著者:石田夏穂 2022年1月に集英社から出版
我が友、スミスの主要登場人物
U野(うの)
二十九歳の女性。ジムで身体を鍛えている。物語の語り手である〈私〉。
O島(おーしま)
四十八歳の女性。元ボディ・ビルの選手。BB(ボディ・ビル)協会の理事。Nジムの会長。
E藤(えとう)
元ミス・ユニバース。青山でステージングのレッスン・スタジオを経営。Nジムのスペシャル・コーチ。
T井(てぃーい)
三十三歳の女性。O島の一番弟子。Nジムで〈私〉のパーソナルを担当。
S子(えすこ)
Gジムの会員。大手美容クリニックに勤める外科医。PP(パーフェクト・プロポーション)大会に毎年出場。
我が友、スミス の簡単なあらすじ
フィットネス・ジムに通いだして一年余りの〈私〉は、ある日、往年のボディ・ビル選手のO島から、新ジムへスカウトされます。
スミス・マシンが三台もあるNジムへ移った〈私〉は、BB(ボディ・ビル)大会めざして、身体を作っていきます。
しかし大会は、単にマッチョな身体だけではなく、女性性が求められるために、〈私〉はさんざんに苦労することになります……。
我が友、スミス の起承転結
【起】我が友、スミス のあらすじ①
〈私〉は、ここ一年余りGジムに通って、全身の筋肉を鍛えています。
このジムの欠点は、スミス・マシンが一台しかないことです。
〈私〉はスミス・マシンを使ってトレーニングしたいのですが、なかなか空かないのでした。
ある日、Gジムでトレーニングしていた〈私〉は、O島という女性からスカウトされました。
彼女は自分のNジムを立ち上げるにあたり、ボディ・ビルの大会をめざす会員を勧誘しているのです。
O島自身、かつては大会に出ていたボディ・ビルダーであり、いまは大会を主催するBB協会の理事でもあります。
〈私〉はNジムを見学に行きました。
そこにはスミス・マシンが三台も置かれ、非常に魅力的です。
しかも、Gジムより高額の月会費についても、BB協会主催の大会に出場する場合、かなり割引きされるのです。
〈私〉はNジムに入会しました。
BB(ボディ・ビル)大会にも出場するつもりです。
女性のBB大会はミス・コン的な要素もあるため、その日から〈私〉は、ショートだった髪を伸ばしはじめます。
週七回Nジムに通います。
五回は個人、二回はパーソナルのトレーニングを行います。
〈私〉の身体は別人のように改造されていきました。
BB大会まで七か月です。
【承】我が友、スミス のあらすじ②
〈私〉は、GジムにいたS子という美容外科医のことを考えます。
彼女は毎年、パーフェクト・プロポーション大会に出ているそうです。
そういう目で見ると、やたらと自分を撮影してSNSに載せていたのも、すべて大会へ向けての準備だったことがわかります。
これまで、チャラチャラした女、と軽蔑していた〈私〉は、彼女を見直したのでした。
やがて、NジムからBB大会に参加する選手の発起会開かれました。
選手が一人ずつ呼ばれ、O野が身体を見てアドバイスします。
〈私〉の番になりました。
O野はけっこうほめてくれて、予選を通るかもしれない、などと言います。
〈私〉はすっかり有頂天になりました。
ところがその日、スペシャル・トレーナーとして呼ばれていたのがE藤。
元ミス・ユニバースの女性です。
〈私〉はE藤からきついダメ出しを受けました。
BB大会では女性らしさも求められるため、ピアスをし、プロンズの肌に焼き、脱毛しなければならないのでした。
〈私〉は大急ぎでピアスの穴をあけ、ニードル脱毛を梯子し、日焼けマシンで肌を焼くのでした。
それから、競技用のビキニも選びます。
もちろんトレーニングは続きます。
〈私〉は無理なトレーニングをやって、ひじと手首を痛めてしまいました。
【転】我が友、スミス のあらすじ③
大会まで七十日を切って、O島とE藤による二回目のコンディション・チェックが行われました。
