。
静奈は得意の空手で男を制圧し、悠人は無事に淑子のところに向かい、抱きつくのでした。
風の渓 を読んだ読書感想
北岳を舞台に活躍する山岳救助隊員たちと彼らの相棒の犬たちを巡る「南アルプス山岳救助隊K-9」シリーズの9作目となる作品です。
軸となっているのは同時進行する二人の引きこもりの少年、悠人と和馬のエピソードです。
悠人は山小屋の名物管理人の加賀美淑子ら北岳の自然の厳しさと美しさをこよなく愛する人たちによって心を開き、親から自立をし、再生していきます。
その一方で和馬はアイドルに自分勝手な好意を抱き犯罪を重ねていきます。
二つのエピソードを同時進行させることで生まれるスピード感に引き込まれ、一気に読み終えてしまう作品です。
また、このシリーズにはお馴染みの山岳救助隊員の面々やと救助犬たちとの絆もこの作品の魅力のひとつです。
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