「きことわ」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|朝吹真理子

「きことわ」

著者:朝吹真理子 2011年1月に新潮社から出版

きことわの主要登場人物

貴子(きこ)
ヒロイン。本を読むのが好きなために国語教師になる。恋愛への依存度が強い。

永遠子(とわこ)
貴子と姉妹も同然に育つ。子どものころはお転婆だった。甘党で特に黒糖まんじゅうが好物。

春子(はるこ)
貴子の母。心臓に疾患を抱えていて長くは生きられなかった。

和雄(かずお)
春子の弟。気象学に詳しく天文雑誌で不定期にコラムを連載中。

淑子(よしこ)
永遠子の母。料理がうまく掃除も隅々まで行き届く。

きことわ の簡単なあらすじ

毎年夏休みになると海辺の別荘に滞在していた貴子は、管理人として雇われている淑子の娘・永遠子と仲良くなっていきます。

肉親以上の絆で結ばれていくふたりでしたが、成人後はそれぞれが家族を持ったり仕事が忙しいために自然と疎遠になり音信不通です。

貴子が33歳になり永遠子が40代に突入した年、ふたりは老朽化がひどくなった別荘の取り壊しに立ちあうために久しぶりに顔を合わすのでした。

きことわ の起承転結

【起】きことわ のあらすじ①

坂と海の家に流れる少女たちの時間

株をやっていた祖母は葉山町の坂をのぼった先にある貸別荘を購入できるほどはぶりが良かったですが、貴子が生まれてすぐに他界しました。

海風が吹き込んでくる2階建ての木造建築は部屋数が無駄に多いため、体が弱い母親の春子では手が回りません。

新聞広告に出した管理人募集を見て面接にやってきたのが淑子、娘の永遠子は貴子よりも7歳ほど年上です。

子どもの世話をするのが大好きだという春子の言葉に甘えて、淑子は職場に永遠子を連れてきます。

晴れた日には徒歩10分ほどの浜辺で大はしゃぎ、雨の日には水族館で回遊魚やウーパールーパーに大興奮、夜になると背中合わせで寝そべり絵本の読み聞かせ。

大学病院で外科医を務めていた父親はまとまった休みが取れないために、貴子にとっては毎年恒例の葉山行きが唯一の楽しみです。

そんな最中に春子があっけなく若死、貴子は小学3年生で永遠子は高校1年生。

おじの和雄が貴子を葉山以外の場所に連れ出すようになったために、永遠子とは連絡を取っていません。

【承】きことわ のあらすじ②

冬の避暑地はキラキラが格別

夏涼冬暖の葉山ではめったに雪がふることはありませんが、一度だけ貴子はあの別荘地の中庭で雪だるまを作ったことがありました。

3月12日、中谷宇吉郎が初めて人工結晶の精製に成功した日。

雪博士と称されたこの理学博士のことを和雄はとても尊敬していて、貴子にも熱心に伝記や関連書籍を紹介してきます。

角柱、樹枝、扇形、六花、十二花… 採取した雪を顕微鏡でのぞき込んでみると、天然の結晶がひとつとして同じ形をしていないことを教えてくれたのも和雄です。

この日は永遠子の誕生日であることを覚えていましたが、当の本人はもういないためにお祝いはできません。

大学を出てから職らしい職を持たずにいた和雄が、突如として資産管理会社に勤め始めたのが春子の3回忌が執り行われたあと。

「資産管理」といえば別荘には誰も通わなくなっていたために、このまま相続税だけを払い続けるのは無駄でしょう。

合カギを預かってオフシーズンにメンテナンスをしてくれていた淑子も、高齢のために骨折をしてしまいこれ以上は任せっきりにできません。

和雄が葉山の家を引き払うことを決意したのは、最後の貴子と永遠子の対面から実に25年ぶりのことです。

【転】きことわ のあらすじ③

生きてる限りは巡り合える

恵比寿駅から湘南新宿ラインへ乗車、逗子駅前の有名店で永遠子のために大福もちと栗鹿の子を購入、ロータリーでバスに乗り換えて松影の重なる停留所で下車。

ひと足先についた貴子、別荘は時が止まったかのように建っていて更地にするのが惜しいほどです。

約束の時間になると呼び鈴がなり、玄関にはばっさりとショートカットにした永遠子の姿が。

鎌倉の和菓子屋で正社員を数年間、百貨店の営業担当者と結婚、夫と逗子市内のマンションに入居、女の子を1人授かっていて小学3年生。

かつて一緒に笑ったり泣いたりしていた15歳の女の子が今年到達する、40歳という年齢を具体的には想像もできません。

一方の貴子は独身のまま春子の享年に並んでいて、中学生たちに国語を教えています。

付き合っていた男性と別れたこと、妻子のある人だったこと、心中計画まで立てたものの決行直前で思い止まったこと。

ディープな打ち明け話をしてくる貴子に対しても動じることもなく、永遠子は「死ななくてよかった」と淡々としていました。

【結】きことわ のあらすじ④

私たちの遊び場をたたむ時

2階に積まれていたのは貴子の本と春子の遺品であるレコード、まとめてダンボールに詰めて自宅に送ります。

午前中にはリサイクルショップの店員がやってきて、めぼしい家具や食器はそれなりの値段が付きました。

「謝礼」と書かれた現金入の封筒をそっと差し出す貴子、淑子の代理できただけだと遠慮する永遠子。

押し問答をしていると勤め先を抜き出してきた和雄が合流、髪をきっちりと整えてスーツを身にまとった姿にふたりは大笑いです。

荷物の発送と後片付けはリビングに午後の光が射し込んできた頃には終わり、雨戸を閉めれば他にやることはありません。

来月の前半になれば家屋全体がブルーシートで覆われて、重機が搬入されてあっという間に解体されてしまうでしょう。

明日は全身筋肉痛になるのは間違いありませんが、心地よい疲労感にも満ちあふれてきた貴子と永遠子。

携帯電話を開いてお互いのスケジュールを確認すると、近いうちに遊びに行くための約束するのでした。

きことわ を読んだ読書感想

ロイヤルファミリーもバカンスを楽しまれるという上品なあの土地で、期間限定で友情を育んでいくふたりの女の子を見守っている気分になるでしょう。

本来であれば7つ上の永遠子がお姉さんのような存在になるかと思いきや、貴子の方が主導権を握っているのが面白いですね。

20年以上の時をこえた再会もドラマチックな演出を用意することもなく、静かにリアリズムに徹して描かれています。

しっかり者だったはずの貴子が愛に生きる女として迷走中、夢見がちだった永遠子が地に足をつけた主婦。

うまくいかない人生のほろ苦さを味わいつつも、年齢を重ねたふたりの大人のお付き合いも見てみたいです。

コメント