〈私〉は、減量しすぎ、と注意されました。
一方、〈私〉のパーソナルを務めるT井は、O島から、減量がなってない、と、きつく叱られます。
それは師弟関係があるからこその叱咤でした。
〈私〉は淡い嫉妬を覚えます。
さて、大会に向けて、化粧のノリをよくするために、〈私〉は古い角質を除去するケミカル・ピーリングを受けます。
大会まで四十日となり、E藤によるポージングのレッスンが始まりました。
〈私〉はE藤に勧められた赤いビキニを着て、ウォーキングのレッスンを受けます。
ところが、履いたことのないハイヒールに苦しめられるばかりです。
E藤から、次までにハイヒールに慣れるように、と指示されます。
〈私〉はすぐに、室内用と室外用に二足のハイヒールを買い、懸命に足を慣らしました。
努力の甲斐あって、二回目のレッスンでは、ハイヒールを履きこなしていたのでした。
その翌日、新婚の弟夫婦との交流のために実家に帰った〈私〉は、たまたまテレビで放映されたボディ・ビルの特集をめぐって、母と言い争いになります。
実家を出たとき、〈私〉はこだわるものができたことを自覚し、いまの怒りをむしろ歓迎するのでした。
【結】我が友、スミス のあらすじ④
大会まで一週間。
四回目のポージング・レッスンが行われました。
〈私〉は、ポーズは堂にいったものになりましたが、笑顔がない、とE藤に指摘されます。
〈私〉のなかに疑問が生じました。
表情は審査対象でないのに、なぜ女子の大会だけは笑顔を作らなければならないのか? 男子の大会では、無表情を通す選手もいるというのに。
〈私〉はそれを無理に割り切って、大会に臨みました。
出るからには勝たなければなりません。
〈私〉が出場するカテゴリーには五十二人がエントリーしています。
十二人ずつにグループ分けして、予選が行われ、上位二人が決勝へ進むことになります。
出番が近づいてきて、幕裏で準備を始めます。
グループ十二人のうち、〈私〉は三番手かな、と当たりを付けます。
十五番と十七番がすばらしい身体をしているのです。
予選結果は〈私〉の予想通りでした。
決勝へ進めなかった〈私〉は着替えようとしますが、急にスタッフの動きが慌ただしくなりました。
十五番がドーピングでひっかかったのです。
去年までは許可されていた筋肉増強剤を飲んでいたのです。
十五番は他の大会にも出まくっていて、さして落ち込む様子もなく退場します。
〈私〉は、十五番の鍛え抜かれたすばらしい肉体美を思うと、全然納得いきません。
決勝に出た〈私〉は、反抗心から、ハイヒールもピアスも取ってしまうのでした。
大会後、〈私〉はもとのGジムに戻ります。
〈私〉はGジムで、純粋に自分の身体を鍛え上げるためだけにトレーニングに励むのでした。
我が友、スミス を読んだ読書感想
第45回すばる文学賞で佳作を受賞し、第166回芥川賞候補作となった作品です。
一読して感じるのは、まず、ストーリーがわかりやすく、かつ、おもしろいということです。
ストーリーがわかりやすいのは、ヒロインがボディ・ビルの大会をめざしてがんばる、というほぼ一直線のお話だからです。
文章もユーモラスで、読みやすく、なにを言ってるんだろう、と頭を悩ませることはありませんでした。
そして、読み進むうちに、がんばるヒロインに共感し、まるで自分自身も汗をかいているような気分になって、ドキドキしました。
芥川賞の候補になる作品で、こんなに興奮するとは、正直思いませんでした。
本作は、ボディ・ビルに打ち込む女性を描いていますが、ボディ・ビルに限らず、なにかひとつのことに打ち込む女性がこれを読むと、励まされるのではないか、という気がします。
まずは女性にお勧めしたい作品です。
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