「Schoolgirl」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|九段理江

「Schoolgirl」九段理江

著者:九段理江 2022年1月に文藝春秋から出版

Schoolgirlの主要登場人物

私(わたし)
物語の語り手。世間と接する機会の少ない専業主婦。本を良く読み起承転結を大切にする。

娘(むすめ)
私の長女。インターナショナルスクールに通っていて来年には高校受験。ユーチューブで世界を変えられると信じている。

夫(おっと)
私とは職場結婚。毎月つかい道に困るほどのお金を稼いでいる。

先生(せんせい)
娘の主治医。優秀だが自分の考えを否定されると気分を害する。

彼(かれ)
私の元担当トレーナー。筋肥大のメカニズムについて論理的に説明する。

Schoolgirl の簡単なあらすじ

結婚してまもなく女の子を授かった「私」でしたが、外に出て働くこともないために世の中の流れについていけません。

成長した娘は10代にして人気のユーチューバーとして注目を集めるようになり、家で本を読んでばかりいる私のことを見下すようになっていきます。

本棚にあった1冊の本を手に取ったことがきっかけで、少しずつ親子として向き合っていくのでした。

Schoolgirl の起承転結

【起】Schoolgirl のあらすじ①

若くしてエンドロールが流れる

東京都内で生まれ育った私は短大を卒業してすぐに外資系企業に勤める男性からプロポーズされて、タワーマンションで新婚生活を始めました。

産院で無事に出産するとみんなから祝福をされて、夫の実家が裕福であるために経済的な不安もありません。

私がつらく悲しい小説にひかれるようになったのは、20代にして自らの人生がハッピーエンドを迎えてしまったような気持ちだったからです。

英語で保育を行うプリスクール、イギリス人の家庭教師、最新タイプのノートパソコンにタブレット端末… 教育に熱心な義理の両親から恵まれた環境とほしいものを何でも買い与えられた娘は、動画投稿サイトに夢中になっていきます。

自らが開設したチャンネル「Awakenings」のアクセス数はみるみるうちに増えていき、14歳になる頃にはインフルエンサーを気取るように。

インターネットを通じて環境破壊や社会問題を訴えるようになったのは、同い年のグレタ・トゥンベリの活動に感化されたからでしょう。

【承】Schoolgirl のあらすじ②

ヘルシーメニューにも名カウンセラーにも反旗を翻す

すりおろしたバナナに豆乳をまぜたスムージー、油揚げと小松菜のみそ汁、ブロッコリーのサラダ。

人工知能が内蔵されたシステムキッチンで毎日料理を作っている私は、家族の健康には十分に気をつかっているつもりです。

ある日の朝食で娘がベーコンエッグを残していましたが、食欲がない訳でも体調が悪いのでもありません。

動物由来の食品を口にすることは温室効果ガスの排出量にも影響があり、生態系の乱れにもつながるとのこと。

突如としてベジタリアンになってしまった娘を連れて、私はさまざまな問題を抱えている子供たちの治療を専門とするクリニックに連れていきました。

初回のカウンセリングで心療内科の先生を酷評した娘は、すぐに通院を拒否してしまいます。

私の方はこの先生の物腰の柔らかさと相性がよいようで、とりあえずは次回の予約を入れてみることに。

娘が診察をすっぽかしたことを知った途端に、先生は前回とは別人のように機嫌が悪くなってしまいました。

娘の気持ちが分からないという私の相談に対しても、「14歳になってみれば分かる」と投げやりなアドバイスを出すだけです。

【転】Schoolgirl のあらすじ③

34→14で感受性を取り戻す

病院を出た私はそのまま渋谷へ向かい、駅前にあるビジネスホテルの302号室にチェックインしました。

クイーンサイズのベッドの横で腕立て伏せをしながら待っていたのは、以前に通っていた世田谷区内にある会員制ジムで専属トレーナーをしていた彼です。

デスクにはプロテインドリンクや栄養バランスバーが置いてあって、有酸素運動を終えた後に常温で摂取すると効率が良いとのこと。

勤務先が倒産してから今日までの満たされない日々を打ち明けてきた彼、実年齢は30歳をすぎているものの胸の内は14歳のようにときめいている私。

シンプルに欲求を満たしあったふたりは後腐れもなく別れて、今後はいっさいお互いの生活に干渉するつもりはありません。

帰りのタクシーの車内でスマートフォンから「Awakening」にアクセスしてみると、アップロードされたばかりの新着動画が。

無意識に手を伸ばしてタップすると、画面には拡大された娘の顔が現れて話しかけてきます。

【結】Schoolgirl のあらすじ④

時をこえて親子の架け橋となる名著

話題のベストセラーも古今東西の文学作品も、ウィキペディアで検索するだけ要点をつかんでしまうという娘。

ニュースに関心がなくウォークインクローゼットにたくさんの本をためこんでいる私のことを、以前からこのページで批判していました。

そんな娘が珍しく心をひかれて手に取ったというのが、太宰治によって1939年に発表された「女生徒」です。

ファンの女学生から送られてきた日記を太宰がフィクションとしてリライトしたという、ドキュメンタリーでもあり歴史的な資料とも言えます。

裏表紙に貼られている「中学校図書」というラベルを見れば、私が14歳の時にこの本を12回も借りたことが分かるでしょう。

当時の私が夢中になって読み返したように、娘も今まさに活字中毒になろうとしているところだそうです。

家に帰る頃にはすっかり遅くなっていたために、デリバリーのおすしを注文します。

相変わらず娘は魚や貝に手をつけようとしませんが、彼女のことを自分の所有物だと思うのは今日限りでやめにするつもりです。

明日は早く起きてゆっくりと話したいという私の言葉に、娘は眠そうな声で「うん」とだけ答えるのでした。

Schoolgirl を読んだ読書感想

たいした苦労も経験せずあっさりと勝ち組の仲間入りをして、誰しもがうらやむような優雅な暮らしを送っている主人公。

タワマンの高層階に住んでいるために三半規管の調子が優れないというのは、セレブリティならではのお悩みですね。

そんな母親を反面教師として、思春期まっただ中に突入した娘が「革命」に目覚めてしまうのも無理はありません。

学生運動に身を投じるのでもなく市民デモ行進に参加するのでもなく、仮想空間から訴えかけていくのがいかにも今どきの子です。

決して相いれないはずの母娘を結びつけることになる、80年以上も前に出版された紙の本に不思議な運命を感じました。

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