著者:小林泰三 2013年9月に東京創元社から出版
アリス殺しの主要登場人物
栗栖川亜理(くりすがわあり)
主人公の大学院生。不思議の国でアリスが犯人として処刑されるのを防ごうとしている。
井森健(いもりけん)
亜理と同学年の大学院生。聡明で、今作における探偵役。
ハム美(はむみ)
亜理のペットのハムスター。毎晩亜理からその日にあったことを聞かされている。
アリス(ありす)
ハム美の不思議の国での姿。物語中では亜理と勘違いされている
トカゲのビル(いもりのびる)
井森の不思議の国での姿。地球での姿と違い頭が悪くのんびりしている。
眠りネズミ(ねむりねずみ)
亜理の不思議の国での姿。不思議の国ではずっとアリスのポケットの中で寝ている。
アリス殺し の簡単なあらすじ
最近、不思議の国に迷い込んだアリスの夢を見ている亜理の周りで、夢と連動して人が死んでいます。
夢の中では連続殺人の犯人だと疑われたアリスに死刑の危機が迫ります。
アリスの処刑を防ぐため、トカゲのビルである井森と共に調査を始めますが、ビルもアリスも不思議の国で犯人に殺されてしまいます。
現実世界で亜理が犯人を追い詰め、犯人は処刑されますが、不思議の国の赤の王が目覚めたためすべての世界が消滅して終わります。
アリス殺し の起承転結
【起】アリス殺し のあらすじ①
亜理は最近ずっと不思議の国に迷い込んだアリスの夢を見ていました。
アリスはポケットに眠りネズミを入れており、行動を共にしていました。
不思議の国ではハンプティ・ダンプティが塀から落ちて死んでしまい、騒ぎになっています。
事件の調査には帽子屋と三月兎があたり、彼はこれは殺人事件だと主張します。
現実世界では、王子玉男という博士研究員)が屋上から落ちて死んでいました。
亜理が同学年の井森に実験装置の予約を譲ってもらうために会いに行くと、井森は不思議の国でアリスとビルが決めた合言葉を言うのでした。
井森から不思議の国と現実の世界は連動しており、不思議の国の自分が死ねば、現実世界の自分も死ぬと教えられます。
不思議の国では帽子屋と三月兎がアリスが殺人犯だと断定し、アリスに処刑の危機が迫ります。
亜理は、アリスが処刑されるのを防ぐため、井森と共にこの事件を調査することを決めるのでした。
不思議の国でアリスはビルと共に行動しますが、現実世界の井森と違ってビルは頭が悪くぼんやりしていて、頼りになりません。
それでもなんとか、事件の目撃者である白兎が現実では李緒という人物であることを突き止めます。
しかし、不思議の国で新たにグリフォンが死んでいるのが見つかりました。
そして現実でも同じ大学の篠崎教授が死亡していました。
【承】アリス殺し のあらすじ②
不思議の国では今回もアリスがやったのだと決めつけられています。
殺害時刻はビルと一緒にいましたが、彼の記憶力では信用性がないため、新しい証拠を探すことになります。
篠崎研の広山准教授、田畑助教に話を聞くと、広山=公爵夫人、田畑=ドードーであることが判明します。
亜理は広山にアリスが犯人でないことを証明する手伝いを頼みます。
また、グリフォンの死因が大量の牡蠣による窒息死であることが分かります。
不思議の国の牡蠣は喋れるため、生き残りの牡蠣から話を聞こうとしますが、犯人の名前を言う前にビルが牡蠣を食べてしまいます。
現実では、二人の元に谷丸、西中島という刑事が訪れ、彼らも不思議の国を知っているようでした。
亜理たちは刑事たちには不思議の国での正体を隠すことにします。
亜理が李緒と不思議の国のことについて話していると、包丁を持った男には李緒が刺されて死んでしまいます。
彼女は『レッドキングには誰も絶対に勝てない』と言い残し、刺した男も自殺してしまいます。
不思議の国では白兎が死んでおり、アリスに有利な証人が次々にいなくなってしまいます。
【転】アリス殺し のあらすじ③
亜理は井森と共に現実世界で調査を進め、篠崎研の田畑には篠崎教授を殺害する動機があったことが分かります。
公爵夫人が帽子屋を捜査官にすることに反対したこともあり信用できると判断し、現実で広山が田畑を、不思議の国でアリスたちがドードーを追及することになります。
ドードーは自分が疑われていると察して口をつぐんでしまいます。
その時、ビルに公爵夫人から手紙が届きます。
そこには知らせたいことがあるから至急、公爵邸の裏庭の物置小屋に一人で来てほしい、と書かれていました。
そして、現実世界では谷丸たちが亜理たちの元を訪れ、井森の死体が発見されたことを伝えます。
彼は野良犬に食い殺されており、無残な姿になっていました。
不思議の国でビルは怪物に食い殺されていましたが、彼はアリスに『公爵夫人が犯人だということはあり得ない』とダイイングメッセージを残していました。
これまでの出来事から、広山が公爵夫人ではなくメアリーアンであることに亜理は気が付きます。
広山は十年以上前から現実と不思議の国の繋がりには気がついていて、出世のために篠崎教授を殺したと白状し、広山は拳銃自殺しました。
不思議の国では、アリスがメアリーアンに首、手首、足を拘束されてしまいます。
実は不思議の国の方が現実の世界で、地球が夢の世界だったことが分かります。
そのため、広山が死んでもメアリーアンは無事だったのです。
彼女はアリスに身体が大きくなるキノコを入れたクッキーを食べさせ、首、手首、足首を切断して殺そうとします。
死の間際、アリスはポケットから眠りネズミをつかむと外へ逃がしました。
【結】アリス殺し のあらすじ④
地球では広山が勝利を確信していました。
しかし、亜理が現れたため彼女は驚愕します。
実は亜理はアリスではなく、アリスと行動を共にしていた眠りネズミだったのです。
そして、アリスの正体は亜理が飼っているハムスターのハム美でした。
そしてそこに二人の刑事が現れます。
広山はしらを切ろうとしますが、谷中が女王、西中島が公爵夫人だったことが判明します。
彼らは広山が嘘をついていることに気づき、ずっと調査していたのでした。
そして不思議の国にて、メアリーアンは処刑されることになります。
しかし、処刑に不慣れだったため、メアリーアンは死にきれず大変ひどい苦しみを受ける事になるのでした。
そして、この騒動のせいで、ずっと眠り続けていた赤の王様、レッドキングが目覚めようとしていることが分かります。
地球は赤の王様が見ている夢の世界のため、彼が目覚めると地球は消えてしまいます。
夢と現実が雑じりあい混沌としていく中、世界の消滅を嘆く亜理でしたが、地球に現れたチェシャ猫から、赤の王様が再び眠ればまた新しい世界が始まると聞かされ、次の世界がいいものであるように願うのでした。
アリス殺し を読んだ読書感想
文体こそ読みやすいですが、かなりエキセントリックでグロテスクな作風なので人を選ぶと思います。
特に、不思議の国のアリスがモチーフになっていることもあり、キャラクターたちの言動があまりにも常軌を逸しているため、普通のミステリーのように読み進めるのは難しいかもしれません。
しかし、その中にしっかりと張り巡らされた伏線と、先の読めない衝撃的な展開の数々は間違いなくおもしろく、一気に読了してしまいました。
また、事件を解決するための夢オチではなく、事件が解決した後で何もかも破壊する衝撃的な結末もかなり印象的です。
ハマれば最高のエンタメミステリーだと思います。
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