著者:伊佐山ひろ子 2010年6月にリトルモアから出版
海と川の匂いの主要登場人物
るい子(るいこ)
ヒロイン。地元の女学院を卒業後に役者の道へ。体当たりの演技と豊満な肉体が武器。
三谷コージ(みたにこーじ)
るい子の先輩。お酒が大好きで毎晩のように飲み歩いている。
小山(こやま)
るい子の同期。演出家になるのが夢で執念深い。
木山律(きやまりつ)
歌手と役者を器用に両立している。面倒見がよく愛妻家。
野代(のしろ)
激しい性描写が売りの映画作家。素顔はシャイで感激屋。
海と川の匂い の簡単なあらすじ
田舎町で生まれ育ったるい子でしたが、高校時代に見た1本の外国映画に感動したのがきっかけで女優を志します。
東京でアルバイトをしながら演技を学んで仲間たちとの交流も深まっていく中で、ついに出演が決まったのはポルノ作品。
故郷への引け目を感じながらもカメラの前でありのままの自分をさらすことによって、生まれ変わったような喜びを得るのでした。
海と川の匂い の起承転結
【起】海と川の匂い のあらすじ①
るい子が住んでいる町は海のすぐ側で採れたての魚介類のにおいが漂い、細い水路のような川が流れていました。
夕方になると夏のお祭りの名残りのように花電車が通り、玄関口を出てすぐが線路になっているためにるい子は表へ飛び出します。
市電の地面よりも高くなったところに駅名を書いた板が立てかけてあって、色とりどりの電球で飾った車両が遠ざかっていく様子は燃えているかのようです。
小学校の2年生くらいから体格がよくなったるい子、高校は女の子ばかりの学校でしたが放課後になると校門裏で年上の彼が待っていました。
彼との初めてのデートは映画館、2本立てのラインアップで古い洋画、お互いに家族がある男女が恋に落ち傷つけ合うのが大まかなあらすじ。
白いスカーフをなびかせた女の人がオープンカーで海沿いを走るラストシーンは、悲しい訳ではないのに涙が止まりません。
卒業後に上京を決めたるい子、出発する駅ではクラスメートや彼が列車が走ると同時に白いハンカチを振ってあの映画のように見送ってくれます。
【承】海と川の匂い のあらすじ②
演劇養成所に入ったるい子は父親より少し年下くらいの男優、三谷コージに気に入られて稽古が終わってから新宿ゴールデン街まで連れていかれました。
中央線の先にあるコージの家では劇団の人たちとバーベキューをしたり、みんなでギターを弾いたり秋田音頭歌を踊ったりしています。
撮影所が近いこともありすっかり居心地が良くなったるい子は、何日も続けて泊まることが多いです。
プロデューサーに呼び出されたのは芸名についてですが、自分の新しい名前を考えることはそう簡単ではありません。
夏に生まれたので日向葵、テレビの朝のニュースから思いついた今日未明子… いずれも却下されてしまい珍しいし覚えやすいということで、本名のままでデビューすることになりました。
女ふたりがひとりの男を巡って争い、泡だらけになりながら快楽に溺れるという台本。
心配なのは10分か15分に1回は用意されているヌードシーンで、両親や近所の人が見ればあの「るい子ちゃん」だと1発でバレるでしょう。
【転】海と川の匂い のあらすじ③
るい子が下宿しているのは近所に定食屋と古本屋が建ち並んでいる学生街で、道玄坂までは歩いていけます。
さらに坂を下っていくと渋谷の住宅街にある養成所、ここで同い年の小山と演技論を熱心に交わすようになりました。
バイト先の喫茶店で待ち伏せをしたり、アパートまで押し掛けてきてドアをたたいたりと徐々にその行動はエスカレート。
そんな時に相談に乗ってくれた相手が木山律、レコードを何枚かリリースしていて俳優としても有名です。
下北沢の不動産と知り合いで明るくきれいな部屋を紹介してくれて、家賃は高いもののこの沿線の相場では妥当でしょう。
木山とは家族ぐるみの付き合いとなったるい子、3人の男の子を育てている妻の静子にもお世話になっていました。
「家族」と言えば東京に出てきてひとりで羽を伸ばしているるい子、実家にはいまだに今度の新作について報告していません。
静子のアドバイスに従って母に電話をかけてみると、誕生日のお祝いと祖父が亡くなったことを告げられます。
受話器を置いたとたんに涙が止まらなくなったるい子に、そっとティッシュと温かいおでんを差し出してくれたのが静子です。
【結】海と川の匂い のあらすじ④
市営バスを乗り継いで田んぼと小さな森を抜けると撮影所の門、植え込みの芝生の上では裏方が一服しながらゴロゴロと横になっていました。
いちばん年下のるい子はみんなから声をかけられますが、異性というよりも娘のように見られているのでしょう。
ラブシーンのある映画を撮っている人たちに限って恥ずかしがり屋で、特に野代監督は女優さんがふざけて近寄ってくるとどこかに逃げ出してしまいます。
撮影したこま切れのフィルムを見るだけのラッシュ、関係者だけの0号試写、映画評論家や記者を招いてのお披露目… 当日にいつもより念入りにメイクアップをして服装にも気を配ったのは、画面に出てくる役と本人がまったく別人とガッカリされたくなかったからです。
スタッフロールが流れて拍手が沸き起こると、野代は 目をうるませながら「みんな、ありがとう」と答えています。
数週間後には全国で公開されることになり、その時にこそ自分にとっての新しい物語が始まることをるい子は確信しするのでした。
海と川の匂い を読んだ読書感想
序盤はノスタルジックな海辺の街並みを背景にして、ひとりの純朴な女の子がはしゃぎ回る姿が映し出されていました。
幼い少女からセーラー服の似合う高校生へ、青春時代を満喫しつつ大人の女性へと成長していく様子がアルバムのように切り取られています。
初めてできた恋人に導かれるように足を踏み入れたのが、街角のミニシアターだというのも運命的ですね。
銀幕のヒロインへの憧れを胸に抱いたまま、ついには大都会への切符を手にするシーンにワクワクが止まりません。
「白い指の戯れ」や「女囚さそり」などのタイトルと著者を結び付けた方は、かなりの映画通でもあり熱心な日活ロマンのファンと言えるでしょう。
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