著者:上畠菜緒 2020年2月に集英社から出版
しゃもぬまの島の主要登場人物
待木祐(まちきたすく)
二十代前半。マツリカ広告出版社に勤務。
翠子(みどりこ)
祐の母親。
萩祐(はぎすけ)
翠子の恋人。島で亡くなった人の遺骸を萩祐の船に乗せ、本土の火葬場へ運んで、骨を持ち帰る。
菅黄雲(かんきうん)
島の大地主。九年母苑という果樹園を持つ。
紫織(しおり)
黄雲の娘。祐の幼友達。
しゃもぬまの島 の簡単なあらすじ
ある日、アパート住まいの待木祐のもとに、しゃもぬまがやってきました。
しゃもぬまは、祐が小学校までいた島で飼われていた獣です。
しゃもぬまがやってきた家では、家族の誰かが死に、しゃもぬまに連れられて、天国へ行く、と言われているのですが……。
しゃもぬまの島 の起承転結
【起】しゃもぬまの島 のあらすじ①
待木祐はマツリカ広告出版に勤める若い女性です。
そこではアダルト雑誌を作っていますが、情熱もスキルもない祐は、雑用をこなして、毎日いそがしく働いています。
祐は疲れて眠るとき、小学校まですごした島でのことを夢に見ます。
島はほとんどが菅黄雲という大地主の持ちもので、あちこちに、島独特の夏みかんを栽培する彼の農園があります。
そのうちのひとつ、高田高次が管理する高田苑では、しゃもぬまを世話しています。
しゃもぬまは、中型犬くらいの大きさの、ロバに似た獣です。
またしゃもぬまは、果樹園の下草を食べて糞をし、その糞を踏んで肥料にすることと、死んだ人を弔う、という役目を持っています。
ある日祐は、黄雲の娘の紫織といっしょに小学校をサボり、高田苑に来ました。
たまたま熟れた夏みかんが落ちていたので、皮をむいて少し食べます。
食べかけを持って帰るつもりでしたが、その場に置き忘れてしまいました。
皮をむいた夏みかんは、しゃもぬまが食べる可能性があります。
食べたしゃもぬまは天国へ行けず、首をはねて殺されるのです。
そんな夢のあと、祐の部屋をノックするものがありました。
しゃもぬまです。
しゃもぬまは「迎えに来ました」と言ってなかに入ると、祐のベッドで寝てしまったのでした。
【承】しゃもぬまの島 のあらすじ②
紫織の妹の美織は、島や家族を嫌って、祐と同じ本土の町に来ています。
昼はペットショップで働き、夜はバーで働いています。
祐はしゃもぬまにせっつかれて散歩に出ました。
しゃもぬまは川原で食べられる草を探し、あまり乗り気でない草を食べます。
祐は美織に連絡して、干し草を用意してもらいます。
あとで取りにいくと、「しゃもぬまを殺そう」と言われます。
しゃもぬまが訪れた家では、家族の誰かを差しださなければならないのです。
差しだされた者は、天国へ連れていかれます。
それは島の言い伝えであり、本土では誰も知らないから、こっそり殺してしまおう、というのでした。
一方出版社では、祐の先輩が出社しなくなりました。
祐は彼の代わりに呉先生のところへポルノ小説の原稿を取りにいきます。
すると先生は、自分が代わりにしゃもぬまを引き受けてもよい、と言います。
それは先生と結婚する、ということを意味しました。
先生も実は島の出身だったのです。
祐は昔のことを夢を見ました。
祐が置き忘れた夏みかんをしゃもぬまが食べたらしく、管理者の高次がその首をはねたこと。
あるいは、母が働く水産加工場でおばさんたちが噂しています、母は菅黄雲に凌辱されて祐を産んだ、たくさんお金をもらったのに、なぜ島に残っているのか。
そんなことを夢で見たのでした。
【転】しゃもぬまの島 のあらすじ③
呉先生が失踪しました。
家は空き家になっていました。
先生から未完成のポルノ小説を預かっていて、祐が完成させるようにと言われていました。
祐は編集長にかけあって、自分が完成させた原稿を雑誌に載せてもらうのでした。
そんなある日、紫織が祐のアパートを訪ねてきます。
彼女はいま、大学の仏教研究室にいる学生です。
きれいなのは相変わらずですが、生活臭が強く、くすんだ印象です。
しゃもぬまを見て驚く彼女を、祐は夕食の買い物に連れていきます。
スーパーで肉を見た紫織は、気分が悪くなってもどしてしまいました。
それ以来、紫織は祐のアパートにしょっちゅう来るようになりました。
ある日、祐は菅黄雲とバーで待ち合わせます。
黄雲はしゃもぬまを自分に譲るように言います。
実はこっそりとしゃもぬまをさらったのですが、いつの間にか祐のアパートに戻ってしまうのだそうです。
祐は、小説家に譲ると約束したので、と嘘をついて黄雲の頼みを断りました。
アパートに帰ると、やってきた紫織に絞め殺されそうになりました。
紫織は、ただただ父親が好きで、父の愛情を獲得したいのです。
それなのに、祐がしゃもぬまを父に返そうとしている、すると父ひとりが天国に行き、地獄に落ちる自分は父と離れ離れになってしまう、そう思って祐を絞め殺そうとしたのでした。
【結】しゃもぬまの島 のあらすじ④
祐は、子供の頃仲のよかった知恵遅れの女性の葬儀に出るため、島にもどりました。
母から、母と仲のよかった黄雲の妻、ミキのことを聞きます。
黄雲がしゃもぬまを取り返そうとしているのは、妻を天国へやらせないためです。
ミキは死にかけています。
母の恋人の萩祐に話を聞きました。
彼は、島で亡くなった人の遺体を本土の火葬場に運ぶ役目を負っています。
あるとき、老人の遺体を運ぶときに、しゃもぬまが乗りこんできて、本土で降りたそうです。
それが祐のところへ来たしゃもぬまでした。
そのしゃもぬまは体が弱って死にかけています。
同時に、祐もまた死にかけたように生気を失っています。
祐は紫織の手を借り、しゃもぬまを連れて、萩祐の船に乗りこみます。
島に向かい、ミキが閉じこめられている船に乗りうつりました。
ミキにしゃもぬまを返すため、祐はまず、異母姉妹である紫織にしゃもぬまを譲ります。
紫織は母に文句を言います。
父に愛してもらえる母が憎かった、と。
それから、しゃもぬまを母に譲りました。
祐は斧でしゃもぬまの首を切り落としました。
ミキは首のなくなったしゃもぬまに乗って、遠い世界へ旅立っていきました。
そうして、たぶんミキのものである夢のなかから、祐と紫織は生還したのでした。
しゃもぬまの島 を読んだ読書感想
第32回小説すばる新人賞受賞作品です。
現実世界があり、夢の世界があり……と、思っていると、しだいに現実と夢の世界の区別がつかなくなっていきます。
不思議な小説です。
それでいて、「ただフワフワした不思議な世界」にはなっていません。
しゃもぬまはどうして祐のところへ来たのか? 黄雲がしゃもぬまを欲しがるのはなぜか? 祐はしゃもぬまを誰に、どうやって譲るのか? といった謎があり、一種のミステリー小説のように物語が展開するのです。
だから、ハラハラドキドキしながら読み進むことができました。
そして、読み終わると、登場する各人の、愛という名のエゴイズムに打ちのめされ、おなかが重くなるような感じがしたのでした。
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